第一話 失敗だと思ったら成功だった。
とある森の中に一件の家がある。
赤い屋根と白い壁の、一階建ての平屋だ。
この森の管理人、つまり私、ファーサの家である。
中も簡単な造りで、数人が止まる事が出来るようなベッドなども用意されているが、最近では別の仕事に追われて現在は私以外は寝泊まりしていない。
といっても広い森とはいえ、
「一応は私一人で管理できるから。最近は人件費の削減とか……他にも面倒なこともあるし。あの隣の人達とか」
そう呟きながら、私はピンク色の髪を赤いリボンで縛る。
左右にひとつづつ。
年頃なのでもう少しおしゃれをしてもいいのではと友人に言われたが、
「私が働いているのも森の中だし、結構土とかで汚れるんだよね。だから簡単な服が一番、と。そろそろ見回りに行かなくちゃ」
私はそう呟いて歩き出す。
一通り身支度は整えているので……といっても、会うのはほとんど隣の人達ばかりだ。
「また今日も魔法戦になるのかな……この場所の魔法のせいで気絶状態にしかならないとはいえ、あまり人に向かって魔法は打ちたくないんだよね」
そう呟きながら管理人の家を出て、森の中の小さな道を歩き出す。
あまり流行ではない森。
だからそこそこ森自体が広いこともあって、人と遭遇するのはあまりないが、それも隣の人達がやってくる理由でもある。
でもここには思い出深い物や、珍しい植物が沢山ある。
「いつかまた必要になる日が来るかもしれないし、魔法に頼らないとするとどうなるのかといった理解も大切だと思うの」
そう自分自身に私は言い聞かせてみるが、やはり、もっと色々な人に来てもらえたらという気もする。
目玉となる見所がないのもいけないのだろうか?
多分一番いい方法はというとあれだが、あれをどうにかするのはすごく難しい。のだが、
「……はあ、誰か何とかしてくれる人、こないかな」
私はそう呟いた。
実の所、この状況に手をこまねいているわけではなかった。
本だって色々調べたし、あの植物に関する研究をしている人の所にも訪ねて行った。
けれど今の所、わずかに自生しているもの以外、小さな植木鉢で花を咲かせるのが精いっぱいだった。
だから藁にも縋る思いで怪しげな、“異世界から望んだ凄い人を召喚する魔法を発動させる紙”なるものを購入してしまった。
だが結局何も起こらなかった。
「うう、怪しい商売に引っかかっちゃった……」
友人に話したら呆れたように、よくそんなものに引っかかったわねと言われてしまった。
確かに怪しいがもしかして、と思って買ってしまった過去の自分が、今は恨めしい。
だが今の所、
「はあ、謳い文句にある、凄い人が来てくれる魔法も失敗したし。あれ高かったのに。どうしよう。もうどうしたらいいのか思いつかないよ」
そう私が呟いた所で、
どさどさどさどさ
大きな音を立てて近くの藪に何かが落ちてきた。
私の後ろだった食べすぐに反応はできなかったが、一瞬黒い人影のようなものが見えた気がする。つまり、
「だ、誰かが落ちてきた!? え、空から?」
私が焦つて見上げると、空にはちょうど一人の魔女が箒で飛んでいくのが見える。
木々の葉の間から見上げた空は雲一つなく、どこまでも蒼天が続いている。
いい天気だと私は呆然と思いながら眉を寄せた。
「……ここ森だからって、不法投棄はしないで欲しいな。管理人の私だってい……」
今のは先ほどの魔女が飲み物の瓶か何かを捨てて、もっと翁物は私の見間違えだろう……そう私は思っていた。
時々というかそこそこあるのだ。
森の中にごみを捨てていくマナーの悪い人が。
だから今回もそれだろうと愚痴をこぼしかけたのだが……そこで目の前に、黒い人影が藪の中から現れた。
「ひいいいいいいい」
まさか誰かが出てくるとは思わず私は悲鳴を上げた。
だが、私がさらに驚いたのはその人物の服装だった。
この世界ではあまり見ない奇妙な格好をした彼。
歳はそこまで離れていないようだけれど、と私が思っていると彼は呻くように私を見て、言った。
「お前か……」
「え?」
恨みのこもったどす黒さを感じさせるような声で、彼は私を“お前”と呼んだ。
だ、誰だろう、この人。
覚えがないと私が思っていると、私をにらみながら彼は、
「俺を召喚したのはお前かぁああああ」
「ひいいいいいいい」
彼は怒こったように私を、そう呼んだのだった。