第82話・次はなんですか?
夕方遅くになって俺達はギルドに到着した。
ガルダさん達はそのままソフィアさん達を治療室に運び込んだ。
ソフィアさん達は衰弱してはいるものの、たいした怪我もなく凍傷も軽度で済んだため大事には至らなかった。
ただ、クエストが失敗したって事で違約金の支払いとか大変そうだけど、冒険者家業は命が有ってナンボだからね。良かったんじゃないかなぁ。
あと、森でフェンリルが出た事が少々問題になって、ギルマスやら担当部署の人達が死にそうな顔しながら、その対応に追われていた。
そんなこんなあったけど、それから三日ほどの間は俺の生活はいつものようにダンジョンのゴミ撒きやら街クエストをこなしつつ安定はしていた。
で、その日も街クエストの雪かきをこなし終え、ちょっと早めの夕飯を食べた後にアパートに戻ると、そこにはルキアさんとマリアさんが待っていた。
「あれ?お二人とも…、どうしたんですか?」
「ゴメンね。ちょっとイイかな?内密に話があってさ」
ルキアさんがバツの悪い顔をしてそう言ってきた。
「ええ。構いませんけど…。とりあえず部屋に入って下さい。外じゃ寒いですから…」
そう言って俺は二人を部屋に招き入れた。
「それで、内密の話って何です?」
二人にお茶を出しながら話を促す。ま、この二人の内密の話はたぶん例の件だと思うんだけどね。
「実はさぁ…、マフィアの件なんだけど…」
そう、ルキアさんが切り出した。
ほらぁ、やっぱりそうだった。そんな予感がしてたんだよねぇ。
俺はため息をつきながら、更に促す。
「秘密裡に内定を進めて一応は成果が出たんだけどね」
ルキアさんの話に寄ると、この街の裏側を仕切る二大勢力に『エシェド・ファミリー』と『スピンクス・ファミリー』ってのがあって、互いにしのぎを削ってるんだそうだ。
で、今回の件に関わっているのが『スピンクス・ファミリー』らしいってところまで掴んでいるんだけど…。巧妙な隠蔽工作をしていて決定的な証拠が掴めない。
だからといって、敵対勢力の『エシェド・ファミリー』に協力を申し出る訳にもいかず手詰まり状態なんだそうだ。
「決定的な証拠さえあれば、領主様の勅令って事に出来て討伐対象にできるんだけどねぇ」
「え?マフィアって、盗賊と同じように討伐対象じゃないんですか?」
「そこがちょっと、ややこしいんですけど討伐対象じゃないんです」
そう言ってマリアさんが説明してくれた事を簡単にまとめると、マフィアってのは辺境じゃ治安維持に一役買っているんで、安易に排除できないんだと。
ま、こっちの世界じゃ警察なんていう社会秩序の維持を目的とした公権力組織なんて都合の良いモノなんて存在しないわけで〜。
王様のいる王都や領主様のいる領都、その他主要都市なら騎士団や近衛兵がいるから何とかなるが、辺境のド田舎となると治安維持の役割がギルドに委託されるんだけど、それだけだと無理が生じる。
そこでその土地の暴力組織に内々に頼んだりするだわな。多少の事なら目を瞑るからって感じでさ。
これも政治判断ってヤツだね。清廉潔白なだけじゃ国は運営できないって事らしい。ま、日本も終戦直後から60〜70年代くらいは『や』の付く御商売の人達を治安維持に利用してたって話もあるからねぇ。
そんな訳でマリアさんが言うことにゃ、件の『スピンクス・ファミリー』を潰すには相手がぐうの音が出ないほどの証拠がないといけないんだとさ。
「そこでなんだけどさぁ〜」
と、ルキアさんが俺に拝んきた。
「俺にその証拠を見つけて来て欲しいと?」
「そゆこと〜」
「なに可愛い子ぶってるんですか…」
瞳をキラキラさせておねだりするルキアさんは正直言って可愛いです。
こんな技まで持ってたんだね〜。さすがCランク冒険者、侮れません。
「私はこういうの正直、気が進まないんですけど…」
マリアさんは俺がこの件に関わるのは反対らしい。
「だって、マフィア云々って結局のところギルドのメンツが掛かってるだけでしょ?マフィアの排除だけなら、冒険者個人を精査すれば良いだけの事だと思うんだけどなぁ」
まあ、今回の件でギルドはマフィアに好き勝手をさせた事でメンツ丸潰れになったのは事実だしね。
だからこそ、ギルドの実力を誇示して他の輩を威圧しておきたいと思ったのだろう。
「メンツだけの事なら、見えない魔法使いを使う理由にはならないと思うの。それにユウキくんもクララお嬢様も見えない魔法使いは『禁忌』にすべきって言ってたじゃない」
「マリアの言う事も、もっともだと思うんだけどね…」
ルキアさんはマフィアがなぜ冒険者だけを狙い撃ちで誘拐しているのか?それが不安らしい。そもそも誘拐なら冒険者より一般人の方が反撃のリスクが低い。
でも、彼らはそんなリスクを冒してまで冒険者を誘拐している。それは裏で何か大きな事が起きているのでは?と思うのも無理はない。
「そんな不安は早めに摘んでおきたいって事ですか…」
「女の勘ってヤツではあるんだけどさ」
「そりゃ、当たる確率が高そうですね〜」
勘というよりも予想だと思うが、これが当たっていたら取り返しのつかない事になるかもしれないな。俺も少々不安になってきた。
「しょうがない、イイですよ。やりましょう」
「!?。イイの?やってくれるの?」
「ええ、ギルドが動き出す切っ掛けを作ったのは俺ですからね。やりますよ」
「ユウキくん…。本当に良いの?」
マリアさんが心配そうに言ってくる。
「ええ、でも証拠を持ち帰るだけですからね、後の事は二人に任せますから」
「証拠さえ上がれば、後はこっちで何とかするから大丈夫よ」
こうして俺の次なるミッションが決定した。
あ?そう言えば、『スピンクス・ファミリー』のアジトの場所を教えてもらってなかったわ。
ルキアさ〜ん。敵のアジトってどこにあるの〜?
2024/01/24
今更ながら、マフィアの名前と後に出る街の名前が同名になっていたのに気づきました。
遅まきながらマフィアの名前『モルドバ・ファミリー』を『エシェド・ファミリー』に変更します。




