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第三十八話 悪の秘密結社にはヒーローが立ち塞がるもの

挿絵(By みてみん)

PV10000、ユニーク3000!(いきました!)

皆さま、ありがとうございまする!

 エミリーのペンシルくんや機械仕掛けの義肢。そして一部では工業用ロボットなど。

 この世界におけるロボット工学は珍しくあるが、驚くほど希少という程でもない。

 魔導工学において生物自身を改造しようとする試みそのものの歴史はかなり古く、ロボットはその副産物であるからだ。


 そこへ力を入れていたのがフランケンシュタイン子爵の機械兵団。

 彼の兵団は改造人間に溢れ、非人道的ながらも多大な戦果を上げていた。

 ちなみに、エミリーの父がフランケンシュタイン子爵と親密にしていた理由として、彼が小心者故に催眠術では操る事の出来ない機械を極端に恐れたのもある。

 しかし……。


「子爵の時も人間の機械化は凄かったけど、今の君たちってそこまで人間を捨てるようになってきたんだね」

「ああ、これも盟主閣下が『余計な部分』を捨て去ってくれたお陰だ」


 男は自慢げにそこらの金属パイプを掴むと、飴細工のように容易く千切ってみせた。更に握力を以って小さく畳み、とうとう丸めたティッシュのような姿になる。

 意味もない破壊行為に溺れる、その顔は悪い意味でとても人間らしい。

 エミリーは内心、「そんな様子は五年前と何も変わらないな」と、眉をハの字に寄せた。


「それで、パンツマンくんはそのデモンストレーションを以って何がしたいのかね。

技術の飛び込み営業かい?ウチじゃ洗剤を付けられても要らないかなぁ」

「本当は分かるんだろう?お前は後ろの三人を最新型の改造人間から守りながら戦わなくてはならない。それは簡単じゃあないぞ」


 男は銃口をシャルやマーガレット、そしてアダマスの方向へ無造作にプラプラと向けた。

 三人とも盾となる傘の後ろに居るが、男へ確実にダメージを与える火力を持つ武器も、実は今のところ傘しかない。

 と、なれば武器として傘を動かしたら間違いなく三人には危険が及ぶ。

 そんな状況であるが、アダマスは恐れずに言った。


「あの大量に押収されたコークスと拳銃も君の差し金だったんだね」

「そうだ。勘のいいガキだな。

そこいらの木偶に拳銃持たせてテロを起こさせて街の人間全てを人質に取るつもりだったんだが、まあ良い。終わり良ければ全て良しというやつだ」


 軽口を放つ男の目は、口調とは対照的に冷淡なものだった。何度も似たような事をしているのだろう。

 思い至るアダマスは、更に続ける。


「ねえ、この世界はそんなにダメかな。確かに、醜い争いなんて日常茶飯事だし、心を壊す人だって居るよ。でも、こうして手を取り合って愛し合い、強く生きる事だって出来るじゃないか」


 エミリーの手と自分の手を重ねてみせた。

 それを見た男はポカンと口を開け、そして、顎が割れそうなほどに口を更に開けた。


 爆笑である。


「愛……愛だって?ククク……アッハッハ……ブァーッハッハッハ!この、ブァァァァァカ!

こりゃ良い、流石お坊っちゃまは考える事がハッピー過ぎる!」

「おかしいかい?」

「ああ、おかし過ぎてゲロを吐きそうだ。

この世は愛なんかより力が正しい。どんなに愛を大切にしても力がなきゃ守れない」


 嘔吐物の代わりに黒煙を吐く男は嬉しそうに上を指差した。如何にも重そうな金属の看板が飾ってある。


「例えば、俺が機械になってない状態であの看板が落ちてきたら即死だ。愛なんざあったところで、いつでもどこでも、看板だろうと貴族様の気まぐれだろうと、理不尽に力は落ちる。

