8冊め 『オーラバトラー戦記』異世界転移原点
[カドカワノベルズ] 著者:富野由悠季
"フェラリオ"と呼ばれる妖精によく似たミニサイズの種族が出てくるお話。
フェラリオに惹かれて、この作品に興味を持ちました。
(※作中の言葉を使うなら、妖精サイズがミ・フェラリオ、エルフサイズがエ・フェラリオ。耳の戦端は尖ってなかったかもしれない)
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昭和のアニメ"聖戦士ダンバイン"をご存じの方は、小説版も知っている! という方も多いのでは。
ダンバインを手掛けられた富野由悠季氏による小説『オーラバトラー戦記』。原作ではなく別展開ですが、大筋は同じ。
ダンバインと同舞台である異世界。"バイストン・ウェル"の物語のひとつです。
"ひとつ"というのは"バイストン・ウェル"を舞台にしたお話は、『リーンの翼』や『ガーズィの翼』、OVAでのサーバインなど、多岐に渡る作品展開をしているからなのですが、そちらまで絡め出すともう手に負えなくなるので、ここでは、さらっと流す程度にして。
今回私が選びましたのは、『オーラバトラー戦記』です。
最初に出た新書版が断然好み。文庫版だと多少内容変わってますし、初期絵師が出渕裕先生ではなかったりするので。
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主人公は城毅、通称ジョク。
アニメのショウ・ザマとは別の男性なのですが、召喚された先が"アの国"で、彼につくフェラリオはチャム・ファウという点は同じ。
でも乗り込む機体はダンバインではなく、カット・グラという名前で……って、ダメですね。アニメを混ぜて語ると、ややこしくなってしまいます。
つまり異世界に戦力として転移させられ、そこで特別な力(強いオーラ)を持った"聖戦士"として身を置くことになる、勇者召喚の定番設定です。
そして生身で戦うわけではなく、"オーラバトラー"と呼ばれる機体に乗り込んで戦います。
西洋ファンタジーとロボットの融合。
これを作者である富野先生は1986年に書かれたわけですね。
アニメはもっと早く『ダンバイン』1983年。えっ、もう何十年前……?
時代の先取りにも程があるというか、これがあったから支持・賛同して追随する人が増えたのか、そのあたりは詳しくないのですが。
じゃあ特別な力で無双できるのかといえばそうではなく、本文はかなり泥臭く、どう見てもR18以上で、シリアス。でもその分リアルさがたまらないのです。
倒した相手に初めてとどめをさせるジョクの葛藤をはじめ、お姫様助けるはずが自身も相当情けない恰好晒したまま必死で無様だったりと、スマートさとはかけ離れています。
ちょっぴりガッカリです。
ですが、その分すごく現実味がありまして、好きです。
さて、"バイストン・ウェル"の物語といえば、主人公に寄り添う小さな妖精が目を惹きます。
"フェラリオ"という呼び名で、もちろん私もソレに求心されたクチですが、作中ではこの"フェラリオ"の位置づけがかなりシビア。
愛らしい"フェラリオ"は、マスコット? ――ではなく、この世界では【堕落の対象、性的誘惑者】として嫌悪されています。
驚くやら、刺激強いやら。
読んだ時、未成年だったものですから相当戸惑いました。アニメでは当然カットされてた描写です。
お話の最後、どうなったのかなぁ……。確か、作品の根底として、難しい上にあまり救いがないので、記憶を封印した内容だった気がするのですが……。
しかし、そのあたりを差し引いても強く強く影響を受けました。
"バイストン・ウェル"に。
海と陸のはざまにある異世界に。
だってそんな奇抜な設定、当時はファースト・インパクトだったものですから。現代なら、山ほどありますのにね。
あと総じて感じたのは、富野先生の作品は馴染みのないキャラ名が多い、ということ。
沖縄っぽかったり、トルコっぽかったり。
『ガーズィの翼』(※)ではクズル・ウルマクにガジアンテップ。思いきりトルコの川名と地名ですが!!
そんでその地名にワクワクしたトルコ馬鹿は私。あああ。
いつか検索して富野先生の思いや由来をいろいろと調べてみたいと思う一方、これ以上深みにハマるのもどうかと自重して今日に至っているのでした。
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[2021.3.6.追記]
ちなみに小説『オーラバトラー戦記』ですごく印象に残っているのは、騎士バーンの情婦ステラが情報収集のため、旅先の簡易娼館で咄嗟に客を取るくだり。
腕輪を落としたふりをして相手の気を惹いたり、手口が気が利いてて面白かったといいましょうか。
泥臭くて性的表現にドキドキしたといえば佐藤賢一先生の『傭兵ピエール』も相当でした。
「なろう」さんじゃ引っかかるレベルかな。中世の道徳観て。絶対タイムスリップとかしたくないです。