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第二十二話 マーガレット四変化

祝!ユニーク1000人!!

皆様ありがとうございます!

 シャルは見た目とは裏腹に家事の能力が高い。

 普通にいっぱしのメイドとして通用するレベルだ。メイド達に女として負けない為、領主補佐の勉強と並列し、努力して身に付けた能力である。


「お兄様っ、お兄様。さあさ、ゆっくりするのじゃぞ」


 そういう事で力を発揮する場面が来たと、パァと輝く笑顔で、シャルは背中を撫でてむせる兄の介護をする。

 尚、周りはポッキーゲームでメチャクチャになった景色の後片付けだ。そろそろ終わるが。

 ハンナが机の上を整頓して、終わらせる。ソファーの乱れも、床に散らばった菓子もはじめから無かったかのような綺麗さだ。


「坊っちゃま、終わりました」

「ん。ごくろ……ブフッ!」


 特に何もないハンナの顔を見た途端にモノマネマーガレットの顔が脳内を駆け、再び吹き出す。

 一度ツボにハマると中々抜け出せない辛味があった。ハンナと目を合わせ続けると笑ってしまう。

 危機を脱する為に顔を横へ動かした。すると今度は顔を拭くマーガレットと目が合った。


「……」

「……あらあらぁ、坊っちゃまぁ」

「ブフッ」


 沈黙が交わされ、流れるようにテンポよく、マーガレットは髪をサクリと内ハネにして、再びモノマネした。

 その天丼にアダマスはここでも吹き出した。

 そしてやってくるのが笑顔の圧力だ。ハンナはマーガレットの脳天にポンと手を置いて口を開く。


「マーガレットちゃん?今のは必要あったのかしら」

「……流れ的にやんなきゃなって」

「マーガレットちゃん?」

「スミマセンお母様」


 マーガレットは心の内から感受した。やはり本物は違うなと。そして、それ故にこの話題はそろそろ切り上げようと普通の声色に戻してアダマスへ向き合う。


「それでご主人様、罰ゲームの件ですが……」

「ああ、約束は守るよ。流行りの恋愛小説でもあげようか」

「いえ、それよりも……その……」


 彼女はモジモジと編み物よろしく指を落ち着きなく絡め、下を向く。

 照れる事を続け、中々口火を切れない彼女へアダマスはすくりと立ち上がり、マーガレットへ近付いて言う。


「そういえば、暫く休日を与えていなかったね。欲しい?」


 その口調は何処か棒読みが入っているが、内側に感情を隠している事も読み取れた。

 それは他人から与えられると嫌悪を覚えるのに、彼からならもっと与えられたいと云う、不思議な感情である。

 だから咄嗟に、機嫌よく応えられた。


「は、はいっ!景品にそれを頂きたいです!」

「よしよし、じゃあ今から明日の朝まで、メイド見習いのマーガレットは自由時間だよ」


 頭一つ分大きな彼は、そう言ってニカリと歯を見せて笑ってみせた。



 マーガレットには親が居ない。


 生物学上ではハンナとアダマスの子なのだが、マーガレットが産まれた当時、アダマスの身分が『王子』だった為に子供が出来る事は新たな王族が出来る事になる。


 もしその子が策略によって王位継承権を得る事になるなら余計な火種になってしまうと考えられる。

(尚、現在は王族でなく血脈の絶えたラッキーダスト家を引き継いだ『引き継ぐ程度の資格がある血統と実績のある貴族』という事なので、その後産まれる子供はあくまで『ラッキーダスト家の血族』という事になり、そういった心配はいらない)


 特に王宮から嫌われていたアダマスの権力が増す事は貴族にとって宜しい事では無かった。

 そういった事情でアダマスの子である事が認められなかったのは勿論、念には念をとハンナの子である事すら認められず、『ハンナが雇われる時に連れて来た身元不明の子供』という事にされている。


 では、彼女はそれを悲観的に捉えているのかといえば、そうでもない。

 物心ついた時にはそれが当たり前であったし、彼女の母が父の部下と云う手本が身近にあった上に、就寝前や偶に言い渡される『休日』などの『自由時間』が来れば何時でも自分の在り方を選べるのだから。


「ふふふーん。『パパ』と腕を絡めてお散歩も久しぶりだねぇ。屋内だけど」

「あっ、コラ、マーガレット!ちゃんと歩幅を合わせんか」

「おっとっと、ゴメンよお姉ちゃん。ちょっとスキップ入ってた」


 下り階段。

 アダマスを挟んで、シャルとマーガレットの二人が彼の腕を逃がすまいと絡めていた。娘モードに入ったマーガレットは、浮かれた状態でよく出しゃばる。

メイド見習いである事にも妹である事にも不満はないが、娘としても扱われたいと云う想いが人一倍強いのだ。

 自分だけが本当の家族足りえないというコンプレックス故の孤独感がそうさせていると、アダマスとハンナは薄々考えているが、それだけではないのだろうと確信は在る。


「そうですわね、階段でスキップは危ないですわ。『お嬢様』」

「うっ、ママにそう呼ばれるとムズムズするなぁ。普通で大丈夫だよ」


 盆を持って後ろを歩くハンナは笑い交じりで揶揄するように言った。

 どこか顔を赤くし、ハンナへ向くマーガレットに眉をわざとらしくハの字にしたハンナは妖艶な笑みで、対等の『女性』を想う声色を当てた。


「それとも、『マーガレット・ラッキーダスト第五夫人』と呼んだ方が宜しいかしら?」

「ちがーう!いや、その通りだけど、普通にちゃん付けで良いよ!」

「そうね。マーガレットちゃんはマーガレットちゃんだもの」


 そうしてハンナはクスクスと笑う。

 マーガレット・ラッキーダスト。彼女はアダマスの部下にして、妹にして、娘にして、ある精神的病理が理由で『妻』となった稀有な存在だ。

 ただ彼女は幸せである。それだけは確かだった。

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