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1-2.幕間 深層に座する少女
此処は、ダンジョンの最深部。光沢感のある黒い壁に囲まれ、扉も窓も一切無い。正しく世界に切り離されたこの部屋で、その姿だけははっきりと捉えることが出来た。
均等に配置された平面の、その中心に座する少女。
五分丈の袖とスカートの裾、それぞれにフリルを備えた漆黒のワンピースを身に纏い、僅かな身動ぎにすら揺らぎを起こす腰まで伸びた黒髪。それらの黒さと透けるような肌の白さとの対比がその現実感を失わせる。
少女の身体がピクリと震え、その面持ちを上げる。
「また、やってきた」
あどけなさの残る可愛らしい。しかし、その声音はといえば感情の籠らない無機質な音。
その声に応える者は誰も居ない。
けれども少女に気にした様子はなく、虚空に向かって独白を続ける。
「見覚えがない、新たな業。業を喰らう為の糧になるか。新たな業を誘い込む礎となるか」
少女の言葉は続く。誰にも何も、届かぬまま。
「その業は、正しきもの?」
最後に紡がれたその言葉。
その問い掛けに応える者はやはり誰も無く、夜空を詰め込んだかのような黒壁へ呑み込まれるように消えていった。