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第十七話 ドキドキ☆ファッションタイム

設定ぶっちゃけ回

 ふくらはぎは少しだけ膨らんで健康的。

 閉じていると股の間に隙間の出来るまだまだ若々しい細めの太腿。そんな触り難さとは裏腹に少しだけ汗ばむ香り。


 嗚呼少年の脚は素晴らしく、ごちそうさまでした。


 目の前で呼吸により上下する臍を見つつ、マーガレットは心の中で手を合わせ、足首の見える九分丈のイージーパンツを履かせていた。


 イージーパンツは機能性を優先させた生地の柔らかいボトムスだ。留める際もベルトではなく主にウエスト部へ通した柔らかい紐を使うので寝てる最中、または起きた直後に負担を掛けない。

 膝に余裕があるため男性らしく逞しく見せられるといった特徴もあるだろう。

 その一方で柔軟性を重視しているので股上が深く、脚を短く見せ、しかもダボつく印象がある。


「テーン!そんな時、便利なのがこちらでござんす」


 マーガレットは白い長袖チュニックを両手に持って広げて見せた。


「突然どうしたのマーガレットちゃん?」

「ひとりごと。で、ごんす」


 チュニックは基本的にはワンピースに似る程丈の長い服で、今回は男性向けという事もありやや短めではある。しかしそれでもロングシャツ程度の長さなので股上の深さを目立たせない。

 来た時のラインもゆったりしていて、身体の線を見せず、太めのイージーパンツとも相性が良い。


 広い服からチョコンと脚が出ている形になるわけだ。


 ところでチュニックには様々な形があるが、最も変化が大きいのは首を通す部分────つまり『襟ぐり』の形である。

 今回はUネックに四角い切れ込みを入れたような、鍵穴形の物を採用。光沢のある白い絹に映える金糸を襟ぐり周辺に縫い込んだものだ。

 着せると、指がチョコンとしか見えないくらいに多い布地とは対照的に、大きく開いた襟ぐりの丸い部分が鎖骨を露わにさせて、臭いとはまた別のフェチズムをマーガレットに感じさせた。


「うへへ、白肌の鎖骨はたまりませんのぅ」

「はいはい、お着替え出来たなら坊っちゃまのお仕事の準備に取り掛かるわよ」

「ガッテン!」


 ハンナがパンパンと手を二度叩いて言い放つと、マーガレットは元気に返答した。



 アダマスは自身の意識が浅い暗闇に浸される中にて十年ほど前の記憶、あくる日の情景を掬い上げていた。


 勉強椅子に座る小さなアダマスの隣にて、乳母のハンナは少し膨らんだ腹を抱えて立っていた。それが気になり、ついつい視線だけでも見てしまう。

 すぐさま目を逸らす。この動作をソワソワと延々に繰り返す。

 一回それを行う度に己の罪深さが一段深まる気がした。ならば辞めてしまえと云う心の声もあるが、当事者は自分という事実からは逃げられない。


「大丈夫です。坊っちゃまは悪くありません」


 そんなハンナの一言に心が揺れた。

 自分はケダモノにも等しいほど許されざる事をしたというのにこの女は許すと云うのだ。


 実際に存在しない何かを噛み潰すかのようにギリリと歯軋りをひとつ。

 アダマスはハンナへ向き合った。なんでコイツは加害者の前でこうも涼しい顔をしていられるんだという、その想いが口の中で怒りへ変わる。


「ウソだ!」

「本当です。少なくとも私はそう思っています。

それは坊っちゃまが一番よく分かるでしょう」


 アダマスは小さく唸って下を向く。

 読心術を持つが故にこの部屋へ追い詰められた彼は他の誰よりも彼女がアダマスを許容しているのは理解しているのだ。

 だからこそ他の誰よりも自分が自分を許していないかが分かってしまう。結局、只の八つ当たりだ。

 目に熱いものを溜めながら愚痴を吐くよう零し叫んだ。


「でも、ボクが弱かったからハンナさんに酷い事をしちゃったよ。

ボクがこんな立場だからお腹のその子を、ちゃんと血の繋がった『ボクとハンナさんの子供』と国に認めさせる事が出来なかったよ。

みんなみんなボクが悪いんだ。

だからそんな、そんな許す目で見ないでくれよ!」

「……はぁ、そうですか」


 心の内を爆発させて泣きじゃくるアダマスへ対し、ハンナはアラアラ。まるで鍵を掛け忘れたかのような、そんな些細な感情の動きを見せる。

 直ぐさま彼女は微笑んで、自分の大きくなった腹を撫でてみせた。


「では取り敢えず泣かないで下さい。お腹の子がビックリしてしまうでしょうに」


 それを聞いてハッとした。

 今の自分の都合より、確かに子供の体調の方が大切だ。まだまだこれからな人生であるが、少なくとも自分のように不幸な産まれをして欲しくはない。

 ギュッと堪えて涙を拭う。その顔に迷いはない。

 拭ったその手で腹を触る。


「暖かい、ね」

「そうですね。『アナタ』と私の子です。さて、それだけでしょうか?」

「え、ええと……ほーら、パパだぞ」


 まだ声変わりもしていない高い声が、ぎこちなく空気を揺らして、唯一の聴衆であるハンナは呟く。


「ずっと一緒ですよ。坊っちゃま」



「ご主人様ーご主人様ー。お時間ですよー」


 ユサユサとマーガレットに頭を揺さぶられ、アダマスは目が覚める。

 寝起きに頭を揺らされてグラグラする状態でムクリと起きると大分楽な触感を感じた。服が着替えさせられているのが分かる。

 どのように着替えさせられているのか、立ち膝になってよく見ていると、マーガレットが如何にも『私が着替えさせました』といった目付きでソワソワと見ていた。


 一般的にロングシャツ系の服にはスキニーパンツのようにピタリと脚に張り付いて細く見せるタイプのボトムスの方が、外れはない。

 それをせず敢えてこの組み合わせなのは寧ろ楽をして欲しくてイージーパンツを選んだ後に似合うものを考えた結論なのだと思い至る。

 だからソワソワしているマーガレットに向いて、ハンナのように微笑みを向けた。


「ありがとう。カッコいいじゃないか」


 聞いたマーガレットは少し言葉を失い、しかし直ぐさま腰に手を当てて胸を張った。

本当はもっと言葉を詰め込みたいのだろうが、色々な葛藤があるのだろう。


「フ、フフフフフ……。

えっへん!あったり前じゃないですか!」


 真鍮色の髪にウグイス色の眼。彼女はあまり『父親』の身体的な特徴を継承しなかった。だが、その幸せそうな様にアダマスの笑みは更に濃くなっていた。

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