第99話・年越しイベント終了
翌朝、新年である。こっちの世界だと先代の王様の誕生日らしい。
「あけましておめでとうございます」
目を覚ました直後にラムちゃん両手を突き出し新年の挨拶をしてきた。
「ああ、あけましておめでとう…。で、その手は何かな?」
「お正月と言えば、『お年玉』とアナタの情報にあった」
「ああ~、お年玉ねぇ~ってラムちゃんに現金を渡しても意味ないような…」
「大昔はお金じゃなくてお餅を配ってたって、情報にはあったから食べ物でOK」
OKって…こっちの世界じゃ使われてない言葉を…。
「まあ、ラムちゃんが良いってのなら構わないんだが、高級なのはないぞ」
そう言いながら、俺は街で買った熱々の串焼きをラムちゃんに渡した。
「街で売ってるウサギ肉の串焼きだ。なかなか美味いぞ」
「おお~!これが串焼き!あむ……モグモグ……ンまい!!……と思う」
まだ美味さのデータは取得出来てないか…。
まあ、味を感じる事が出来るようになって二日目じゃ仕方ないか。
「時にラムちゃん。少し聞きたいんだが、君は肉を串ごと食べちゃってる様に見えるんだけどお腹の方は大丈夫なのかな?」
そうなのだ。よく見るとラムちゃんはウサギ肉を木製の串と一緒にバリバリと食べている。普通なら、串の破片がお腹に刺さって危ない事この上ない。
「ん、大丈夫。ワタシの胃袋はスライムと同じ性能、魔石や金属じゃなければ100パーセント、『ソーマ』に変換できる」
『ソーマ』…。たしか、スライムの排泄物だったな。伝説級の薬の原材料だ。
ラムちゃん曰く、その『ソーマ』がダンジョンの食料になるんだとさ。
「でも、魔石や魔結晶は消化に悪いから貯まったら吐き出さないといけない」
と、ラムちゃんはケロケロと吐く仕草している。
なんか、猫が毛玉を吐いてるのに似た感じだ。
「本体の方もたまに吐き出す。その時、一緒に体内の魔獣も出ちゃうから後で補充するのが大変」
え?それって時折発生する「大氾濫」ってヤツじゃないの?
まさか、大氾濫が猫の毛玉吐きと同じレベルって事じゃないでしょうね?
「たぶん、それと似てると思う。消化不良は身体に良くない」
うわぁ~…。大氾濫の謎がこんな事だとは……。
これも黙っておく方が良いな…。
何十年もダンジョンの研究をしてる人に「大氾濫は猫の毛玉吐きと同じだよ」なんて言えやしない。
それはあまりにも不憫すぎる。
次々と明かされるダンジョンの謎に少々げんなりしていると、ラムちゃんが何やらポケットをゴソゴソし始めた。
「これ。アタシからのお年玉」
そう言って渡されたモノは長さ1cmほどの小さなゴルフに使うティーの様なトゲだった。
「ありがとう。んで、これってナニ?」
「ダンジョンのトゲ」
そのままのモノだった。
「これを地面に刺せば、そこまで根を伸ばせる」
「ふ~ん…。で、根っこを伸ばすナニか得になるの?」
「根が届けば、それを使ってエレベーターみたいな事が出来る」
おお!それは便利!それってば、高速移動が可能になるって事ジャン!!
「でも、距離は150kmくらいが限界だけど…」
まあ、それは仕方ない事だ。でも150kmと言えば徒歩で5日の距離、アサイ村には余裕で届く。
「いや、これはすごく便利なモノだよ。ありがたく頂戴するね」
ラムちゃんから10個ほどのトゲをお年玉として受け取り、その日の夕方までまったりと部屋で過ごした。
「さてと…。そろそろ帰らないといけない時間だ」
「もう帰っちゃうの?」
ラムちゃんが少し寂しそうに言ってくる。
「まあ、仕事もあるからねぇ」
「そか、人間も生きるのに大変なんだね」
「遊んで暮らせるほどの稼ぎがあれば、少しは楽出来るんだけどね」
「また、来てくれる?」
「ああ、部屋の改良工事も始まったばかりだし、ここは秘密基地みたいで楽しいから、時間を作って遊びに来るよ」
「ありがとう。楽しみに待ってるよ」
そう言って、俺はエレベーターに乗り込み第一階層へ向かった。
エレベーターの出口はスライム牧場予定地の近くの森の中だった。
出口は大き目の木に偽装されいた。ただラムちゃん曰く、出入口はダンジョン内なら自由に設定が可能で俺が適当に選んだモノがエレベーターの出入口になるんだそうだ。
スライム牧場の建設にはダンジョンの木も使うらしいので、何かの拍子でエレベーターが見つかるとマズいと思っていたが、そこは慎重なラムちゃんが考えて上手い具合に調節してくれたみたいだ。
そして、俺は意気揚々とダンジョンを後にするのだった。
オルトロスには少々幻滅したけど、概ね楽しい年越しイベントだったなぁ~。




