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第六十八話 ちびっ子軍団に包囲される椅子

「なーにをしとるんだ、お前達は」


 皆でワイワイしていると後ろから声をかけられる。

 その声に覚えがあったので、アダマスは楽しく後ろを振り向くと、予想通りの人物が居た。赤い髪のレオナである。

 彼女は腰に手を当てて溜め息を吐いた。

 しかし、こんな所に何故レオナが?とも感じるが、それは彼女の事情で聞くのは野暮な事なのだろう。

 売り物台にネズミ耳カチューシャが置かれていたので、アダマスは己に嵌めてパァと両手を広げる。


「見ての通りさ!」

「いや、どんな通りだよ」

「……ごめん。ちょっと勢いに乗りすぎた」

「ああ。うん、私もぶっきらぼう過ぎたな。すまん。もう一回やろう」


パン。


 マーガレットが何時も持ち歩いているタンバリンをパンと叩くと一言放った。


「ではリトラーイ」

「……」「……」


 そして沈黙。

 一拍置いてアダマスは両腕で姉妹の肩を組んで、互いに頷くと全員でピョンと高く飛び跳ねた。

 組んでいる腕を空中で解くとそのまま個別に横回転。着地と同時に思い思いのポーズを取る。


「「「見ての通りっ!!」なのじゃ!」」

「おっ、おう!そうか!」


 頑張って勢いに乗ろうとするが乗り切れない様を隠し切れないレオナがそこに居た。

 ならばと子供軍団は雪崩になってレオナを丸椅子に腰掛けさせる。彼女を包囲する子供軍団の手元には色様々なアクセサリーが持ち寄られていた。


「それで、ちみっこ共。なにをしたいかは大体分かるんだけど、私にそりゃ似合わねーだろ」

「いやいや、やってみなきゃ分からないさ」


 座る事で物凄い身長差のある状態から、少しだけ身長差がある程度になったアダマス。

 彼は造花が連なったアクセサリーを取り出して、レオナの側頭部へ、何らかの勲章であるかのように付けてみせた。

 自身を鏡で確認した彼女は大袈裟ではないが少し興味を持った様子で何気なく聞いた。


「んで、こりゃ花の髪飾りかい?」

「そう。コサージュだね。

元々は式典とかで胸に付けて『卒業おめでとう』とか札を垂らすものだけど、お洒落として髪に付けるのも流行っているんだ。

オシャレ眼帯とかに使ってる人とか見ない?」


 たしかにギルドのカウンターから見える景色を頭に浮かべると心当たりが幾つかあった。アーサーが派手すぎてあまり目立たないけど。


「ああ、確かに女冒険者とかでたまに見るな。花の形した眼帯とか」

「でしょ?

さて、レオナは燃えるような赤髪だし、対照的な藍色の花が似合うんじゃないかな」


 そうしてアダマスはコサージュ整える。

 しかしその横から含み笑いで近寄る白い影があった。シャルだ。


「クックック、お兄様もまだまだじゃの。赤い髪に藍い花では黒味が混ざって逆に目立たんじゃろて」

「ふむ、面白い意見だ。さて、シャルはなにかあるのかな?」


 アダマスは嬉しく企むような雰囲気だけ浮かべて、売り物のネコ柄扇子で笑う口元を隠す。

 こちらの方が雰囲気が出るからで、特に理由はない。

 ついでにマーガレットもイヌ柄の扇子を広げると口元を隠して、雰囲気の為に効果音を言い放っておく。


「んごごごごご。

尚、使った扇子は後でちゃんと買いましたっと」

「妾のオススメは寧ろ白い花じゃっ!

普段シャキッとしとるレオナじゃからこそ、ギャップ差で萌えるのじゃ」


 白ユリを模したコサージュが掲げられる。

 少し大振りで、しかもフワフワとして、メルヘンな印象があった。


「おおー、じゃあソレも付けて確かめてみようよ」

「よっしゃ。では妾が付けて……付け……」


 シャルが取り付けようとするが、微妙に頭に届かずピョンピョンと飛び跳ねる。

 苦笑いを落としてレオナは屈もうとするが、アダマスはシャルの脇に手を差して持ち上げた。

 持ち上げられてとても嬉しそうな顔が、丁度同じ目線に立つ。

 既に付けられていた藍花に添え付けた。


「付いたっ!

どうじゃ、青とセットでなんかイントネーション効いてるじゃろっ!」

「ふーん。良いセンスしてるじゃん」


 二色の花が仲良く並ぶ。

 似合うか似合わないかの話はシャルの中で何処かに行ってしまったらしいが、別に構わなくなった。

 レオナは少し照れつつ鏡で弄りながら視線をアダマスへ向けると親指が立てられる。

 関心が無さそうな口調とは裏腹に、ニコリと口を弧の字に曲げるのである。

 その流れでアダマスは上半身を大きく旋回させて、向く先はマーガレット。


「え?えーっと、コレ?」


 目を合わせられた少女は兄と同様親指を立ててみるが、首を振る事から違うらしい。

 レオナはマーガレットの片手を指差した。


「あー、惜しいなぁ。

さっきからモジモジとなんか用意しているでしょ。たぶん、自分が流れで指名された時用のものかな。

折角だし開いてみなよ」

「え、ええと、良いの?」

「良いから。良いから」


 するとマーガレットは己の後ろに垂らしてあったものを掴んで差し出してみせた。

 それは大きな金のリングのイヤリング。

 ただし、リングの中央には『飾り』が付いている。


「……クマさん」


 それはテディベアのイヤリング。

 マーガレットは怖さ半分、期待半分の純粋な目でレオナを見ると、見られた彼女は固まったが、言い出した手前、付ける事には変わりない。

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