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第六十七話 友達と行こうオシャレ通り

祝、ユニーク7000!ありがとうございます。

 シャルが猫耳になってから暫し後。

 赤と黒のタイルが敷かれた、とある大通りにて。


 道の脇には窓ガラスの嵌め込まれた店が幾つも連なり、窓の向こう側には主に服やらアクセサリーやらが色鮮やかに飾られていた。

 そうしてとても華やかな雰囲気が作られているので『オシャレ通り』と呼ばれている。

 本当はもっと味気ない名前なのだが、若者たちがいつの間にかそう呼んで、定着していたのだ。本当の名前を知る者は滅多に居ない。


 もう少し時間が経てば着飾った若者で賑わうものの、肝心の顧客層は講義やら冒険者のアルバイトやらで人影は少なかった。


「ほっぷ、すてっぷ、じゃーんぷ」


 通りのタイルの黒いところだけ踏んで、ピョンピョンと飛び跳ねるのはアダマスだ。

 やる必要はないが、何時もが賑わっている場所だとやってみたくなるものなのだ。

 今日は訓練に軽い仕事の後、黒い半ズボンに繋いだサスペンダーでブラウスを包み、赤縁丸メガネという地味目な格好。

 バネのような独特なモミアゲがフルフルと揺れ、存在感を際立たせる。彼は後ろに振り返ると、妹二人に促した。


「それじゃ二人も来なよ」

「おおっ、分かったのじゃお兄様。アナタのシャルが今行きますのじゃ」


 後ろでは猫耳ヘアのシャルが前に乗り出すが、何かに気付いたように訝しげな表情で上半身を横に回す。

 そこにはパーカーを着たマーガレットが居て、よく分からない様子でシャルに尋ねる。


「どうしたの、お姉ちゃん?」

「『どうしたの?』じゃ、ないじゃろ。マーガレットも来るのじゃよ」

「ほんまでっか」


 しかしタイルは一人が立てばいっぱいの面積だ。だが、互いに片足を立て、互いの腕を組む二人一組になって前を見た。こうしてタイルに立つのは実質一人になる。

二人同時に腰を落とすと、小さな足場にも関わらず一気に飛び跳ねる。


「ほっぷ、すてっぷ……おや?」

「これは大変だ。次の着地地点が無いね」


 ニヤニヤするアダマスは目の前に来た二人に言った。

 彼が言う通り、立っている位置以外に黒いタイルは見つからない。

 腰に手を当て片手を広げ「もう手はないかな」という動作をする彼に対して、シャルは人差し指を振っておく。


「チッチッチッ、それが出来るんだのぅ。お兄様」

「おっ。何か案があるのか。よしっ、やってみようか」


 シャルは自慢の八重歯を見せ、ニカリと笑ってみせる。シャルとマーガレットは互いの肩を組んだ。

 そして二人は小さな黒タイルの上でクルクルと駒のように爪先を軸に回るのだ。


「いくぞ、マーガレット!」

「ガッテン!」


 遠心力を爪先に溜め切ったタイミングで、二人同時に腰を落とし、仲良く一気に飛び跳ねる。


「シスターズ……」

「大回転ジャーンプ!」


 行き先はアダマスの胸。彼はこの対応に目を見開くも、腕を広げて受け止めようとして、その通りになった。

 衝撃に対して身体強化魔術で姿勢を固定、腰を踏ん張り、二人の妹を両手で支えてみせた。かなりの衝撃が彼を襲うが耐えてみせる。

 その後、重心が安定化したところで魔術を解き、二人を両肩に乗せた。


「そーきたかぁ」

「言いつつお兄様だって魔術用に呼吸をスタンばっていたじゃないかの」

「まあねー。ほら、周りがよく見える」


 そうしてアダマスは二人を持ち上げつつ、周りを見回せさせた。手を広げてはしゃぐ二人。しかし何か思い出したように少し残念そうに眉はハの字。

 窓ガラスに映る妹二人の顔を見て、アダマスは問いかけた。


「おや、どうしたのかな?」

「せっかく可愛い髪型にしたから見せびらかしにオシャレ通りに来たのじゃがのぅ。こうも人が少ないと残念なのじゃ」

「たしかにねぇ。でも、良いところだってあるよ。普段は人混みでゆっくり見れない部分をいっぱい見れるって事さ」


 そう言って二人を持ち上げながら、どこにそんな元気があるのやら。ひとつ大きなアクセサリー店へ来ていた。普段は人で一杯な大手の店である。

 アクセサリー店とは銘打っているものの髪飾り、イヤリング、マニキュア……アクセサリーを中心とした様々な商品が並んでいて興味深い。

 二人は兄から降りると、それらを手を取って見てみた。

 特に普段からメイドとして高級アクセサリーに慣れているマーガレットは、かなり厳重にアクセサリーを叩いたり、質感を確かめたりと訝しげに見る。


「おや、マーガレットは不満かな」

「なぁんか、銀の純度とか宝石の質感とか、ボッタくられてるいんしょ〜」


 彼女はそう言って銀の指輪同士をキンキンと叩きあわせ、フクロウのように首を大きく捻り、無表情でアダマスを見た。

 すると彼は付け耳を売り場から取り出して、ニマニマと笑いながらマーガレットに付けてみる。

 垂れた犬耳のカチューシャだ。


「ま、こういうのは買う事自体も娯楽だから。サービス料さ」

「なんでこんなトコに付け耳が売っているのか、些かやや疑問」

「クックック、マーガレットよ。

そんなモンなのじゃよ。シルバーアクセの店に革製品が売っていたり、本屋と銘打って黒いカーテンの向こうに大人のオモチャが大量にあったりな」


 ニョキリと生えたような姉の意見に肩を竦める。


「関係あるのソレ」

「まあまあ、文句ばかり言っているぞ大きくなれないぞ」


 文句を楽しみながら、アダマスはそこらのガラスケースの上へ立て掛けてあった小さな鏡を持ち出してマーガレットへ見せる。

 そこには当たり前だが、犬耳が付いたマーガレットが映っていた。


「ホラかわいい」

「む、もう一言」


 マーガレットが人差し指を立てて言うと、直ぐさまシャルが別のアクセサリーを取り出して、首に付ける。

 犬の首輪を模したチョーカーで、デフォルメした犬の顔の飾りが付けられている。


「ならばこれでどうでしょう、お犬様」

「なら許す」

「よっし、許された。おや、これも可愛いかも知れないね」


 別のアクセサリーが差し出される。

 そうして買うアクセサリーが、割高なのにも関わらず増えていくのであった。

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