01
私の婚約者は私の義妹に恋をしている。
「リリー、今日のきみも素敵だね」
そう言った後に彼がちらりと見るのは窓の外。
僅かに声が漏れ聞こえているから庭に妹のアリスがいるのがわかっている。
私も彼と同じく少しだけ視線を外に移す。
妹は私とは違い、常ににこにこと可愛らしく笑うことができる可愛い子だ。
「ありがとうございます、クリス様」
少ししか笑みを返せない私とは大違いだ。
「近頃学園で少し忙しくてね、リリーと一緒に過ごせないのがとても辛いよ」
紅茶を口に含むその姿は昔と違い天使のような少年ではなく精悍な青年の姿だ。
日に当たり輝く金の髪、ルビーのように煌めく赤い目。
学園では赤の貴公子と呼ばれていると聞いた。
赤の貴公子が夢中なのが癒しの乙女なのだとも。
この国で使える者が少ない、人の傷を治すことができる光魔法。
それが使えるのは私の義妹であるアリスだ。
だからこそアリスは癒しの乙女と言われているのだろう。
「そうですわね、クリス様も色々立て込んでいらっしゃるご様子。お疲れではないでしょうか」
その言葉にクリス様はいつものように甘く微笑む。何も知らない人が見たら私のことを好きなのではないかと思ってしまうような、甘い、微笑み。
「ここでリリーと一緒にいることができるだけで癒されるよ」
彼の社交辞令はいつものことだ。
言葉とは裏腹に彼は義妹であるアリスに惹かれている。
けれども彼はそれを隠し、私の前では私を愛しているという風に振る舞う。完璧な婚約者だ。
けれども。
彼が惹かれているのはアリスだ。
アリスと話している時のクリスフォードは普段私に見せない顔をする。
ーーわかっている。彼が妹を愛するのはそういう運命だからだ。
よろしくお願いいたします。