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第六十話 天下無双のスーパーヒーロー

「オズワルドさん、僕達を騙していたのかい!?」


 先ず驚いたのはアーサーだった。彼は彼なりに尊敬の念を抱いていたのかも知れない。

 その表情は、愚者故に偽りのない本物だった。誰も映さないオズワルドの目が少しだけ動く。


「いや、騙してはおらん。

ワシは物心ついた頃からずっと密偵としての訓練を受け、若い頃にこの領地へ派遣されたのじゃ。

後は密偵として潜伏するに便利な冒険者になって、陛下へ送るオーパーツを探す口実として、採取依頼を受けておった。

じゃから、ワシは金級冒険者である以前に、陛下の密偵であるのじゃよ」


 そして空中に浮遊していたまま静止していた板が五枚。

 彼等を守るレオナへ、ヒュンと宙を駆けて向かっていく。


 しかしレオナは慌てなかった。

 先ずは腕をクロスさせて溜めの動作。バネを弾くように両手での手刀を解放。

 両端の二枚。手刀の切断力で板は真っ二つ。

 その流れで腰を落とし、ハの字に広がる諸手突きで更に二枚。拳の貫通力で板には丸い穴が開き、その機能を停止。

 最後に眼前に迫る一枚の板があったので、先程の両腕でそれを掴み、勢いよく頭突きをぶつけた。

 凹み、衝撃に耐え切れずヒビ割れ、金属を簡単に切る強靭な物体は紙屑のように四散していく。


 それらは全て一秒にも満たない。

 準備運動にもならないとばかりにレオナは威嚇の意味で「ボキボキ」と腕を鳴らした。

 文字通り大きな顔をしているオズワルドを、笑わない目で睨み付ける。


「こんな板っころで私達を殺すって?

……へぇ、笑わせてくれるじゃねぇか」

「流石にレオナは強いのぉ。陛下が警戒するだけある。

じゃがの、果たしてそれで『全て』を護り切れるかのぅ」

「なんだと」

「今日ワシはギルドに遅れたじゃろ。それこそ来るのがドーフンと同じくらいに。

実は新聞の記事を見て、ある調べものをしておったのじゃよ」


 聞いたレオナは訝しげに片眉を上げた。

 それを確認したオズワルドが持ち出すのは、今日の新聞。

 そこに載っているのは読み飛ばすようなどうでも良いゴシップのような記事だった。


【夜空に謎の星が観測されては、次の日には全く別の位置に発生し、動いているとしか思えないとの話】


「ワシら密偵は陛下から様々な古代の文献を渡されておる。それにはオーパーツの種類や操作方法も記載されていての。


さて。


かつて存在した文明にはな。

人工的に作り上げた衛星を大気圏外まで飛ばし、そこから超長距離の『ハイパービームキャノン』と呼ばれる殺人光線で地上を焼き払う兵器が存在したらしい。


多分、今ワシが乗っておる『命令を宇宙まで発信する装置』が落下した影響なんじゃろうな。

変な風に『未だ起動しておる衛星兵器』が動いてしもうた。

この意味、分かるな?

今から来るのじゃよ。大気圏外からのビーム光線がこの迷宮を焼き尽くす!」


 その発言に慌てた動作をしたのは、意外にもアダマスだ。


「そんな!?

それなら今、射程内に入っている貴方もビームに焼かれてしまうじゃないか」

「古代人も対策はしておってな。

このオーパーツ、『超電磁ポッド』は超電磁フィールドに加えて本体も耐光学兵器装甲を備えておる。

ビーム兵器は効かないとの事じゃ」

「そんな……」


 クラリと血の気が引いて目を白黒させた。

 しかし倒れそうになるアダマスの肩を、レオナは黙って支え、そして耳元で囁く。


「大丈夫だ。私が居るから。私が護ってみせるから」


 根拠のない言葉。

 だが彼はとても安心した。読心術でその声色が、溢れ出る自信に固められているが故に。

 お互いに微笑みを浮かべて頷き合う。そしてアダマスはハンナの元へ預けられ、手が空いたレオナは『敵』へ向き直った。


「ここを焼き尽くすとかデカい事言ってくれるじゃねえか。

ならばやってみな。この無敵のレオナさんが居る限り、そんな事は絶対にさせねえよ」

「ほう、この期に及んでまだ言うか。ならばやってみせよ……その、か弱い命達を守りながらな!」


 レオナ以外を狙って四方八方へ飛ぶ板達。

 その有様へふとレオナは目を閉じて昔を思い出していた。



 八年前の誰も知れぬ暗闇。男が最期の瞬間を迎えようとしていた。レオナの所属しているクランのリーダーだ。

 彼の胸には一本の小さなナイフが刺さっている。しかしそんな彼を目の前のレオナは立ち尽くして見ているのみ。何故なら彼女が刺したナイフなのだから。


 頰に出来たばかりの刀傷から血を流すレオナは何を言って良いのか分からない。そんな彼女と対照的に、男は血を吐きながらも余裕の笑みを浮かべる。

 こういう終わり方もまた一興か。思いつつも彼はレオナに対して呟いた。


「今お前に宿した『力』は、己の心に『正義』の炎が燃え続ける限り無限に強くなる事が出来る。

……だがな、逆を言えば正義の心を失っちまえば何の意味もないシロモノだ。

俺もかつては無敵のヒーローだったが、今では子供一人どうする事も出来なくなっちまった。

ハハッ、俺はヒーロー失格らしいな……まあ、当然か」


 ナイフの柄をコツンと叩いた。

 そして彼はただヒーローらしくレオナの頭を撫でてみせた。

 そして深く、空気を味わい笑う。


「お前は俺のようになるなよ……」


 そうして『レオナの力』の前の持ち主は静かに、そして安らかに息絶える。

 『アダマス王子』の命を狙い、王都を混乱に陥れようとしたテロリストとして。



 目を開けて意識を現代へ戻す。レオナは身体を大の字に広げた。

 途端に彼女の目には文字通りに炎が浮かび上がり、全身が力強く発光。


「ダイ・ゴウ・カァァァァァ!!!」


 叫び。それは託された『力』の名前。

 一喝と同時に宙に浮かぶ板達は、全てが全て爆散した。


「出来るさ。魂が燃える限りどんな理不尽にだって私は立ち向かえる。

だから私は『ヒーロー』なんだ」

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