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第三十六話 心に傷を負った美人が窓の外を眺める展開に萌える

 アイスを食べ終えたアダマス達は行商人街の奥へ進んでいた。


 なんだかんだと昼食をデザート付きで終えてしまったのだ。

 なので本題の仕事である『テロリストから押収したコークスの使い道』に向けられるので、置いてある場所へ向かっているのだ。

 その事を考えていたシャルは、口を開く。


「それにしても、コークスが機械に使われなくなりはじめてから、ここいらの食べ物の味や臭いが良くなったの」

「あの頃はホント酷かったからね。圧搾機や冷蔵庫なんかもコークスが使われていて、石炭と薬品の臭いが食べ物にくっついていた」

「ていうかさ。この通りに、そんな数のお店無かったじゃん」


 アダマスに続いたマーガレットの一言へ「それもそうか」とドッと笑いが起きた。

 だからアダマスはエミリーの腰をポンと叩く。


「それもエミリーのお陰だね。いやぁ、エミリーに貸した部屋を窓際にしたお陰だよ」

「おや、やっぱこの流れを狙っていた?」


 エミリーは笑いながら肩の力を抜いて振り向く。

 するとアダマスは親指をグッと立てて、言った。


「あったり前じゃないか!」

「ハハハ、コヤツめ」


 因みにコークスの排除については、狙っていた訳ではなく、偶然である。

 アダマスとしてもエミリーが生きて近くに居てくれればそれで良かった。

 当時ラッキーダスト領に来たばかりの頃、窓際の客間を与えたのも「壊れかけた心が少しでも景色を見て休まってくれれば」といった想いからだった。



 何もせずにボゥと窓から景色を見ていたある日。

 彼女は、天気が何時も気になっていた。コークスの影響なのだろう、機械化があまり進んでいないにも関わらず少し暗雲が目立つ。

 アダマスが何時も届けてくれる飲み物食べ物も、少し臭いや味がコークスっぽいのも気になっていたし、何より目の前の少年が何時も忙しそうに資金のやり繰りに忙しそうなのが気になっていた。


 思い出すのは、機械化を進めて暗雲だらけになった元夫の領土。

 思い出すのは、資金繰りが出来ず領主経営に失敗した実家。

 そして最後に思い出すのは、学会に認められなかった恩師の理論。


 「自分ならこの現状を変えられる!」などと甘い事は言わない。

 でも、自分と目の前の少年が住むこの理想郷にあんな暗雲も。あんな苦痛も、持ち込みたくない。

 ならばもう一度、今度はこの技術を復讐の為ではなく平和の為に役立てても良いのではないか。

 片眼鏡のチェーンに触れて、言葉を発した。


「ねえ、アダマスくん。

私が無限エネルギーを作れるって言ったら、信じる?」

「藪から棒に、そりゃ信じるけど」

「ええ~、信じちゃうんだ」

「王都で会った頃からエミリーは物知りさんだもん。エミリーならきっと出来るよ!」


 輝く笑顔が、そこにあった。

 ただエミリーは、その笑顔に日光が当たっていない事を残念に思う。

 「やはりあの雲は邪魔だ」と、窓から空を見た。



 そして四年後。

 青くなった空の下、行商人街の外れをアダマス一行は歩く。

 コークスを処理する施設はエミリーに与えられた研究所地下にある。場所はかなりニッチな場所だったのでこういった場所を進む必要があった。


 空は青空。されど周りは薄暗く狭い路地裏。

 謎の看板や、魔力路から出る白い蒸気など、独特の雰囲気がそこにある。

 先頭を歩くエミリーはニマニマしながら見渡している。


「ん〜、なんかこういう雰囲気って、そそるよねぇ」

「例えば?」

「例えば〜、こうっ!」


 ハイヒールだというのに、後ろへ向かって器用にクルリと一回転してみせ、シャルとマーガレットを抜け、その間に挟まれるアダマスへ迫る。

 彼女の大きな胸でアダマスの顔は圧迫されそうだ。

 彼を壁に押し付け、「ドン」と顔の横へ左手を押し付ける。


「ウフフ、コレでアダマスくんは私から逃げられないねぇ」


 肉食獣の目付きを向けて、怪しげな吐息を吹き付けるエミリーに、しかしアダマスはポンと手を合わせ能天気な対応をする。


「あ、コレって最近ゴシック小説とかで流行ってる壁ドンだよね。なんだ、世俗に興味ないとか言っておきつつ、やっぱ興味あるじゃないか」

「いやいや、政治と風俗は別腹だとも」


 近くでシャルが「意義アリ」と申し立てている。

 実は彼女、領主補佐としての政治的な勉強をしなければいけないので、下町で買い溜めしたゴシック小説を読めないでいる裏事情がある。

 それを察してかマーガレットがポンと肩を叩いて「そういうのは効率性の問題ですぜ、お姉ちゃん」と呟くと、プクリと頰を膨らませつつも黙る。

 

 そんな時、エミリーは右手の傘を持ち上げて、広げる。


「ああ、そうそう。

それでさ、さっき行商人街を傘でフワフワしてた頃から気になっていたんだけど……。

いい加減、話しかけるくらい良いんじゃないかな……、ストーカーくん?」


 左側へシャルとマーガレット。正面にアダマス。

 三人を庇う形で義眼の赤い光をチカチカとエミリーが右側に向けると、そこには一人の男が立っていた。

 シルクハットを被り、外套を着て、シルエットから何処か背の高い印象があるが、よく見れば中肉中背だ。

 男は言う。


「一人になった所を狙おうと思ったのだが、その子供どもが俺から注意を離さなくてな」


 実は男の存在に、皆は個別に気付いていた。

 アダマスは生まれ持っての観察眼で、シャルは自分に近い男性を察する力で、マーガレットは単純な嗅覚で。

 そしてエミリーは、その右眼『エミリー五つ道具・プロペータ』にある機能の一つである探知の能力で察する。かなり強いコークスの反応が出たのだ。


「私がひとりになった所を狙っても、その臭いは消せないよ。苦手な臭いなんだ。嫌なものは好きなものより気になるものさ」

「ふん、まあいい」


 男はそう言って、今朝会議室で『テロリスト』が扱っていたと云うズングリしたリボルバー拳銃を取り出し、エミリーへ向けた。

 エミリーも皆を庇う盾になるよう、日傘を盾にする。


「エリザベス・ブランキスモよ。

我が『フランケンシュタイン党』へ下って貰う」

尚、この話の本質はほのぼのなので、バトル系の小説にシフトするとかそういうのはないもよう

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