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第85話・俺の所為ですか?


サリナさんの呪詛を背にお嬢様の屋敷に向かった。


今日の天気は薄曇りで少し寒い。

ギルドでは本日早朝に『スピンクス・ファミリー』の屋敷を取り囲み投降とファミリーの即時解散を呼びかけ、それに応じない場合は討伐するという運びになっているらしい。

俺はその間、お嬢様のお相手をしていれば良いってのが今日のお仕事だ。


討伐隊の皆さんの獅子奮迅の活躍に期待しつつ、お屋敷の扉に付いたライオンの顔を模したドアノッカーでノックする。


「すみませ〜ん。ギルドからの依頼で来ましたぁ〜」


ガチャリと扉が開くと切れ長の瞳が印象的なメイドさんが出てきた。

うむ。パっと見、社長秘書って感じで良いね。

スーツ姿が似合いそうだ。


「ユウキ様でいらっしゃいますね。お待ちしておりました。中へどうぞ…」


おじゃましまぁ〜す。と挨拶しつつロビーに通される。

そこには前に見た事のある執事さんと騎士さんが待っていた。


「ご指名を頂きました。ユウキと申します。本日はヨロシクお願いします」


「こちらこそ、無理を言って申し訳ない。私は執事のアルフレッド。こちらはお嬢様の身辺護衛隊を束ねる騎士のロイダールです。そして…」


「私は、お嬢様のお世話をしておりますナーシャと申します」


と、みんなが自己紹介をしてくれたところで、少し唐突ではあるがこの世界のギルドの指名制度についてお話ししよう。


よくあるラノベの『指名依頼』ってのは高ランクからっていうのが普通だ。

しかし、この世界のギルドではランクに関わらず『指名依頼』が出来る。

この世界の指名制度は信用度の高い冒険者が仕事を受けやすくする制度であって、攻撃力の高い冒険者に危険なクエストを強制するような制度ではない。


なので、指名が入るクエストは危険性の低い『街クエスト』が多く、子供の世話や家屋の修繕、物品の配達等のクエストが大半なのである。

どのクエストも報酬は低いが冒険者の信用度が大きくものを言う仕事だ。

要は、真面目でしっかり仕事をする俺達『出稼ぎ冒険者』のための制度とも言えるのだ。

まあ、この制度が無いと『街クエスト』の塩漬け率が高くなるという理由もあるんだが…。


しかし、この制度にも欠点がある。

それが今、問題になっている冒険者の二極化だ。

討伐や護衛など危険性の高いクエストを受ける冒険者と『街クエスト』くらいしか受けられない低ランクの冒険者の二極化が進み、その事で格差や差別が生まれる一因になっているわけでギルド運営の悩みの一つでもあったりするんだわな。


まあ、この世界のギルドが国家の枠組みを超えた国際機関ではなく、あくまでも国家の一行政機関なわけでいろいろと問題を抱えつつも粛々と周辺地域に貢献しているってわけですな。


さて、そんなギルドの事は横に置いておいて、俺はメイドのナーシャさんに案内されてクララお嬢様がいる執務室に通された。


「お久しぶりでございます。クララお嬢様」


「こちらこそ、お久しぶりです。ユウキさん」


おや?俺への呼称が変わったな。前は『様』だったのに何かあったか?


「すみません。あの後、執事のアルフに平民に対して『様』付けは不要との指摘を受けましたので、御不快であれば直します」


そんな事があったのか。まあ、貴族が平民に対して『様』付けは不自然だものね。


「いえ、私は気にしていませんので、そのままでよろしいかと存知ます」


そういった細かい事まで気にするとは、貴族というのは面倒くさい地位なんだな。


「本日、ギルドの皆さんはマフィアに対処するという事になっていますが、ユウキさんはご存知でいらっしゃいますか?」


「はい。その事についてはある程度、情報は入っています」


クララ様にソファーを薦められて座ると、今回の事について話が始まった。

茶飲み話にしては、少々無粋な話だと思うけど…。


「私も何か魔導具の一つでも扱えれば、ギルドの皆さんのお役に立てるのですが、なにぶん武器の類は触った事もありませんので、とても心苦しく思っています」


いや、お嬢様にそういう事してもらっちゃコッチが困るのよ。


「いえいえ、ギルドとしてはクララ様には後方での職務を全うして頂けなければなりませんので、そこは御自重なさってください」


「そうだとは、わかっているのですが今回の件は私自身の事にも関わっていますし、証人や証言が多いほど後々こちらの利にもなりますので…」


そりゃそうだけどさぁ〜。お嬢様が現場に出る事はないぞ。


「その事に関してもギルドで対処しておりますのでご安心下さい」


「そうですか…。一応、ギルドには随時報告するようにと要請はしていますが…」


諦めが悪い人だなぁ、このお嬢様は…。万が一の事が起こったら責任なんて取れないぞ。その辺の事、わかってんのかな?


「クララ様は御自分が貴族だという事をお考え下さい。貴族には貴族の、平民には平民の仕事がありますから」


「そうでしたね。私には私にしか出来ない仕事がありますものね」


「そういう事です。荒事は我々ギルドの領分ですので御控えください」


やっと諦めてくれたようだ。これ以上、面倒な事は増やさないで欲しい。

ただでさえギルドは忙しいのに、今回の件で通常業務が滞っている所が出て来ているのだ。最近のロールさんやアドルさんは目にクマがあったりするんだよね。

デスマーチ続きで家に帰ってないじゃないかな。


とりあえず、物騒な話はこれまでにして俺は近況報告やダンジョンの状況なんかに話を変えていった。

やっぱり、茶飲み話ってぇのは和やかな方が良いに決まってるからね。



そして、昼食を摂る頃になると討伐部隊からの第一報が届いた。

執事のアルフレッドさんから渡された報告書にクララ様が目を通し、はぁとため息をついて俺に書類を渡してきた。


「向こうは梃摺(てこず)ってるようですねぇ」


「そのようですわね…。まぁ、予想はしてましたが…」


ほう…。クララ様はこうなる事が最初からわかってたみたいだ。


「どういうことでしょう?ご説明して頂けますか?」


「原因は幾つか考えられますが、一番は証拠の手紙がこちらの手に入った事だと思いますわ」


は?例のプラウドラ伯爵からの手紙が原因なの?どういう事?

俺がキョトンとしていると、クララ様が話を続けてくれた。


「あの手紙は彼らにとっても生命線だったんです。もし、何かの理由で彼らの犯罪が公になった時に、あの手紙を使って伯爵に保護を求めるなり、伯爵を人身御供にして減刑を求めるなり考えていたのだと思いますわ」


ええ?マジかよ?それじゃあ俺がこの状況を作ったって事じゃんか。


「その手が使えなくなったから、ここで粘って起死回生を狙っていると…」


「起死回生ではなく、死なば諸共って事だと思います。ここで投降しても縛り首は確実ですからね」


「一人でも多くの道連れを作る覚悟って事ですか…」


「そうだと思います。ギルド側の犠牲も少なからず出るはずです」


うわぁ〜。マジかぁ〜。勘弁してくれよぉ。

ルキアさんとマリアさんは大丈夫かなぁ?


「でも、ギルドマスターのロドリゴさんも無能ではありませんから、これくらいの事は想定済みのはずですよ」


そうだと良いんだが、なんか心配になってきちゃったなぁ。


「大丈夫です。皆さんを信じましょう」


う〜む。クララ様に励まされてしまった…。


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