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第三十二話 トンボのメガネはランボーナイフ

挿絵(By みてみん)

 様々な珍奇なものから無難なもの、探せば宝らしきものも見つかるかも知れない。

 そんなガラス玉色の行商人通り。

 行商人通りと名が付いているが、取り扱うものに気を付ければ誰でも出店出来るので、領民の出店も多い。


 その中を歩くエミリーは左手でアダマスの手を恋人繋ぎし、右手で黒い日傘を差す。

 銃床のようなグリップはとても持ちづらそうであるが、持っている本人は幸せそうなので良いのだろう。

 エミリーは軽くアダマスへ顔を向けた。


「折角だし、お昼ご飯の材料も買っていこうか」


 彼女はニカリと笑った。

 そういえば、もうそんな時間なんだなぁと感じる。

 キョロキョロと辺りを見回し、何か素材になるものはないかと探していたら後ろから声がした。


「お兄様、お兄様!炭酸梅ジュースが売ってるのじゃ!」

「えっ。それってお昼ご飯に関係なくない?」


 何故か物凄く興奮するシャルから意識を放せず、取り敢えずエミリーへ顔を向けると、彼女は笑顔でチョキを作る。

 オッケーらしい。


「ジュースを飲みながらってのもまた一興じゃないか」


 言うやいなや、彼女は財布から小銭を取り出してターバンを被った色黒の行商人に渡すと、氷水に冷やされていたワンカップのガラス瓶が取り出され、それを貰う。

 キュポンとコルクの蓋を開けると、シュワシュワとした冷たい炭酸が肌に当たって気持ちいい。

 早速エミリーは一口、喉へ入れた。


「ぷはぁっ。

美味しいね。ささっ、皆も飲みなよ」


 飲みかけたものを皆で回し飲む。

 昼の陽気と炭酸が合わさって、単なる甘味でしかない筈なのに、とても美味しく感じた。

 そう余韻に浸っている間に、マーガレットが別の屋台へ歩み寄る。


「お兄ちゃんお姉ちゃん、魚のフリッターが売ってる!炭酸ジュースに合うヤツだよ!お買い得だよ!」


 そこに売っていたのは確かに洋風天ぷらのそれだった。具材は湖か川の方から採ってきたナマズ辺りだろう。

 アダマスは苦笑いをひとつ浮かべると、売り子の娘に近付いて話しかける。


「おねーさん、こんにちわ」

「ああ、いらっしゃい。買ってく?」

「片手で食べれる軽いヤツ四つ頼むよ。トッピングはレモンと生タマネギで」

「はい、まいどあり」


 売り子の娘はそうしてサニーレタスの葉を四枚用意すると、食べ易く包んでいく。

 アダマスはそれ等全てをを指の間に受け取って、マーガレットへ「ボクの腰から財布取って、お勘定済ませておいてね」と、指示を出しておく。

 小銭がチャラチャラと手から手へ渡る音がした。

 だが、その内売り子の表情が曇り出す。


「ん、おかしいな……」

「どうしたの?」

「お客さんのはソレで良いんだけど、コンロが壊れちゃって、もう店仕舞いかも知れんね。ほら見てよ、火が散っちゃう」


 そう言う彼女の手元の魔力コンロを見る。

 確かに、本来なら空中でフワフワと浮いたまま火力を維持する筈の火が散っている。

 ふぅんと頷いたエミリーが軽く手を上げてコンロに寄る。


「私は技士なんだが、ちょっと見せてくれないかい?」

「へ?でも確か魔力炉を扱う機械を分解するには特殊な免許が……」

「だいじょーぶ。これを見たまえ」


 キョトンとする売り子へエミリーは、自身の名が掘られた金属板を見せる。

 ラッキーダスト領で発行される機械技士免許には冒険者ライセンスのように階級があるが、その中でもエミリーが持っているものは『全てを取り扱う』と云う特別製だ。


「ア、アダマンタイト免許証!?此方から宜しくお願いします!」

「うんうん。じゃあ失礼するよ」


 尚、免許は技術顧問のエミリーが発行しているので自演と言えばそれまでではある。

 が、コークス炉を使っている外部の機械と、魔力炉を使う此処らの機械では取り扱いが全然違うので、この手の機械に関しては結局エミリー以上に詳しい人が居ないのもまた事実だった。


 エミリーは片眼鏡を外す。

 真鍮色のビーズで涙腺型のイヤリングと繋がった片眼鏡だった。彼女はその根元を押すと、片眼鏡が二つに分かれた。

 そうして外殻は持ち手に、中心は木の葉型のナイフになる。更にナイフが中心から稲妻状に二つに割れるとノコギリのような形になった。


「んっふっふ。エミリー五つ道具『トンボの片眼鏡』。本来はワイヤーアクション用なんだけど、こういう使い方もある」


 ナイフの先端でペンチのように挾み、ネジを器用に回し、分解する。

 すると内部が露わになった。

 基本は錬金薬を染み込ませた紐へ、魔力炉を載せた圧力弁の力を加える。

 それと同時に、カラクリで噴出口のブレードが回る事で火花を発して、錬金薬へ引火。

 その後は魔力の効果によって火が浮き続けるといった仕組みだ。

 エミリーはその中から圧力弁を取り出して、カチャカチャとギミックを弄り出した。


「あー、関節が緩くなっちゃってるね。それで魔力が上手く錬金薬に掛からないんだ。

確かこの規格なら……ちょっと待ってね」


 そう言ってイヤリングを外す。

 先端を捻ると、ペットボトルのキャップのように外れ、空洞が現れる。

 手の平に向かって振るとバネやらネジやら様々なパーツが出て来たので、その内から小さなネジを取り出した。


「多分これが嵌ると思うなぁっと。ほら、嵌まった」

「おおー」


 ネジは綺麗にクルリと嵌り、外装無しで弁を押してやると、元通りに火は灯る。

 なので元通りにし、売り子へ返した。


「あ、ありがとうございまひゅ!」

「大丈夫だと思うけど、応急処置だから一日の終わりにでも見せると良いかもね」


 何処か挙動不審な売り子へ、余裕の笑みで軽く返しながら黒い長髪を翻す。

 こうして見ると知的な美人に見えるのが残念だ。

 エミリーはアダマスから受け取ったフライを口に含み、梅ジュースで流す。

 そのジュースを持つ手が左手だからだろう。ふと、薬指に嵌めたオモチャの指輪が目に入った。


「そういえば、コレを買って貰ったのもこんな市だったっけねぇ」

「そうだね。ただ、王都だから少し雲が黒かったかな」


 思い出に浸るものの、昼食の材料は相変わらず買っていない。

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