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第四十七話 ボクでも着れる女の子向けの服ってある?

 レオナはアダマスを小脇に抱えて食堂に入ってきた。

 彼女らにこれといって傷は付いていないが、少し毛先に付いた焦げ跡と、食堂まで聞こえてきた爆音が激闘を物語っている。


 そんな彼女らは腹を減らした様子で、朝食の準備がされている席に腰掛けた。

 食卓には、切れ目の入ったコッペパンやらトッピング用の野菜やらがたくさん置かれているが、メインディッシュを置く中心部は大きく開けられていた。


「おっすマーガレット、入るぞー。

飯ってまだ?」

「おはようレオナ。入るぞーって、もう入っているけどね。

ご飯はもうちょいだね」


 台所からマーガレットはそう返事をした。

 本日の料理当番である彼女の隣にはオーブンがある。

 彼女の背丈と同じくらいの高さで、しかし威圧的な鋼鉄製の戸で封じられていた。

 とても9歳の少女が一人で開けられるとは思えない。


 レオナは食卓に届く匂いで何を焼いているか察する。マーガレットへ一声を掛けた。


「手伝ってやろうか?」

「だいじょーぶい」


 マーガレットは耐熱手袋を嵌めて、出来の悪いコラージュ動画のように軽々と鋼鉄の戸を開けた。

 中からは香ばしい匂いが一気に溢れ出て、食卓に伝わる匂いも存在感が増す。

 ガラガラと金網を引き出せば、焼き上がって皮にテカりがある大きな豚の丸焼きが現れた。

 12人前。重さは6キロの品で、彼女に魔術の補助はない。

 参考までに日本刀は約1.5キロ。大型両手剣クレイモアは重くて4.5キロである。


 しかしマーガレットは、その細い片手を使って、まるでケーキでも扱うかのように持ち上げる。そして近くへ置いた大きな皿へ移し、パタパタと食卓に早歩き。

 クピクピと果物水を飲むレオナとアダマスの前に現れた。


「ヘイ、焼き豚(丸焼き)一丁!」

「マーガレットは相変わらず力持ちだな。

ウチのギルドへたまに来る、『力自慢』とか自称する『力しか取り柄がない』下手な新人よりよっぽど力持ちじゃねえかな」


 そう言ってレオナは丸焼きの足に手を掛けると、腕力のみで骨ごと小さく千切って口に入れる。煎餅を噛むような、パリパリという音がした。

 口を半開きにして見るアダマスが口を開く。


「摘み食いも程々にね。

取り敢えず、それをしながら言っても、あんま説得力は無いんじゃないかな」

「ああ、すまん。良い匂いだったからつい……な。

ひとつ味見って事で許してくれや。うんっ、美味い。

話を戻すんだけど、そういう訳でマーガレットをアダマスと一緒に借りても良い?

仕事も出来るし、調子乗った新人の教育にも便利そうなんだけどなぁ」


 笑いながら冗談で軽く言う。

 その視線の先は食堂の出入口。いつの間にやら扉は開かれていた。

 そこに居るのは礼儀正しく立つハンナと、腕を組んで仁王立ちするシャルである。

ハンナは頰に手を当てて、「あらあら」と困った仕草を見せると、シャルへ話題を振った。


「だ、そうですがお嬢様?」

「ダメに決まっておろう」


 するとマーガレットは両頬へ手を当てて、嬉しそうに照れたような仕草をする。身体をくねらせた。真顔でケーキのように甘い声を上げる。


「お嬢様っ、そこまで私の事を……。

ハッ!まさかこれをダシに私を手籠めにして、あんな事やこんな事をするキマシタワーな展開に?いやんいやん」

「アホか、貴様まで居なくなったら妾一人で仕事をしなきゃいけないじゃろ」


 ズンズンと腕を組んだまま大股で近寄り、軽いチョップでメイドカチューシャにシワを付けた。

 チョップされたマーガレットは舌を出してウインクし、椅子の背もたれを掴んでシャルへ座るよう促すと、シャルは当たり前のように座る。

 そして彼女が座った事を確認し、ハンナも座った。


「それじゃ、いただきます」

「はーい、いただきます」


 レオナが久し振りに来るという事で、急遽アダマスが養豚場から取り寄せられた豚。

 その四分の三がハンナの手によって切り分けられ、レオナの手に渡った。

 彼女は硬い背骨や頭蓋骨などモノともせず、ガツガツバリバリと口へ放り込むのだ。


「うん、うまいうまい。やっぱ豚の丸焼きは丸噛りに限る」

「何度見ても凄まじいね。準備したボクが言うのもアレだけど、朝っぱらそんな脂っこいもので大丈夫なの?」

「ああ、冒険者は食べる事が大切な仕事だからな。いっぱい食べれないと勤まらんよ」

「へえ、冒険者って凄いんだなぁ」


 なお、当たり前だがここまで食べるのはレオナだけである。


 ところで残りはアダマス達がコッペパンの切れ目へ。

 サニーレタスやミニトマトといった野菜と一緒にバラ肉をメインにしたホットドッグを作っていた。

 焼きたての豚の丸焼きは皮が特に美味で、パリパリとした食感が白パンの柔らかさと合わさって非常に良い。

 肉の味に飽きたならば、たまに蜂蜜から作った甘いタレなどをトロリとかけて、照り焼きバーガーのようにして食べるのもまた一つの楽しみ方だろう。

 そういったものをモクモクと食べながら、アダマスはふと思い出す。


「あ、そういえばシャル。もしくはマーガレット。

ボクでも着れる女の子向けの服ってある?」

「結構サイズが違うから少ないと思うが、まあ探せばありそうじゃの。しかし、なんじゃ突然に」

「うーん、実は今回の仕事なんだけど……」

「ふむふむ」


 レオナ以外の皆がパクリとホットドッグを咥え、噛んで、そして飲み込み、期待を胸に耳を澄ます。


「……女装しようと思って」

「「「!?」」」


 皆が大きく、そして嬉しそうに反応した。

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