第七十八話 なんだかんだでノリノリで話すツンデレ
レオナは周りと自分を比べてボゥと思う。窓から差し込む日の光が少し気持ちいい。
一口に水を全ては呑む気になれなかった。
そんな彼女をジィと見ているのは水を渡したアダマスで、つい返す刃で話題を振った。表向きは鬱陶しそうに。
「なんだよ。水が欲しいならお前もあるだろ」
「ああ、そうじゃないんだ」
彼は蝶々のように両手を広げ、ガバリと妹二人の肩を抱きこむ。
これといって二人は驚く様子を見せず、むしろ、そして何故か興味津々にレオナを見る始末だ。
「さっきの話題がヒートアップして『ピクニック行くなら、山のどの辺かなー』って話になったんだ。でも奥まで入り込んだことないボク達には結局そういうのはよく分からないって結論に至ってね。
だからプロのレオナに聞いてみようって事になったよ」
「ふぅん。あっそ、まあ本格的なダンジョン探索って訳でもないし別に良いけどよ」
「おおー」
子供組の拍手に頷くと、山を走る一本の線を指差した。
川だ。大真珠湖に繋がる幾つかの川が、此方からよく見えた。
「まあ、基本は川沿いだな。
この辺はマスが登るための川が沢山あるからな。
漁業組合が、人が不十分しないようにそれなりに整えている。
それとは別にいざって時、ナイフ一本ありゃよ、水源がしっかりしてれば大体どうにか出来るし」
言って、何時も肌身離さず付けているベルトからバックルナイフを取り出す。
暗記とは思えない程に大切に研がれている刃は普通にナイフとして使われるのだろう。
背中はノコギリ型で擦って整形などに。厚めの刀身なので何かを叩いて割るのにも便利そうだと、想像力が膨らむ。
「成る程なぁ。でもレオナならナイフが無くてもどうにか出来ない?」
「どうって?」
「こう、歯でギコギコやると石が削れたり?」
「人をなんだと思っとるんだ……出来るけどよ。
でも、なるべくやらないなぁ。やっぱ必死で覚えた技術だから大切にしたいし、新人にも伝えていく為にも錆びさせたくないしな」
そう言って爪の表面をナイフで擦り、火花を出した。彼女の能力があれば指パッチンひとつで出来る事だが、なるべくこれで火種は賄っている。
なのでアダマスはもっと手を叩いた。パチパチと。
「うわぁ。レオナ凄いっ!折角だしそれのやり方とか教えてよ」
「ん、ああっ。勿論良いぞ。しかし『そんな物』を持ち歩くなんざ物騒だな」
キラキラした目で見る子供三人。対照的にアダマスの手元には無骨で物騒な軍事用ナイフ。
サーベルよりも接近戦では有効だとハンナから渡されているものである。
少しだけ呆れたが、レオナは得意な顔で軍事用ナイフでのサバイバル法を楽しそうに語り出している内に注文のパスタが来るまでそう時間はかからなかった。
◆
「それで、これが凄く美味いって言うパスタね」
「まあまあ、食べてみなよ」
「そんな美味いのかい」
「それは食べてみないと分からないなあ。アッハッハ」
己の横顔を彼の笑い顔へ向けると、目の前に出された木皿を一瞥した。
メリアン亭名物マスのクリームパスタ、一皿110ルメハなり。四人前で440ルメハ。
お代は全てアダマス持ちなので、食べて懐が痛むものでもなし。
具材の目玉はなんといっても新鮮なままの鮮度をよく維持され、脂が抜けないままの肥えた鱒。
それをクルクルとフォークに巻き、手打ち平麺に絡めてスルリと口に入れる。
眉間にシワを寄せて舌に意識を集中。
脂の濃度と肉の旨味から40cm級の大きなものを使っていると推測。なるほど確かに良い材料だ。
しかし、これくらいの素材ならギルドの食堂でもたまに使われる時はあるのではないだろうか。
素っ気ない感想を述べる。
「美味いっちゃ美味いんけど。まあ普通だな」
「ええ、ほんと!?」
アダマスは目を見開いて大袈裟に驚愕の仕草。
彼の隣に座っているマーガレットも口元を押さえて「信じられない」とワザとらしい動作である。
「こんなに美味しいのになあ」
彼は手元にある赤いソースが絡まる細麺のパスタをチュルンと口に含んで、頷きながらモクモクと咀嚼した。
それをレオナはジト目で見ているのは、彼のパスタだけ種類が違っていて、少しだけ値段が高いものだからである。
ワタリガニのトマトクリームパスタ、一皿160ルメハなり。
大量のワタリガニを縦一文字に割り、豪快にパスタへ盛り付けた一品。トマトの酸味へ白ワインの甘味を加えたソースと一緒にお楽しみ下さいとの宣伝文句。
「前、美味しかったし」という理由で皆にマスのクリームパスタを注文したというコイツだけ、何故か別の料理を注文していたのである。
「いやいや、種類が違っているなら意味ないだろ」
「あ、それもそうか。じゃあボクに食べさせて」
「まあ、元々はお前の金だし良いけどさ。ほらよ」
レオナはどこか渋々といった感じで己のパスタを巻いて正面のアダマスへ差し出した。
そこへ彼が頭を前に出して、餌付けされる犬かのようにパクリと食べるのは自然な流れである。
小動物のようだなと少し表情が綻んでしまいそうになったが、無意識のプライドがそうしたくないと言っている。
「うーん、おいしぃ!美味しいじゃないかレオナ」
「ああそうかい、そりゃ良かったな」
一方でプライドなんてないのだろうか彼はパァと心の底からの笑顔である。
見る側は面白くなさそうに頬杖を突いていた。
まるで自分だけが取り残されたようなモヤモヤした気持ちが下腹に残るのだ。
普通に走るだけなら光よりも速く走れるのに、このフィールドでは何にも追い付けないのはおかしなものであると己を心の中で皮肉げに笑った。
自然と片頬が釣り上がる。
一口メモ
ルメハは『貝殻』の意を指す『アルメハ』から。
銅貨一枚20ルメハ、銀貨一枚200ルメハ、金貨一枚2000ルメハ




