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第三十一話 現地組み立て武器はロマン

 黄土色の胴体、レンコンのようなシリンダー。

 エミリーが取り出したのは一丁のリボルバー拳銃だった。

 彼女はそれをヒラヒラと目の前で遊び、ウフフと笑う。


「これで暴れるつもりだったんだろうね。まあ、発想は面白いと思う」


 言って拳銃を分解し始めれば、バレル、ハンマー、トリガー等の覚えのあるパーツに分解されていく。

 だが、何処かずんぐりしているのは余分な部位があるからだ。


 その余分な部位をパズルのように組み合わせる。

 するとそれらは綺麗に噛み合い一枚の板のような、金属塊になった。


「普段はコークスを運ぶ荷台のパーツとして。

活動時は組み立てて、コークスを中に入れて、少しずつ魔力的作用でコークスを分解しながら使うんだろうね」


 この世界の銃は基本的に蒸気銃と呼ばれ、魔力で強化した蒸気の圧力で銃弾を飛ばす仕組みだ。

 火薬を使わない事も無いが、蒸気の方が煙よりも銃弾により長い時間付着するので、魔力的効果を得やすいのでこちらが使われる方が多い。


 そのように形になったものを見て、ハラハラと不安そうな顔をしているのはシャルだった。

 その様子にエミリーはシャルへ指鉄砲を向け、こんなことを言ってしまう。


「ぱーん。銃弾発射ー!」

「……うひゃっ、なんじゃっ!?」


 勿論何も起こらない。

 しかし、そんな何も起こらない、単なるジェスチャーに対し、シャルがつい身構えてしまう。

 ケラケラ笑うエミリーを見て、頰を膨らまし顔を真っ赤にしたシャルはソファーから立ち上がり、大股で歩み寄った。

 エミリーの腰を掴み、上を向く。


「だいじょーぶ。銃弾は入ってないよ」

「むぅ。からかうの禁止じゃ!入ってないって分かっても怖いんじゃからな!」

「ええー、でもシャルちゃん、からかうと可愛いんだもんなぁ……ねっ!アダマスくん!」


 視線をアダマスへ移すとシャルもそちらを見てしまう。

 頬杖を突いて一部始終を見ていたアダマスは無言ながらも親指を立ててみせた。

 シャルは照れ顔になるが、その口は苦みを帯びたままだった。どのような顔をすれば分からないからだ。

 その気配を察したアダマスは、手招きをした。


「シャル、おいで」

「むむっ、なんじゃ」


 しかし兄の名ならばと言われるままにアダマスの元に寄るシャル。

 そして、シャルの頭にアダマスの手が置かれ、撫でられた。


「大丈夫、大丈夫。怖くないよー。

もう悪い人達は取り押さえられちゃったからね」

「むむー、子ども扱いかや?」

「そうかもねぇ。でも、撫でられるのは嫌かい?」

「いや、全然大好きじゃの」


 そう言ってアダマスの胸に額を押し付け、グリグリと頭を動かしてみせた。

 ならばもっと撫でるべきか。

 考えていたところにふと眼前へ、エミリーが急接近する。

 突然の事にポカンとするアダマス。額と両手を突き出してくるエミリー。そして口を開いた。


「アダマスくん、アダマスくん。私も怖くなってしまった。撫でてくれたまえ」

「ええ~、実行犯がそれを言うの?」

「ふむ。しかしだ、アダマスくん。

子供の頃に爆竹や癇癪玉で遊んだ時にかなり驚いたじゃないか。ならば私が銃のセルフジェスチャーで驚いてもなんらおかしくはないだろう?」


 ポスンとシャルの真横に埋まった。

 アダマスは己の胸にめり込む大きな子供を撫でながら、思い出す。

 確かにエミリーに会ったばかりの八年前は「これを見たまえ」とパチンコ玉くらいの癇癪玉を地面に叩き付けられた時はかなり驚いたものだ。

 隣でエミリーの護衛任務をしていたレオナはもっと驚いていたけど。


「はいりまー……あっ」


 そんな事もあったなぁと思いを馳せていると、入り口の扉がキィと開いた。

 朝食の片付けを終えたマーガレットが手伝いにやって来たのだ。

 シャルとエミリーに、額でギュウギュウと詰められているアダマスを見て、彼女は駆けた。


「ちょっと、お嬢様とエミリーってば、ずるい!皿洗いのご褒美に私も撫で撫でされるべき」


 そうして真ん中、鳩尾の辺りに突撃。

 飛びつかれた彼は「ぐふっ」と声を出したくなるが、そこは可愛い娘の事も考え、根性で我慢した。しかし仕事もしなければいけないだろう。

 そう思って横のハンナへ助けを視線で求めるが、目を合わせた彼女はニコリと微笑んで、横から抱き付いて来た。


「坊ちゃまー、私もー」

「まさかのハンナさんの裏切り」

「だって私もたまにはご褒美が欲しいですもの」

「ノリ良いなあ、この人達」


 爆竹のように姦しい声は暫く止む事は無かったそうな。



 そしてその『暫く』が過ぎた時。

 領主の机には書き上がった書類の束が積み上がっていた。これからハンナがチェックを入れて、午後にまた行う。

 それはそれとして、この日のアダマスは領主として外に特別な用事があった。


「それではエミリー、任せるわ」

「はぁい。じゃ、アダマスくん。行こうか」


 エミリーに手を引かれるアダマス。付いていくシャルとマーガレット。

 それを見送るハンナが在る。

 これからエミリーの研究所で押収したコークスの処分先を見届けなければいけないのだから。

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