第95話・アナタはナニ子ちゃん?
扉には鍵がかかっていなかった。少し開けて部屋の中をそっと覗いてみると、そこは光に満ちていた。
淡い金色の光だ。部屋の広さは学校の教室くらいの広さだった。
その部屋の真ん中に高さ1mくらいの台座があり、その台座の上に宝玉が鎮座していた。その宝玉が金色の光を放っていた。
「これって…。ダンジョンコアか?……」
部屋にはそれしかなかった。何もない殺風景な部屋にポツンとコアがあるだけ…。
コアを守る魔獣も罠の気配もない。
上手く隠されていたとは言え、施錠もされていない部屋に無防備な状態で置いてあるダンジョンコア……。
このコアが持ち去られたり破壊されたりしたら、このダンジョンの命運が尽きる事になる。言わば、ダンジョンコアはダンジョンの命そのものはずだ。
こんなんで大丈夫なのかぁ?ダンジョンコアって重要アイテムのはずだろ?
それがこんな適当な感じで置いてあって……。
………!そうか!このダンジョンは飢えている。
だから、こんな状態でしかコアを守れないんだ!
コアを守るために使う『マナ』を自身の生命維持に使用している状態、それが今のダンジョンだ。こんなキツい状況にコイツを貶めたのは、人間の無知と身勝手な行動って事になる。
「ん〜……。ある程度は手伝いをしなきゃならんなぁ〜」
別に俺がやらなきゃいけない事でもないんだが、現状を知ってしまったからには見過ごせない。
とは言え、今日はもう遅い。ここに一泊させてもらって、明日からこの場所の守りを高めていこう。そう思い、俺は夕飯と寝る準備を始めた。
「しかし、このダンジョンコアの光は何とかならんかなぁ」
そう最初に言った通りこの部屋はダンジョンコアの淡い金色の光で満ちている。
この光が少々眩しくて落ち着かないのだ。そこで俺はコアに大き目タオルを掛けて隠してみた。だが、光はタオル程度じゃ意味がなかった。
「仕方ない……。まだ未完成だけど、アレを出すか…」
そう呟きながら、俺は2×3mの厚板を4枚と2×2mの厚板を2枚出した。
この厚板はL字の鉄枠を使って接続できる様になっている。
そして、厚板には扉と鎧戸付きの窓が付いている部分もある。
これはコンテナハウスだ。本当は野外活動の時に使うつもりでチマチマ造っていたのだが、出来たのは外身だけで中には何もない状態だ。
だけど、今回はこれで充分だ。窓の部分には厚板の戸板があるからコアの光は防げる。
「ホントはトイレとかシャワーとかも付けたかったんだけどなぁ」
とにかく、コンテナハウスを組み上げ室内に設置した。
今は家具も何も無いけど、ここに来た時にでも増やしていくのも良いだろう。
「なんだか秘密基地っぽくて、楽しい〜」
ここをDELSONで難攻不落の要塞にしてしまえば、更に安心だ。
ハイスペックなアイテムを製作しても、そうそう見つかったり盗まれたりする事もないだろう。
まあ、難を言えばここまでの移動が少々大変ってくらいだしね。
そんな事を考えつつ、夕飯に自作のインスタントラーメンもどきを食べて寝た。
翌朝、起床してからある大事な事実に気が付いた。
「あ!!今日って大晦日ジャン!!」
そうなのだ。昨日出会った野生を忘れたオルトロスのおかげでこれが年越しイベントだっていう大事な事がスっ飛んでしまっていた。
こうなると、もう年越し気分とかそんなモノはなくなってしまっていた。
まあ、こっちの世界には除夜の鐘なんていう荘厳な風習なんてないって事もあるんだから仕方ないっちゃないんだけどねぇ~。
ラノベの主人公ならお正月のお屠蘇とかおせち料理なんかも再現するんだろうが、生憎と俺には出来ない。なので、いつもの通りの平常運転でいくとしよう。
って事で、今日は一日かけてこの部屋の安全性を上げていこうと思う。
まずやる事は扉の補強と鍵の取り付け、そしてこの扉を隠していた構造物のバージョンアップをしよう。
材料はここまで来る間に狩った魔獣の素材を使う事にしょう。
部屋の扉にはダンジョンムカデの甲羅を張り合わせて強化して……と、ついでに構造物の底にも貼り付けておこう。
あとは、構造物を魔導具化して俺の魔力の波動で開閉するようにしよう。
扉の鍵は魔力認証にしようかな?それとも指紋認証にしようかな?
こっちの世界にはまだ指紋の概念が無いから指紋の方が安全性は高そうだしね。
いっそのこと両方で認証するのもアリかな。
なんて事を考えつつDELSONで扉と構造物のバージョンアップを図っていった。
そして3時間ほどでバージョンアップを完了し(DELSONのおかげで早く済んだ)構造物と扉の設置を終えた。
これで今のところ、ここに入れるのは俺だけって事になる。
「あとはこの殺風景な部屋の模様替えでもするかなぁ〜」
手持ちの材料が少ない分、それなりの事しか出来ないけど金色の妙に眩しい光くらいは何とかしたい。
せめて厚手の遮光カーテンでも周囲に設置するくらいはやっておこう。
そう思って俺はDELSONに保管してある鉄素材を使ってダンジョンコアにカーテンレールを設置していった。
その時、設置作業に集中している俺の服を後ろか引っ張る感覚がした。
「え?」
ゾっとして動けなくなる……。
今回はちゃんとDELSONの早期警戒機能を起動している。
なのにそいつは俺の服を遠慮がちにクイクイって引っ張っている。
服を引っ張っているのは、たぶん子供だ。小さな手の感覚がある。
それがなお一層恐怖を募らせた。
しかし、ここで止まっていても状況は改善しない。
意を決して振り返ると、そこには淡く金色の光に包まれた女の子がいた。
「ひぃ……」
正直、びっくりし過ぎて漏らしそうになった。
でも大丈夫、大人だから我慢できた。
背格好からして10歳くらいだろうか?目鼻立ちも服装もよくわからないが女の子という事だけはハッキリわかった。敵意は無さそうだ。
「え……えと……アナタはナニ子ちゃんかな?」
これだけ言うのが精一杯だった。
女の子は何か一生懸命答えようとしているが、なぜだか声が出ないようだ。
伝えたくても伝わらない、そんな状況にイライラしたのか女の子は急にDELSONの吸引パイプを俺から奪い取り、自分に向けてスイッチを入れた。
一瞬の事で動けなかった。DELSONのモーターが唸りを上げる。
そして、キュポンと軽い音と供に女のがDELSONに吸い込まれた。
「ウソ!?マジ!?」
二度目のビックリだ。こんな年の瀬にビックリして良いものなのか?
もう、何が何だかわからない。
するとピロロンと軽い電子音が響き、DELSONのストレージボックスの内容が表示された。
もう〜どういう事だよ〜。頭の処理が追い着かないよ〜。




