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第二十一話 芸人魂

 ポッキーゲーム!

 それは、棒状のお菓子の両端を互いに咥え齧り合い、離したら負け。離さなかったらそのままキスになるという嬉し恥ずかし合コン特有のチキンレースである!!

 職場の飲み会なんかでやるとセクハラで訴えられたりするから注意が必要だぞ!!!


「おお、言ってみるものだね」

「ふふっ、ふふふ。そうやって痛い目見ても知りませんよ」


 マーガレットは不敵な笑いを浮かべつつも、「どの口が言ってやがりますか」と思う。

 いっそ負けを認めても良いのかも知れないが、ただ負けっぱなしは癪に触る。


(どうする、考えろ……!)

「なあ、ちょっと良いかの?」


 内心頭を抱えていると、後ろからシャルが他人事のように、後ろを向いてソファーの背もたれに肘をつきながら声を発した。

 アダマスが「どうしたの?」と返事をすれば、言葉を続ける。


「なんか罰ゲームを考えておるんじゃろうが、今回どうするんじゃ。マーガレットって結構ネタキャラ枠じゃし、よくある『変な語尾』とか『尻文字』とかじゃ罰ゲームにならんぞ」


 シャルの言を聞いてそれもそうか!と、マーガレットは思った。

 最早私に恥ずかしがる要素なんてあるだろうか。いや、ない。

 いっそ当たって砕けろの精神でやってみた方が、気が楽になって上手くいくかも知れない。

 シモな方向の罰ゲームでも、よくやるプレイの一種だと思えば大体はどうにかなる。


(よし。それもそうだし、それでいこう。前でも後ろでも、フックでもロープでもビーズでもバッチ来いだ)

「罰ゲームねえ、じゃあハンナさんのモノマネで。あ、マーガレットが勝ったら好きに決めて良いよ」

(ギャアアアアア)


 顔面蒼白。

 決意した直後に思わぬベクトルから攻撃が来た。

 ちょっとアダマスの隣の母兼上司の顔を見てみたら何となく何時もの微笑みが「負けたらどうなるか分かってるんだろうな」って言っているように思えて怖い。

 この勝負、負けられない。


「マーガレットは些細な事でも気合が感じられて楽しそうだなあ」

「感受性が豊かなのでしょう」


 デスクにて二人は会話するが、その言葉は物理的には届けども、気合を入れ直すマーガレットの心には届かなかった。

 まあ良いやと、アダマスは菓子の乗った皿を手に取りデスクから立ち上がり、床に両膝をついてソファーの背もたれに肘をついてみせた。


「坊っちゃま、膝が汚れますわ」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。ハンナさんは埃を残すような仕事なんてしないだろう?」

「まあ、そうですが。それでも領主ともあろう方が、いけませんよこの様な行儀の悪いことは」

「アッハッハ、ポッキーゲームをやってる時点で無礼講さ。それに、こっちの方が視点が同じで良いものでね」


 ハンナはため息をついて、渋々と受け入れた。

 マーガレットは流れからして、いよいよ逃げられないのだなと観念し、ソファーにしゃがみ込む。

 そしてアダマスが咥えている方とは逆の端を咥えこんだ。ワクワクとする彼と視線が合った時、間の空間に腕が挿された。

 隣で気怠げに紅茶を啜るシャルによるものだ。


「んじゃ、見合って見合ってー……はじめー」


 手慣れた手つきを以て、腕を上へ切った。

 とうとうはじまってしまったポッキーゲーム。だが、秘策を思い付いていた。

 マーガレットは自身の顔の横を摘み、鼻の穴を押し上げて、ついでに目の赤い部分も露わにさせ、豚のような顔になる。


 必殺、変顔!

 女のプライドを捨てた必殺技だ。

 こんな顔とキスなどしたくないだろう。さあ、恐怖に恐れ戦くが良い、フハハハハ。と、彼女は思っていると、向かいのアダマスが意外な表情を浮かべる。

 トロン。と、愛おしいものを見る目。

 恍惚と呼ばれるそれだ。


 アダマスはハンナにハンドサインを送った。緊急時の為に声を使わなくても会話出来るようにしてあるのである。


「ふむふむ。マーガレットちゃん、坊っちゃまが言うには……。

『ポイントは良いところを突いていたけど惜しかったね、ボクの性癖は君が思っているより業が深い。

アヘ顔に興奮する性癖があってだね、ボクは君のように微妙にプライドが高い子がそうやって豚のように無様な顔をしていると、寧ろ愛おしいと感じてしまうのだ!』」


 ま、マジですかー!?

 母の言葉を聞いて思わず口を離しそうになったが何とか耐える。変態だとは思っていたがここまで変態だったとは。

 色々変顔をしてみるが全く効く様子は無い。

 どうするべきか。

 そうして悩む間もアダマスはチョコスティックを齧って迫って来る。


 特にキスしたからといってこの面子では何てことはないけど、なんか負けた気がして嫌だ。

 マーガレットは視線を動かして、ひとつの結論に至る。髪の毛の外ハネを両手に掴み、内ハネに。

 目付きをフニャリとした形にして、いざという時の為に用意しておいた一発芸を晒す。

 口を閉じてても喋る術、腹話術だ。

 準備は出来た。後は放つのみ。


「あらあら、坊っちゃま。いけませんわぁ」

「ブフッ!」


 突然の事にアダマスは吹き出した。

 感情は読めても具体的に何をするか予想外だったから、これは予想外だった。笑いのツボに入ってしまう。

 まごう事無きハンナのモノマネだったのだ。声もかなり似せている。ネタキャラは真面目にふざけてこそネタキャラなのだ。


 むせるという滅多に見せない表情を見せるアダマス。「怒ってませんよ?」という声が聞こえそうな微笑みのままのハンナ。ゲラゲラと笑うシャル。


 そして吹いたチョコスティックの欠片と唾液が顔に掛かった状態で、ドヤと勝ち誇った顔をするマーガレットが居た。

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