第86話・シュミレーションな日
クララ様から励ましのお言葉を頂いて気持ちを切り替える。
とにかく、今はみんなを信じるしかないのだ。俺が向こうに乗り込んで無双しても面倒が増えるだけで、良い事なんかないからな。
何ともしがたい気持ちでギルドからの報告を待っているよりはと考え、午後はクララ様とダンジョンの経営について考えてみた。
ただ、普通の経営シュミレーションではなく『ダンジョン生物説』に則ったシュミレーションだ。まあ、実際に役立つかは別にしてダンジョンでやっている事が街の経済に関わっている事を再認識するにはちょうどいいはずだ。
「仮にユウキさんがおっしゃるように、ダンジョンに知性があるとしたなら、それを加味した方向でダンジョンの規制をしなければならないと思いますが…」
今、話し合っているのはクララ様が懸念しているダンジョンの知性による体内環境の改変の事だ。何かの切っ掛けでダンジョンからの素材が採取できなくなったり、危険度が急激に上がったりしては、街の財政にも響いてくるからね。
「そうですねぇ。罠の持ち込みを禁止したりとか?ですかね。ただ、ダンジョンの素材採取で生活している冒険者たちの採取効率が下がるかもしれませんが…」
「効率が下がると素材の取引価格が上がりますからねぇ。そうなると物価の上昇も招きかねません。それでは領民達の生活に影響が出ますから考えものですね」
この街の経済はある程度、ダンジョンに依存してる。それは年月を重ねれば重ねるほど依存度は増してくるだろう。
今、俺がやっているダンジョン内でのスライムの繁殖で体内環境の変化が起こり、素材が取れなくなってしまったら、この街は50年前のダンジョンが発見される以前の状態に戻ってしまう可能性もある。それはロンダーギヌス辺境伯が行おうとしている事業にとってもそれは痛手になる。
今後のダンジョン経営は、ダンジョンの性質をどれだけ正確に把握しているかが重要になってくるはずだ。
魔法学会の様な適当な学説だけに頼っていたら、遠からず経済破綻につながる危険性もあるのだ。
ならば、ダンジョンにどう対処したら良いのか?この問題に対してクララ様はダンジョンへの情報統制という、これまたトンデモない方策を打ち出した。
そして、この方策について煮詰めていこうとしていた時、執事のアルフレッドさんが討伐部隊の報告を携えて部屋に入ってきた。
「お嬢様、現場に動きがあったようです」
そう言ってクララ様に報告書を手渡した。クララ様はそれを一読して俺に渡してくる。
「交渉は完全に決裂したようですね。討伐隊が突入を開始したとの事です」
ギルドからの再三の投降勧告に応じず、敵は証拠隠滅の為に火を放ったようだ。
これを切っ掛けに討伐隊は敵の逃亡とこれ以上の証拠隠滅を防ぐべく突入を開始したらしい。
が、しかし…。なぜクララ様はソワソワしてるんだろうか?
まさかとは思うが、現場に行こうなんて言い出すんじゃないだろうな。
「さすがに現場に行きたいとは言いませんよ」
クララ様はそう言ったが、無理をさせるのは忍びない。
ここは現場に行った雰囲気だけでも味わってもらう事にしよう。
「そうですね。現場には行けませんが、仮にクララ様が現場で討伐隊を指揮するとしたらどうするかをゲーム形式でやってみませんか?」
「ゲーム形式ですか?」
「はい。図上演習というものです。図面上で駒を動かし作戦行動を再現するモノで指揮官や幕僚の意思決定の訓練をするモノですよ」
「面白そうですね。やってみましょう!」
そいうと、クララ様はメイドのナーシャさんに大き目の紙を用意させ、それに俺が敵の立て籠もっている屋敷の平面図を描いた。ちなみに駒はお茶請けに出たクッキーを代用させてもらった。
「私が敵側になったつもりで戦術を考えるのですか?」
クララ様に図上演習を適当に教えながらやってみることにした。
「はい。敵の行動を予測する感覚を身につける練習のようなモノですから」
「では、私がファミリーのボス『ゴールドン』だったなら…。兵はこう配置しますね」
そう言いながら、クララ様がクッキーを配置していく。
俺はそれに従ってギルド側が執りそうな戦術『包囲殲滅戦』を説明していく。
「ファミリー側はボスの逃亡を目的とした戦術を執るはずですから…。乱戦に持ち込もうとしますから………」
クララ様はギルド側を出し抜こうといろいろと戦術を編み出していく。
このお嬢様ってば、かなりの戦術家なのかもしれないなぁ〜。
「もしかしたら、屋敷には隠し通路があるかもしれませんねぇ」
なんて言い出す始末。敵勢力の半数が逃亡に成功する可能性まで見いだしてきた。
やっぱり、クララ様は逸材かもしれんな。こういう人が部隊の指揮についたら強力な戦力になるぞ。
そんなこんなで日も落ちた頃、ギルドから討伐完了の知らせが届いた。
報告書によると、ギルド側の被害は軽症者が出た程度だったらしい。
一方、ファミリー側は戦力の半分以上を失い、残りはその場で拘束されたという事だ。ただし、ボスのゴールドンと数人ほどの部下が逃亡を果たし、現在その行方を探索中との事。クララ様が予想した隠し通路が発見されたんだとか…。
まあ、冒険者誘拐事件の証拠も幾つか見つかったので作戦は半ば成功したという事だろう。
「ゴールドンを取り逃がしたの痛いですね」
クララ様はそう言うが、ギルドの探索能力は高いから遅かれ早かれ発見に至るだろう。動ける人間の半分も捜索に突っ込めば良いだからな。
これで俺のお仕事も完了ってことになるんで、ここでお暇しようと思っていたら、クララ様から今日は屋敷に泊まるようにとステキな笑顔で要請された。なんかクララ様は企んでるっぽい気がするんだよねぇ〜。
時間外労働でもさせる気じゃあないですよねぇ?
嫌ですよぉ、サービス残業はぁ〜。