力のある今なら死ぬような目にあっても生き残れるし、壊れたところで取り替えれば良い。

盟主閣下など頭だけで生きる事が出来る。半分生身の頭に機械の身体を繋げてずっと生きるからだ。

肉体による不平等だってパーツが同じなら解決だ。

正に人間の理想だな」


 男は如何に自分が素晴らしいか恍惚と熱弁を振るうが、エミリーは冷めた目線である。

 彼女は只々人間の愚かさを呪った。

 右目も、子宮も、身体も、そして命も。

 それこそこの世でたったひとつ。平等で、替えの効かない大切なものだ。だというのに目の前の男は「替えがきくから良い」のだと自ら捨てると言うのだ。

 だからエミリーは言った。


「やはり君と私は相入れない。君が求めるのは皆が同じ人形になる世界だ。

私は私だよ。人形の上にも下にも立つ気はない」

「そうか残念だ、エリザベス。クーデターを起こしたお前なら弱者の気持ちが分かると思ったのに。

俺たちだって、別に考えなしにお前の口車に乗ってやった訳じゃないのにな」


 緊張感のある風が路地裏を駆けた。

 もはや交渉の余地は無く、お互いに暴力で解決するしかない。


 男はググッと腰を下げ、馬力任せのタックルの動作だ。

 エミリーは傘を広げたまま、傘の先端にある『最終兵器』の銃口を向ける。

 この武器なら後ろに被害を出さず、尚且つ目の前の男程度なら跡形も残さず消せるだろう。しかし街への被害もとんでもない。


 「間に合わなければ引き金を引く事に是非もなし」と唾を飲むが、杞憂に終わる。

 男の背後からやってきた人影を見てホッとする。人影はその身長から男性かと思わせるが、体躯は隠し切れない女性のものだ。


「よお、面白いことやってんじゃねぇの」


 なんとか『時間稼ぎ』は間に合ったようだ。

 そんなエミリーの安心した表情に、男は不愉快な気持ちになり、振り向かずに口を開く。


「誰だ?」

「平たく言えば、おまわりさんだな。ちょっと緊急通報があって、急いでママチャリをとばして来た」

「ほぉ、たかが憲兵に俺を止める自信があるとは、随分と幸せな脳みその持ち主らしい」

「そりゃ思うって。だってお前ガリガリじゃん。ちゃんと肉食ってる?なんか鉄分過多っぽいぞ」


 機械の骨格が剥き出しになった身体を見るも、笑い飛ばした。

 軽い口調で近寄る『彼女』は黒い指抜きグローブが嵌められた手を男の肩にポンと乗せる。


 男は乗せられたソレを退けようと手首を掴んで離そうと試みた。しかし大木を相手にしているかのように、まるで動かない。

 恐ろしい何かが突然乱入してきた事実を認め、正体を確認しようと後ろを見る。


「確かに力が無ければ力には勝てない。でもな、そのクーデターは愛が無けりゃ起きることも無かったんだぜ?」


 男は乱入者の手首を全力で握る。そうすれば万力に巻き込まれた作業員のようにペシャリと折れるからだ。

 

 しかし何も変らない。

 乱入してきた彼女は痛がる顔ひとつせず、薄く笑う。

 鉄パイプを飴のように曲げる力を以ってしても、自分を赤子のように扱うコイツは危険だ。男の脳内にて、皮肉な事に動物的な本能がそれを告げる事でやっと危険と判断できた。


 エミリーがやって来る前、つまりアダマスがラッキーダスト領にやってきたばかりの頃。そこは湖賊同士がしのぎを削る戦国時代真っ盛りだった。

 歴代のラッキーダスト当主は平定に乗り出すも何時も御し切れず、湖賊に従うか、手を組むかしか手がなかった。しかし、アダマスはそれを二年もかからずに平定してみせたのだ。

 その平定の裏側には、恐ろしい武力を持った『英雄』が居たそうだ。


 2メートルの巨躯。

 褐色の肌に左眼を隠す燃えるような赤い髪、胸元を大きく開いた黒いライダースーツ。

 そして左頬には刀傷。その名は……。


「レオナ!」


 アダマスが彼女の名を嬉しそうに叫んだ。

 彼女……レオナ・ラッキーダスト第4夫人は夫へ軽く手を振ってみせた。


「よお、助けに来たぜ」

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