第八十三話 今日はこれまで
お待たせしました
「ふぅ……」
それを誰が言っただろうか。言った本人は無意識故に分からない。
ただし分かる者がひとり。廊下で待っていたハンナには確かに分かっていた。客観的な視線がそれを捉えるのだ。
故に聞こえた方向に顔を向ければ、そこには三人の人影。
腰にややふらつきを見せる周り二人を差し置いて、先程呟いた真ん中の一人はするりと此方へ話しかけた。
「ごめんねハンナさん、待たせちゃったね」
「いえいえ、是非もありません」
ハンナは旗を降ろし、代わりなのだろうか首を振った。
その真実は雰囲気を読めるアダマスによく伝わる。
「いやいや、悪かったと思っているよ?」
「あらあら、坊ちゃまが謝る必要などありませんことよ、私にはなんの事だかさっぱりですし」
シャルとマーガレットは砕けた腰で床に座り、身体中から栗の花の香りを漂わせてドキドキワクワクと、映画を見るかのように成り行きを見る。
いやいやお前らはそういう態度で見ていられる立場でもないだろう、後で懲らしめてやるからなと、アダマスは心の奥に深く刻んで身体は一歩前へ進んだ。
懐に手を入れて捧げる様に差し出す。
「ところでハンナさん、さっき帰る途中にボクの部屋にちょっと寄って、ちょっと取って来たんだけどね。ちょっと見くれないかい」
「何でしょうか?」
クィと覗き込んだそこにあるのは、一枚の白い布。骨格が入っているのだろう、ナプキンやスカーフのようにヘタった様子はない。
周りにフリルが付けられるそれは『メイドカチューシャ』と判断できた。
まさか用意してあるとは。つい口元を両手で覆ってしまう。
片目を大きめに開き、ワッと声を出しそうになった。
「そういえば皆で服を買いに行った時のお土産。ハンナさんに渡してなかったね。良かったら貰ってくれないかな?」
「まあまあまあ、有難う御座いまする」
そう言ってハンナは今被っているものと付け替えたのだった。
◆
その後、迷路状になっていた地下道の最後に行き着いたのは沢山のモニターや見知らぬ機械が沢山ある部屋だった。
「ハンナさん、これは一体……」
「此処は、ラッキーダスト邸の『本体』で御座います」
ハンナが言うには太古に宇宙の向こうからやってきた、移民用巨大オーパーツ。
このフレームを基にラッキーダスト邸は改築を続け、大切なところは地下に埋めてあるという事らしい。
そして大真珠湖にある巨大な像が、実はここから操作可能でかつては大真珠湖の水龍や湖賊などと戦っていたそうである。
「ふうん、つまり扉に彫られた初代様が巨大に見えるって、比喩でもなんでもなくて、本当に巨人みたいなのが動いていたんだなあ」
「あら、今でも動かせますわよ?動かしてみましょうか」
「いやいや、大丈夫」
「ウフフ。冗談です」
ハンナが大きなモニターを背景に、そこらの台座に腰掛けた。
モニターには巨人の像から見たラッキーダスト領全体が映っている。それはアダマスが知っているところもあれば、知らないところもあった。
そしてこうして上から見ているだけでは、正に今居る此処のように解らない場所も多いのだろう。
「さあ坊ちゃま、次は何処に行きましょうか」
モニターの光でハンナの艶やかな微笑みがボンヤリと映る。
アダマスは何処にしようかと考え、シャルとマーガレットに視線を送り頷くと、言葉を送った。
「取り敢えず今日はお腹が減ったから食堂に行きたい」
今日の冒険はこれにて終了である。
読んで頂きありがとう御座います。
少しだけ描き溜めていた分を消化し、打ち切り気味ですが、これにて完結とさせて頂きます。
リメイク版の【ショタなボクと妹と年上ハーレムのスチームパンク恋愛喜劇】も、宜しければお願い致します。




