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第六十六話 わくわく動物ランド

「何を言おうとしたかじゃとな」

「うん、まだ聞いてなかったし。

いや言いたくなくなったなら後でで良いんだけどさ」


 着付けを終えたアダマスは、肩を竦めベッドに腰掛けながら言った。

 彼は片方の手でシャルが作ったモミアゲを弄る。

そしてもう片方の手では、いつの間にやら膝枕されるマーガレットの腹を撫でていた。

 彼女は撫でられる度に、気持ち良さげに身体をくねらせる。

 それを何処かで「良いなぁ」と思いつつもシャルは腕を組んで悩み語った。


「ううむ。例えばじゃよ?例えばじゃ。

既に解決した問題でも言った方が良いのかや?」

「言うと気が楽になるかも知れないけど、そこはシャルのさじ加減だと思うな。マーガレットはどう思う?」


 再びモミアゲを見せつけるように手を動かした。ビロンビロンと。

 そし今度のもう片手では、マーガレットの首の辺りを撫ではじめるのだ。

 すると彼女は楽しげに、そしてシャルにもしっかり聞こえる程度には少し大きめの声での返事を上げる。


「にゃにゃにゃにゃーん。

私は野生に帰っている最中なので判断はご主人様に任せますにゃーん」

「いやいや、それって野生じゃないじゃろ。明らかに飼い猫のソレじゃろ」


 マーガレットは聴く。

 彼女は膝枕の位置を頭から腰へ動かし、脇腹のマッサージをアダマスから受け、そして顎に手を当てた。

 思い付き、ポンとグーとパーで手を鳴らす。口を開く。


「野生の忠犬なんですにゃん。忠犬は生まれた時からご主人様に首ったけなんですわん」

「猫か犬かハッキリせんかい。どっちの属性もあるなんて贅沢じゃろ」

「なるほど、確かに贅沢だワニャン。そこら辺の設定はご主人様に任せますワニャン……あー、そこそこ。

気持ちいい」


 マッサージが効いているのだろう、少し気怠げな声色で首を鳴らす。

 それを見てシャルは自分が罪に感じる事など本当はどうでも良くて、マーガレットを優先させたいのかと心に孤独感を覚えたが、察するアダマスはそろそろかなと話を振る。

 虐めすぎも良くない。


「贅沢なのは、今は置いといて」

「……」


 両手で置くジェスチャーをするのはアダマスで、対するシャルは無言である。


「このモミアゲをシャルがやってしまったって事に罪悪感を覚えているから謝りたいって事だったんだと思うんだけど、大丈夫?」

「謝るタイミングを逃してしまってのぅ。ごめんなさいなのじゃ」

「まあ、あるあるだよねそういうの。今謝る事が出来たのだから良いじゃないか。偉いぞ、シャル」


 膝枕で寛ぐマーガレットを撫でながら、どこぞの悪の組織の偉い人みたくフワリとした微笑みを浮かべた。

 その対応に真の意味でシャルは胸を撫で下ろす。

 妹のその気持ちを見つつ、今度の彼は両手で拾うジェスチャー。


「……で、置いておいたものを拾ってだ。

マーガレットが犬と猫で贅沢なので、猫成分をシャルに与えよう」

「えっ!?」

「嫌なら良いけど」

「いや、嫌という訳でもないのじゃが、突然の事にどうするべきか」


 シャルはワタフタと両手を動かした。

 アダマスはその様子を伏せ目で見つつ、ウキウキとしている。マーガレットも後ろから彼に犬のように抱かれつつ、同様の伏せ目で小さく笑っていた。

 ハンナが口を開いた。


「取り敢えず、猫っぽくなれば良いのではないのでしょうか」

「ううむ、猫っぽくのぅ……」


 思い付く事もないので、手で猫耳を作ってピコピコと指を動かしてみせた。アダマスに向かって尋ねてみる。


「にゃーにゃー、猫ちゃんじゃよー。どうかや?」

「へぇ、どうかなマーガレット」

「ワンワン!」


 伏せ目のままにマーガレットは一声(?)上げて、そこにシャルは相変わらずどうしたら良いか分からず、手で猫耳を作ったまま固まった。

 そして変なモミアゲをプラプラと揺らすアダマスは、深くひとつ頷いて彼女へ無常なる一言を笑顔で語りかける。


「ダメらしい」

「……あっ、それってダメって意味だったのかや!分からなかったからどうしたモノかと。

まあ、妾も安直過ぎてどうかと思ったが、実際問題どうすれば良いかの?」

「まあ、それに関してはハンナさーん」

「はいはーい」


 控えていたハンナがヒョコリと出てきて、近くに置いてあった椅子を引き、シャルに腰掛けるよう促した。


「先ずはこちらへどうぞ」

「ふむ」


 座る。

 するとハンナがワゴンから様々な道具を取り出して、美容師でも通じる速度でシャルの髪型を整え出した。

 先ずは彼女の頭のてっぺんとサイドの間の、最も出っ張った部分(ハチ)の髪を束にして後ろへ捻る。

 それがつむじの辺りまで達したところを髪留めで固定。

 出来上がった髪型を見せるため、鏡を渡す。


「はいお嬢様。『猫耳ヘア』でございます」

「おおー、これは中々。どうかや、お兄様」


 そこにあったのは髪の毛を束ねて猫耳を模した髪型だった。少し頰を赤らめて、えへんと胸を張ってみる。


「ああ、良いかも。おいで、シャル」

「はーい。なのじゃ」


 そうしてシャルは勢いよく、マーガレットにぶつからないようアダマスへ抱き着くのである。

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