7冊め 『亜州黄龍伝奇』香港の四聖獣に刮目
[トクマ・ノベルズ] 著者:狩野あざみ
この世界は始原の黄龍が夢見ている世界。黄龍の目覚めと共に、世界は消える。
で、あるのに、【黄龍を手に入れたものは世界を制する】 そう伝説がねじ曲がったものだから、黄龍を手に入れたい者達により、古来から歴史の裏で黄龍争奪戦が行われてきた。
しかし、起こされたくない黄龍は、四聖獣(青龍・白虎・朱雀・玄武)を世に置き、密かに己の眠りを守らせてきた――。
そんな設定で展開される物語。
黄龍を起こすための道具も存在していて、キーアイテムとして時々登場します。それがまたイイ。
主人公、工藤秋生は日本人で大学生(男)。今世における眠れる黄龍。(自身の眠りの中で人間として何度も転生を繰り返し、世界を堪能中?)
訪れた香港で、事件に巻き込まれたことから半覚醒してしまう。
世界を創った最強の龍が寝ぼけている状態。黄龍としてではなく、人間としての立ち位置で、秋生が振るう力の強大さと言ったら!! カッコイイの一言につきます。
この作品を読んだ当時「なろう」さんのなかった時代だったので、彼の無双っぷりにホレボレしました。
従者にあたる青龍・白虎・朱雀・玄武も揃って秋生に侍りますので、爽快痛快。面白さ増し増し。
ちなみに青龍・白虎・朱雀・玄武は全員、秋生と違って人外の自覚がありまして。それぞれ今世でいろんな立ち位置にいるところが、お話の幅広さにつながるところ。
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"青龍"ビンセントは青年実業家で、黄龍至上主義。黄龍さえよかったら、あとどうでもいいよね?的な徹底姿勢で秋生最優先。香港に彼の住むとこまで世話しちゃいました。権力・財力・知謀・美貌全てを備えた切れ者青年が、平凡ともいえるおっとり青年に尽くすなんて……美味しすぎる……。あっ、いえいえ。コホン。
"白虎"ヘンリーは黒社会ことヤクザなドン。黄龍に対しては跪いても、秋生にはフランク。いろいろ大胆なのに料理好きとかお茶目。
"朱雀"セシリアは同年代の美人。めちゃ強いので、ほぼ日頃のボディガード。秋生には遠慮なし。現代では彼とはイトコに当たる関係。
"玄武"ユンミンは小船で暮らすひょうきんな老人。香港って水上生活者もいるのかぁと文化が学べました。
見た目かなり違うけど、たぶんほぼ皆同い年。推定5000歳。←?!
21歳の秋生を中心に、その関係性からなる個性的豊かな会話と、テンポよくやらかす大規模なアクションまで見どころ満載でした。
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作中の舞台になった香港があまりに魅力的に描かれていて、私はこれを読んだために人生初の海外旅行は「香港」にしたほどでした。
同時期に井上祐美子先生著の『長安異神伝』も読んでいて、今回の"小説10選"でどちらを選ぼうか迷ったのですが、人生に影響したという意味(初海外旅行)と、『亜州黄龍伝奇』の絵師様が山田章博先生で美麗すぎた!!という点、そして終わり方の満足度で『亜州黄龍伝奇』をセレクトしました。
1991年の作品なので現在の香港は様変わりしていると思いますが、シリーズで数冊刊行。いまは全て中古作品となってる、かな?
うろ覚えですが、秋生の名前は秋に生まれたから秋生、だった気がします。それでいいのか、ご両親よ。
(何もないと寂しいのでイメージちゃうけど置いてみたもの)