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第三十九話 我を倒しても第二第三の(以下略)

 ラッキーダスト領には他領土と違い、無限に湧き上がる魔力を一般家庭でも使えるレベルで地下に魔力を伝う、電線ならぬ『魔力線』を使った『魔力網』が張り巡らされている。

 許可された者は生体情報読み込みを用いてそれに干渉し、緊急連絡網としても使う事が出来るのである。


 それを使ってシャルが、アダマスとエミリーが時間稼ぎをしている隙に呼んだ者。

それこそ今、男の肩を掴んで離さないレオナだった。

 男は蒸気機関での馬力を以てもレオナの手を何故か離せない事を確認すると、拳銃をレオナの顔面に向けて放つ。

 拳銃といえど、男の持っているものは取り回しを犠牲にした分煉瓦だって砕く。普通の人間なら頭蓋骨が砕けて顔面が半分吹き飛び脳を後ろへ飛び散らせる。そんな威力だ。

 そう、それが『常人』であるならば。


 しかし目の前のレオナにそのような様子はない。

 何故なら大きく口を広げて、銃弾を『食べて』しまったのだから。


 彼女はガムでも噛むかのように頬をモゴモゴと動かしはじめた。

 そして手を口内に突っ込むと銃弾を指でつまんで取り出し、上投げを以て軽くアダマスへ投げつけた。

 受け取ったアダマスは感心したように言う。


「レオナ、器用だね」

「ああ。私はキスが上手いからな」


 アダマスはそうして受け取った銃弾を指先で摘まんで眺めてみる。

 銃弾はサクランボのヘタの様に歯で細く潰され整形されて、しかも器用に結ばれている。

 柔らかい雰囲気とは対照的に、男は茫然としてた。実際に目の前で起きているのに、頭が認める事を拒否している。


「ト、トリックだ!」

「ええ、ひっでぇな。折角、結べるように練習したのに」

「違う!普通の人間は銃弾を口で受け止めたりしない」


 半分慌てながら言うや否や、黒煙を銃口からも口からも吐き出して今度は額に向けて放つ。それだって何度も。

 しかしレオナの額に潰れた銃弾が撃った数だけ残るだけで、ポロリとコンクリートの地面へ落ちて、直ぐにカランと虚しい音を立てた。


「ほぉら、効かないだろ」

「……マジかよ」

「それで、どうする。もう終わりかい?」


 すると男は何かを決意したかのように腰を屈めて全身から煙を吹き出させ、体内のコークス炉を炊いた。エネルギーを貯める。

 レオナはその様子に口笛を吹いて、肩を掴みっぱなしだった手を放してみせた。

 ウキウキした顔で向かい合って手を広げる。


「おっ、根性あるじゃねえか。此処までやると最近は逃げ出すヤツが多いからな。なあに大丈夫、私だって逃げたりしないさ。止めてやるよ」

「伊達や酔狂でこんな身体をしている訳ではないからな。それよりお前はなんなんだ。まだ知られていない改造人間なのか?」


 問いにレオナは頬を緩ませ、手の平から真っ赤な炎を出してみせた。炎は自由自在に形を変え、再び手の平へ吸い込まれていく。

 この世界の学会における魔力の理論ではとても説明できない、まるで子供が考えるような『魔法』のように。


「改造人間ではないな。ただ『認められない』なら、それは『存在しない』って事だから、知られていないには違いない。

でもな、確かに私は此処にいる」

「へえ、それで存在しない事にされているその力は……お前は一体なんなんだ?」

「『ヒーロー』だ。覚えておきな」


 男は吹き出す。

 そんな笑みをひとつ浮かべた後、湧き出ていた煙は一旦その体内へ吸い込まれ、溜め込んだエネルギーを開放する為、一気に噴出される。男は地面を踏みつけて一歩前へ。コンクリートに足形が出来る。

 それは単なる突撃に過ぎないが、人間サイズの金属の塊の突撃だ。

大砲を遥かに超えた威力は、人どころか軍艦だって仕留める事が出来る。そんな技。


 身体がぶつかり合う、大きな音。


 二本の足によって地面へレール状に出来た跡。細かく砕けたコンクリート片が巻き上がる。それによって煙が立ち込めていた。

 そして煙が晴れる。そこには男をしっかりと両手で、自分よりも遥かに重い敵を受け止めているレオナが居た。

 レオナは憂いを帯びた目で男を見る。


「……お前みたいな改造人間はまだまだ組織に居るんだろう?」

「ああ。まだまだ沢山居る。俺を倒したって、第二第三の俺がいっぱい出てくる。

そんなもんだ、悪の組織だなんて」


 そうして名も知れない男は、前のめりに倒れた。

 後ろからも見える歯車だらけの身体はどこか疲れたようで、キリキリと回る速さは弱まっていき、そして止まり、動かなくなる。

 レオナは自分の目に炎を灯らせて、倒れた男を見、小脇に抱えて回収する。


「エネルギー反応、無し。自爆オチは無いようだ。レオナ、お疲れ様」

「……ああ」


 傘の向こうから出てきたエミリーは義眼で調べた結果を言う。

 聞いたレオナは、どこか憂いを帯びた表情で動かなくなった男を見た。

 その反応を見たアダマスは、直ぐ様に考えている事が分かったので付け加える。


「いや、パンツマンは別に死んでないからね」

「え、そうなの?」


 確認のため、エミリーへ向き直ると首を縦に振って肯定。


「うん。戦闘用のエネルギーを全開まで使ったから、最低限の生命維持機能を起動させてスリープ状態……つまり、『疲れちゃったから寝てる』だけだね。もう、レオナったらおっちょこちょいなんだから」


 ケラケラ笑うエミリーへの微妙な怒りをどうするべきか。取り敢えずレオナは男の脳天へチョップしておく事にした。「うぐぅ」という声が聞こえた気がするが、きっと気のせいだ。

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