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第四十九話 ゴスロリ装着、撮影会開始

 それは所謂ゴスロリだった。


 ふわふわフリルの黒いカチューシャ、ふわふわフリルの黒いケープ。首元には赤い薔薇の花。

 黒いロングスカートの真ん中には、白いフリルが縦に挿れられる。

 服との境界線には紅い紐で留められた白いコルセット。

 胸にはロザリオ模様が刺繍で縫われ、黒い袖の先端は巾着袋のように萎む形で手を半分隠していた。


 そんな衣装にアダマスは身を固める。

 だからといって表情にどうという色を浮かべる事もない。

 只々丸めた新聞紙を、映画監督のメガホンのように握ってフリフリと回していた。袖に付いた紐も揺れる。


「と、いうわけで今日のお仕事は……」

「ちょっと良いかの。お兄様」

「ああ、ポーズね。こうかな」


 こういう時に見る側の理想が分かる読心術は便利だ。

 大きく前傾姿勢を取って片手を腰に、片手でピース。それで脚はやや内股に。

 お尻を上げるように突き出せば、釣鐘形のロングスカートから少しだけ見える膝関節がとてもセクシーに映るのである。


「オッケーオッケー、ベリーグッド!さすがお兄様だのう。ゲッヘッヘ」

「お嬢様ったら、エミリーへのセリフがブーメランするほど張り切りますなぁ」


パシャ。パシャ。


 辛辣なマーガレットに怯みもせず、シャルがバズーカ砲のようなカメラを振り回して写真を撮る。

 それこそ芸術的価値のある画からエロティズムを感じさせるものまで。

 ありとあらゆる様々な角度から前転を交えてテンションは絶好調だ。


 カメラの性能も新聞記者も使っている物凄い性能の良いもので、レンズなどはほぼ軍用のものと遜色ない。

 後はシャルが鼻血を吹き出さないことを祈るばかりである。


「お嬢様、そのカメラは一応会社の備品です。後でちゃんと返して下さいね」

「おうとも!後で焼き増し宜しくなのじゃ!」

「はい、お任せください」


 そう言うハンナの格好も随分様変わりしている。

 頭には髪を抑えるのみのメイドカチューシャではなく、外で動き回る事を前提としたキャスケット帽。

 脚も動き易さのみではなく破れにくさも兼ねたチノパン。軽作業の作業員ならお馴染みの品である。

 ベストで覆うその下には薄いフリルを飾り付けた白いブラウス。それが着ている主を頭脳労働者であると言っている。


 チノパンもベストもキャラメル色をした典型的な女記者の格好で、口紅のワンポイントが麗しい。

 何時ものメイド服とは別ベクトルで『働く女性』を表現していて、働く女性らしくキビキビとした動きでレオナに近づくと、口を開く。


「そういえばレオナは、今回何をするかはわかりますか?昨日ある程度坊ちゃまから聞かされていると思いますが」

「……すまん。

当事者だけど実はもう一回説明が欲しい」


 レオナは冷や汗を垂らすが、ハンナは特に険しい様子は見せなかった。

 レオナがそこまで理解しているとは考えていなかったからだ。

 そもそも、ハンモックで激しく交わりながら口頭でアダマスにちょろりと聞いた程度でしかない。

 寧ろ『解らない』という事をちゃんと伝え、謝る事を褒めたいとも思った程だ。


「はい。では、坊っちゃまが写真撮影を楽しんでいる間に復習と致しましょう。


本日の我々のお仕事は『潜入操作』になります。


前回動きを見せたテロリストの『フランケンシュタイン党』ですが、作戦の失敗により情報収集へ力を入れるでしょう。


その際に用いるのが間者……いわゆる『スパイ』だと考えられますが、最もコチラの懐へ入り込み易いのが出生を問われない『冒険者』と思われます。

この領は、近頃は住人や行商人も増えましたが、まだまだ内政を冒険者に仕事を頼らざるを得ませんしね。


新たに入る冒険者に間者を紛れ込ませる。もしくは既存の冒険者が組織に勧誘され、改造人間にされてしまっているかも知れません。


そういった敵の手の者が身内に居ないかを探す為、坊っちゃまの『読心術』を用いるのです。

レオナの役目は冒険者ギルド長として、そのフォローですね。


さて、ここまでで付いてこれていますか?」


 話を振るハンナに対し、レオナは数秒考える。情報を咀嚼しているのだろう。

 そして真剣な表情を以って、首をゆっくり縦に振った。

 自分の頭が良くない事を自覚しているからこそ、余計な思想を交えず愚直に判断する。

 下手に自己解釈して失敗する小者よりもずっと頭の使い方が上手い証拠だ。


 ハンナは内心喜ぶ。

 だからこそ喜んでいる事が相手に伝わらない位に同じ声色、同じ速度で話を続けた。


「しかし坊っちゃまは今回『変装』をします。

変装とは正体をバラさないようにする為ですね。

坊っちゃま本人が動いていると知られると、こちらとしては困る人が既にギルド内に居ると考えられるからです。


最も坊っちゃまを快く思っていない人間が『個人所有』している『密偵』ですね。

なんせ『あの人』は坊っちゃまの弱味を知りたい筈ですから。


なので、ラッキーダストタイムズの『ハンナ編集長』が『冒険者ギルドへの取材』という名目で潜入操作を行います。

普段は会社に居ない書類上のみの存在ですが、私がラッキーダストタイムズに複数居る編集長の一人であるのは真実ですし。


 そして坊っちゃまには、冒険者に興味を持って編集長について来た『スポンサーのお偉いさんの娘』である『ダイヤ様』を演じて頂きます。


……これが今回の仕事ですね。

大丈夫そうですか?」


 レオナは複雑な表情で「ああ、よく分かったよ。ありがとう」と複雑な顔色で言った。

 読心術が使えないハンナも彼女が言いたい事は分かる。


「はい。

密偵の所有者は『国王陛下』……シャルロットお嬢様のお父上になります。

あの方は、自分の子でない坊っちゃまに、お嬢様を『奪われた』と感じているのです。

本来なら公爵である坊っちゃまが辺境伯に留まっているのも、陛下の横槍によるものと確信しています。

そして恐らく、今回のフランケンシュタイン党についても何らかの形で関わっていると見たほうが良いかと。

「そうか……」


 レオナは楽しそうにシャル達と戯れるアダマスを眺めながら、ギュウと手を握った。


 嫌なヤツに目を付けられたものだ。

 今から王都に単身で殴りこんで、兵隊諸共国王を殴り殺すのは簡単だ。

 だが、それをしてしまうとこの領土が社会的な意味で崩れ去ってしまう。

 私はこんなに強いのになんて無力なのだろうと下唇を噛む。


「レオナーっ!ハンナさっーん!

折角だし、皆で一緒に映ろうよ!」


 思っているとアダマスがシャルとマーガレットを両手に抱え、幸せそうに声を張り上げる。だからレオナは「ああ、今行くよ」と歩みはじめた。

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