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おうとかのじょ

作者: kulo




「おあえりー」


「くさ…」


仕事を終えて疲れた体を引きずって帰ると、部屋は酸っぱい臭いと嘔吐物で塗れてた。

人が聞けば、何の拷問だと思うかもしれないが、これが俺たちの日常だ。


「片付けろよ」


「ん?なんひゃって?」


ゲロゲロとまだ嘔吐する彼女。

ビシャビシャとフローリングの床に落ちて広がる。


「だー!だから、袋に吐けよ!」


「らって、10分と経たず10袋は満杯になるぞ?」


彼女はけらけら笑いながら口元を服の裾で拭う。

汚いからやめろって。


彼女はすぐに嘔吐する。

そういうビョーキなのだそうだ。

食事をしながら嘔吐するという器用な真似もできる。




「片付けるから、トイレに行っててくれ」


「うーい」


べちゃっと自分の吐いた物を踏みながら、ぼさぼさの髪を上機嫌に揺らしながらトイレへ向かう彼女。



このビョーキのせいで彼女は外に出れない。

外に出ようものなら救急車を呼ばれるか、変質者として警察いきだ。



30分位だろうか、その位たってようやく片付けが終わった。

片付けてる最中に嘔吐物の入った袋が数個見つかった。

彼女なりに気を使って少しは袋に吐いたらしいが、出来れば全部頑張ってほしかった。

トイレに駆け込む努力もほしい。

彼女にとって嘔吐は日常的で気にするものでもないのだろうから、処理が甘い。



「おーい、終わったー?」


「おー。って!お前足ふいたのか!?」


彼女の歩いた後にはナメクジのようにぬらぬら跡が残っている。


「あれよ?トイレのマットに擦りつけたのよ?」


「取れてねぇし、マットに何してんだよ!」


へらーっと間抜けに笑う彼女に悪気なんてものは全くない。

怒るのもバカらしくなってやめる。

いつも通りだ。


毎日毎日。

彼女は吐いて。

俺が片付けて。

怒って。

へらっと笑って。

繰り返し。








「げろ…」


「頼むから湯船には吐くなよ」


「きをつけてりゅよ?」



口の端についた嘔吐物をお湯で流してやる。

トイレの片づけも終わり、落ち付いたので風呂に入ることにした。

目を離すと湯船にぶちまけるから必ず一緒に入ることにしている。

前にやられたときは悲惨だった。

風呂の窓は常に全開にしてあるためすこし寒いが臭いが籠るよりはマシだろう。


「あと数百グラムくらいでそう」


「そういう報告いらねぇから。出したら肩まではいれよ?」


「おー」


ちゃぷんと鼻下まで湯につかる彼女。



「ずっと気になってたんだけどさ」


「んー?」


ぶくぶくと遊ぶよう湯の中で口から息をだす。


「胃の中空っぽになったら吐かなくならねぇの?」


「胃液が出るんだな、これが」


「そうか」


「ゲロゲロ言ってる女に嫌気でもさした?」


「さしてたら、外に放り出してる」



頭を撫でてやると彼女は照れたようにふにゃっと間抜けに笑った。



「なぁなぁ、今とってもきゅんとしたからキスがしたい」


「口ゆすげよ…」


さっき吐いたばかりだろ。

彼女は水道から出した水で口をゆすぐと、準備OKと言わんばかりに俺の首に腕をまわしてきた。


「んー」


目を瞑り口を軽く突き出してくる。

唇を重ねると腕の力が強くなった。



「私のゲロごとあいしてくれー」


「はいはい…」



学生の頃は嘔吐物ごと好きになる女ができるとは考えたこともなかった。

人生何があるかわからないな。


ふと、彼女の体が震えてる。

寒いのかと思ったが様子がおかしい。


嫌な予感に口を離そうとするが、引きこもりの女の細腕とは思えないほどの力で頭を押さえられる。

目を見開いて彼女凝視すると、彼女は目元を歪ませてものすごく楽しそうだ。


死んだ。



口の中に広がる生暖かいでろでろの感触、ツーンとした酸っぱい臭い。

やられた。



「ゥおおおおおおぅぅぼえええええええぇ!!!!」


「愛の証がー!」



吐いた。

吐かれて吐いた。



嘔吐物ごと愛するのは難しいと思った。






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