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第六十一話 大好きなこの世界を護るために

 気合の咆哮と共に板の全てが爆散。

 オズワルドは仰天を隠せず、ただ目を見開く。しかし直ぐに自分を失わせまいと己への気付けを入れ、笑って返す。その『返事』は悪人らしい悪人だった。


「レオナめ、まさかここまで規格外だったとは。

だが遅い。既にスイッチは押されたのだ。これから大気圏外からのビームがこの土地を焼き払うだろう。

ウハハハハ、残念だったな!」


 対するレオナは無言。肉食獣を思わせる獰猛な表情で、静かにニィと笑うばかりだ。


「出来るさ。今の私にはその為の力があるのだから。

レオナァァァ……ウィング!」


 彼女は前屈みになると炎のようなオーラが全身から吹き出した。

 同時に背中からは爆音と共に火柱が昇り、段々と形を変えて巨大な鳥の翼を模る。

それを目いっぱいに広げると、彼女は腰を落として大地を踏みしめた。


 そして人知の及ばない高さまで一瞬で跳躍する。

 正に『目にも留まらぬ』と云う表現で、巨大な足跡と衝撃波を残して視界から消えてみせたのだ。

 残像を残しながら生身を以って音速の壁を超え、亜光速にまで達した彼女はすぐさまオゾン層へ到達。

 目の前には宇宙からのビームが直ぐそこまで迫っているのが分かる。

 全てを塵に還さんとするビーム光がレオナの身体が一瞬逆光により真っ白になるが、子供と約束したヒーローに、恐れはない。


「レオナパーァンチ!」


 前に突き出された拳。それが太いビーム体を先端から『砕く』。

 重力波のような『湾曲』でも、鏡のように『跳ね返す』でもない。それが光の塊だというのに、星屑のような謎の粒子になって砕けていくのだ。

 宙を漂う粒子はその存在を霧散させ、少し光るとはじめから何も無かったかのように『消滅』していく。

 更に彼女自身は加速と上昇を続け、その身体が大気圏を抜ける頃には発射された全てのビームが消滅させられていた。傍目にはまるで、先端から食べられる棒状のクッキー菓子のようだった。


