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第四十五話 彼女は妖精に出会った

 レオナが今のアダマスより一歳年下だった12歳の頃。

 当時はまだまだ冒険者社会は男社会で、生きていくため男装して『レオ』と名乗る必要があった。呼び名も『私』ではなく『俺』で、頰の傷も無かった。


 そんな頃、彼女は妖精に出会った。


 彼女が気付いた鼻先にはサラサラの檸檬色の髪。シャンプーの良い臭いがした。

 そんな髪を乗せているのはこの世の物とは思えない陶磁器のように美しい肌だ。非常に整った輪郭だとも思った。

 意識が朦朧としていた彼女には妖精だとしか思えなかったのだ。

 そんな妖精が自分に抱き付いているではないか。


 はて、どうしてこんな事になったのだろう。

 あまり動かさない頭を働かせる。


 ドラゴンの息吹によって全身を氷で包まれたまま川に落ちて流された。

 そこまでは覚えているが、どうも記憶が曖昧だ。しかし助かったのは運が良い。

 自分のような人間にも、妖精は手を差し伸べてくれるらしい。


(って、そんなワケあるかい)


 暫くすると、抱いている相手は人間の少年だと分かってしまった。

 年齢は1桁程だろうか、かなり幼い。

 少し離れた所に自分の革鎧が置いてあった。よくよく見れば自分も裸。

 自分らは裸で抱き合っていたのだ。

 つい少年を弾き飛ばして瞬時に鎧を掴むと、顔を真っ赤にして言った。


「て、テメェ!何しやがる!」

「いたた。

いやぁ、なんか凍死させちゃいけないと思って、裸で抱き合って暖を取ると良いって聞いていたから……ダメだった?」


 『妖精』は後頭部を摩りながら恐る恐る聞いてくるが、助けられた事は事実なのだ。

 レオナは舌打ちをして、しかし言った。


「……いや、よく考えれば良い判断だよ。跳ね飛ばして悪かった、ありがとな。

ワタ……いや俺は『レオ』。性別の事は誰にも言うんじゃねーぞ。こっちの事情があるんだ」

「ふぅん、なんか大変なんだね。

分かった、言わない。ボクはアダマス、よろしくね」

「ああ。よろしくな」


 これがアダマスとの出会い。当時彼は4歳だった。



 そして現在。

 ラッキーダスト領主の屋敷、広大な庭に建つ警備小屋にて。


 一糸纏わぬレオナが仰向けに寝そべった体勢で口を大きく開けていた。

 空気を噛むように吸い込む。

 肺にそれを納め、鼻から一気に噴き出し、そしてムニャムニャと口を動かし上半身を起こした。


「ふわぁ……」


 冒険者の習慣らしく彼女はハンモックで寝る。

 それ故に、高い位置に取り付けられた窓が直ぐ隣に見えた。

 朝起きたら取り敢えず窓を勢いよく開けるのが彼女の今の習慣で、朝の光と風をその身によく浴びるのだ。


 彼女の隣には、九年前に会った時と変わらないような妖精の寝顔。

 スヤスヤ眠るアダマスが居た。彼は寝間着姿である。


(この日はコイツと一緒に寝たから昔の夢なんて見るのかもな)


 思い、上から見る彼女は微笑みを一つ浮かべた。内心に在るのは「もったいないな」という想い。

 しかし何時までもこれじゃダメだろうと、優しく彼の頬を叩いた。


「ほらアダマス。朝だぞ」

「ううん、もう朝かぁ。おはよー、相変わらず裸族なんだね」


 彼は目を擦りながらポヨポヨと胸を揺らすレオナを見た。

 見られても特に気にする様子はなく、ハンモックの上というのに、器用に背筋を大きく伸ばして胸を前に反らす。


「まあな、急に服着て寝ろっていうのも違和感あるし、寝づらくってな。

別にこっちでも良いんだろ?」

「うん。それはそれで構わないけど、まさか外泊時もソレ?」


 この世界において全裸で寝る事自体は珍しい事ではない。

 『別の世界』でも寝間着が登場するのは18世紀、布団の登場も16世紀。それ以前は(どの国でも)裸で寝るのは珍しく無かった。

 参考までに布団ではなく昼に着ていたものをそのまま掛けていた日本では、寝る際に襦袢が登場するまで褌一丁、しかし布が高価だった為、褌を所持していない者は裸で寝るのが一般的だった。


 例に漏れずレオナ達冒険者などは宿に泊まる際も、序盤はベッドなど気の利いたものを置いてあるものは少なく、着ているものをそのまま上に掛けて寝るといった事が多いそうな。

 その習慣が根付くのである。

 因みに幼いレオナは性別を隠す為、宿舎の狭い個室を死にものぐるいでもぎ取ったとの事。


「やって欲しいのか?」

「いやいや。ただ、どうなのかなって」

「さあ。どうだろうねぇ」


 彼女はからかうように聞き流すと、アダマスを小脇に抱えてハンモックから飛び降りた。

 そして適当に棚からタオルとを取ると桶に入れて、小屋の扉を開く。

 そこには小川のような用水路と、かなり清潔な池。

 更にエミリーが趣味で植えている薬草や錬金術の素材にもなる植物が幾つも植えられていた。


「さ、朝風呂だ」

「明らかに水浴びだよね」

「空は晴れているしこんなん風呂の範疇ってもんよ」


 レオナにされるがままに寝間着を脱がされ、そして二人でドボンと池に入った。

 彼女は近くに生えていた肉厚の葉を一本手で千切る。すると切り口からシュワシュワと泡が出てきた。


 それをタオルへ、まるで山芋をする様に擦り付け、石鹸のように使う。

 これはアロエの一種であるが、身体の汚れを落とす他、回復ポーションや魔力ポーション、精力剤としても用いられ、香りも良い。

 その為、冒険者はこの植物の群生地を見つけたらベースキャンプに使う習慣がある。


「でもたまにはこういうのも気持ちいいだろ」

「ん。まあね」


 アダマスはレオナにゴシゴシと洗われ、くつろいだ様子を見せた。

 そこへ駆けてくる人影がひとつ。ブンブンとツインテールを振り回して、屋敷の扉を勢いよく開け突っ走る。


「お兄様―っ!おはよう……なのじゃー!」

祝・ユニーク4000!有難うございます

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