 移動速度を音速程度に落とした。

 加速を続ければ光より速くもなれるが、時間の壁を超えて発生するウラシマ効果が怖い。彼女は自分一人だけ若く生きるより、愛する人達と一緒に歳を取りたいのだから。


 かくして一発の殺人光線から守られた青い惑星が足元に見える。

 ふと、己がまだとても小さな……彼女が冒険者になる更に前のことを思い出していた。



 二十一年前。

 これはレオナが産まれる時の事で、『父』から聞いた話だ。


 ある小さな雪国の村にて、父の妻が死んだ。彼女は山賊に誘拐され、陵辱されたのだ。

 派遣された軍隊から助け出された時にはもう命は長くないと言われていて夫の介護も虚しく、一週間で息を引き取った。

 哀しみというより、心にポッカリと穴が空いたような喪失感に襲われた彼はある声を聴く。


オギャア、オギャア……


 一瞬聞き間違いかと思ったが、間違いなく妻の腹からその声は聞こえる。なにかに取り憑かれたかのように彼は必死で、産声を上げるレオナを取り出した。

 勿論、父の本当の子供ではない。山賊と妻の子供である。

 しかし喪失感で押し潰されそうになった彼にとって、その様な事はどうでも良かった。生きる唯一の『救い』だった。

 そうして実の娘と変わらず愛情を注がれる事になる。


 ———そしてここからは自分の記憶だ。

 何年か経ったそんなある日の事だったか。レオナの身体に異常が見られた。

 『力』とはまた別に、人並み外れた怪力があったのである。生まれついて筋肉が強靭になる遺伝病の一種なのだが、そんな事は田舎の村人には通じない。

 ただひたすらに彼等は「恐れ」を抱くばかり。


 そして『その日』、村人達がまだ幼いレオナを『鬼の子』と認定して恐怖に耐えきれず襲い掛かってきた。

 もちろん小さなレオナに抗う力は無い。しかし、彼女の運命に抗う救いの手は確かに存在した。


「父ちゃん!?」

「レオナ、ここは父ちゃんに任せて逃げなさい」

「でも、でも父ちゃんが……」

「いいから行くんだ、レオナ」

「う……うわぁぁぁん!」


 ついこの間まで距離感はありつつも仲良く話していた村人達に揉みくちゃにされて殴られる父。

 レオナは背中を向け、泣きながら全力で雪の中を駆け、逃げる事に成功した。


 父は助からなかったのは分かっている。後日に村外れの死角から確認しているから。

 子供がよく遊び場にしていた村の一番高い木だからよく見えた。

 その上から、辛うじて『父』と分かるくらいに変形した撲殺死体が吊るされていたのだった。

 そして彼女は思うのだ。父親一人救えないで、何が鬼の子だと。



「……もう二度と、あんな想いはゴメンだ」


 ギュウと拳を握りしめ、宇宙から見えるのはとても小さな、染みのような湖。

 あそこにはアダマスが居て、エミリーが居て、家族みんなが居る。みんなで作った『家』がある。


「この世界は、『お前ら』なんかに渡さねぇからな」


 今、自分が戦っているものが当時の村人達と何の関係もないのは分かっている。

 それでも、あの時のように大切なものを奪おうとするなら敵として十分だ。

 故に、背中の翼が更に広がった。その光に照らされて、宇宙の闇に隠れていた大量の『絶望』が露わになる。


 何千、何万という人工衛星群がよく見えた。

 ひとつひとつが小山のように大きく、ダイゴウカの炎で強化された瞳は『400m』と言っている。

 実は同様の兵器は発見されていなかっただけで大量に存在していたのである。

 これらで惑星を包囲し、監視し、怪しい動きがあるならピンポイントで焼くのが古代人の本来の目的だった。


 迷宮がビームで破壊されてもビーム対策しているその他のオーパーツは残り、残ったものはオズワルドに発見されて国王が古代人と同じ力を得るだろう。


 とんでもない事実だがレオナは慌てない。

 彼女は腰ベルトのバックルへ手をかけた。

 バックルの中心が外れると、嵌め込まれていた小さな折りたたみナイフが現れる。

 『バックルナイフ』という暗器の一種で、レオナが冒険者の一人前祝いにリーダーから貰った物だ。


「いくぞ、パワー全開だ!」


 ナイフを高く掲げて叫ぶ。

 瞬間に刀身が炎を纏い、一気に火柱が上昇。

 大木の成長を早送りで再生するかのように勢いよく伸び、『炎の剣』となって成長を静止させた。

 その長さは実に30000km(地球は直径12742km)にもなっていた。


 熱源反応を周りの衛星達は『危険』であると判断し、永久機関である核融合により作り出すビーム砲を一斉放出。

 長距離にしなくて良いのでより強力な威力があり、レオナ達の住む惑星に直撃すれば大部分は消し飛び、重力を保てなくなる威力だ。


「ウィングシールド!」


 しかし炎の翼は全てを防ぐ。

 そして防御の為に畳んだ翼を再び広げると、炎の剣を振りかぶった。


「ダイゴウカ三日月斬りぃ!でりゃああああああ!」


 業火が描く孤月。


 人工衛星のCPUは『理解不能』とばかり結果を打ち出すが、対策というものを作り出せるものは誰もいない。かつて彼らを作り、惑星を完全に支配していた筈の古代人だって何処にも居ない。

 人工衛星達は次々と斬り裂かれていき、連鎖爆発を起こし、全ては役割を終えていく。


 かくして世界は救われた。

 まだ少しだけ残骸は残るが、じきに燃え尽きていく大きさになっている。

 残骸のうちの一つが、なにか『意志』のようなものをレオナに飛ばした。気がする。


『過ぎた力は全てを滅ぼす』


 レオナはニッと白い歯を見せて笑ってみせた。

 その後ろには青い星がある。


「私は逃げないよ。私の後ろには大好きな皆が居る」



 その光は勿論地上からも確認出来る。

 オズワルドは只々呆然とするのみだ。


「そ、そんなバカな……」


 それを尻目に、アダマスは空を見上げる。

 ちょうど炎の翼を生やしたレオナが太陽を背に空から帰ってくるのが確認できた。

 彼女は地面に優しくフワリと降り立って、笑顔で一言。


「ただいま」

「うん、おかえりっ」

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