第70話・ちょっとだけダンジョン講座
その晩の事、ルキアさんとガルダさんに捕まった宇宙人みたいな感じで部屋に連行されたノートンさんに事情聴取という名のお説教を執行した。
それによると、見えない魔法使いの危険性に気付いたクララ様はギルドに出していた捜索依頼を取り下げようと動いたらしい。
その行動はオカルト大好きノートンさんにとって、非常に都合が悪かった。
なんせ、自分の趣味のオカルト捜査を他人のお金を使って堂々と出来るはずだったのにそれが消えて無くなる事態だ。
そこでタイミングよく知り合ったばかりの俺を出しに使って、それを阻止した上に個人依頼に変更させたんだとか…。
依頼料とか成功報酬で金貨1枚(100万円くらい)もらったんだとさ。
それを聞いたルキアさんとガルダさんにノートンさんは折檻されてた。
まさか、Fランクの俺が貴族と接点を持つとは思わなかったんだろうね~。
んで、翌日。
領主様とダンジョンに行く事になっているんだけど…。
領主様が乗っている馬車には何故だか奥様とお嬢様も同乗していた。
あれ?ダンジョンに行くのは領主様だけだったんじゃないの?って思ってたら。
急にお嬢様と奥様も同行するって言いだしたんだって。
だから、護衛の騎士さんたちもワタワタしてた。
お嬢様も案外、行動派だったみたいだ。ついこの間、襲われたばかりのはずなのになんというか剛毅なお方だ。護衛する騎士さん達も大変だな。
そんなこんなで、俺達ギルド組は領主様とは別の馬車というか荷馬車に乗って先行していた。ちなみに俺達の荷馬車には護衛はいない。
護衛は全員、領主様の馬車に付いている。
何故かと言えば、俺達が襲われても体制にはほとんど影響がないからだ。
それに俺達は一応は冒険者、何かあった時は素手でも対処しろって事なのだろう。
これが貴族と平民の差だ。この世界の不文律なのだから仕方ない。
まぁ、俺の場合はDELSONを召喚して対処するから良いんだけどね。
ダンジョンへは何事もなくすんなりと到着した。
そりゃそうだ、ダンジョンはここ五日間は封鎖中。冒険者がいなければ、そいつらを当てにして商売をしてる連中は実質休業だ。いつもなら混雑している商店街も閑散としていた。
ダンジョンの管理棟では管理部長のトラスさんと管理課長のダルトンさんが伯爵様たちを出迎え、早速ダンジョン内へと案内を始めた。
「ダンジョンの中は暖かいんですねぇ」
ゲートを抜けて第一階層への通路に入るとクララ様がそう呟いた。
それに答えるように管理部長のトラスさんが話し出す。
「よくお気づきになられましたな。ダンジョンの中は年間を通して気温の変化が少なく非常に過ごしやすくなっているのですよ」
「ここだけの事では無く、全てのダンジョンでそうなっているのですか?」
「いえ。例外もあります。遺跡型のダンジョンですと季節によって気温の変化が見られますね」
「何故、遺跡型は気温が変化があるのでしょうか?同じダンジョンなのに…」
「それについては、まだ研究が進んでおらず学会では謎とされています」
トラスさんが話した事は俺が調べた事とは少々違う。実際にはその謎を解明できたとされる説が出たのだが、学会から黙殺された。
しかもその説を提唱した教授は学会から追放されたというオマケまでついている。
だけど、ここで俺が出しゃばって異を唱えると面倒な事になりそうなんで黙っておくのが良いだろう。
「そう言えば、ユウキ君はダンジョンについて学会とは異なる見解を持っていると聞いたが君はこの件についてどう思うか?」
突然、伯爵様が俺に話を振ってきた。これに慌てたのは管理課長のダルトンさんだった。そりゃそうだろう、俺の支持している学説は学会の権威から全否定を喰らったトンデモ学説だお偉いさんに聞かせるモノじゃない。
「恐れながら、伯爵様。彼の考えは少々奇抜です。学会からも否定されているモノですので、ここで語らせるのは如何なものかと…」
「そんなモノは構わん。我々は学会の権威でもなければ、研究者でもない。彼の考えが当たっていようが見当違いであろうが、それは関係のない事だ」
「しかしですなぁ…、ユウキが支持している説は…」
「アドル君から聞いているので知っている。『ダンジョン生物説』だろう?」
「そうです。あのインチキ学説です。しかもその説を提唱した人物は学会から追放されてもいると聞き及んでおります」
「それでも構わん。私は彼の見解が聞いてみたいのだよ」
ん~……。どうしたもんかねぇ~。ここまで伯爵様がお望みなら話すしかないのかな~なんて思って隣にいるギルマスの顔を伺ってみたんだけど、ロドリゴさんもちょっと答えを出せないでいるようだ。
「私もユウキ様の見解を聞いてみたいですわ」
クララ様までがそう言いだしたので、ロドリゴさんが仕方ないかって具合で俺に向かって頷いた。
「では、お話しますがこれはあくまでも私見ですので、合っているかはわかりませんよ」
「それは理解している。私は君がどう考えているのかを知りたいだけなのだよ」
そう言って伯爵様は俺に話を促した。
「まず、なぜダンジョン内が年間を通して過ごしやすい気候なのか?ですが、『ダンジョン生物説』によれば、ダンジョン自体が環境を調節しているからとなっています」
「なぜ、ダンジョン自体が環境を調節しないといけませんの?」
そう質問したのはクララ様だった。
「それはですね。ダンジョンが食料である獲物を誘い込むためですよ」
「ダンジョン自体が食事をするんですか?」
「はい。ダンジョンは自然に出来た不思議な穴倉ではないんです。ちゃんとした生物なんですよ。それならば、食料確保の為に獲物を外からダンジョン内に誘い込まないといけません。だから外の環境に合わせてダンジョン内の環境も調節するんだと思われます」
「ダンジョンに住んでいる魔獣が食べる為ではないんですか?」
「それならば、魔獣が外に出て獲物を狩れば良いだけの事です。でもダンジョン内の魔獣はスタンピードの時以外はダンジョンから外には出てきません。それに私はダンジョン産の魔獣は食事をしないと考えています。事実、スタンピード時の魔獣は獲物を襲いはしますが、それを喰ったという事例がありません」
「では、ダンジョン内では魔獣に襲われるだけで食べられるような事はないという事でしょうか?」
「そういう事になるでしょうか。しかし危険なのは変わりありません。ダンジョン内の魔獣は獲物を殺しにくるのですからね」
「それでダンジョン内で命を落とした獲物はどうなるのでしょう?そのままダンジョンに吸収されてしまうのしょうか?」
「その役を担っているのがスライムだと私は考えています」
「スライムがダンジョンの消化吸収の手助けをしているという事ですか?」
「はい。その通りです。魔獣が獲物を仕留め、スライムが獲物を分解してダンジョンの糧にする…。そんな感じでしょうか」
「それが本当なら、このダンジョンは…」
「そうです。この管理されたダンジョンは絶食されている状態と思われます」
このダンジョンの現状にクララ様は気づいたみたいだ。
ただ、これはダンジョンが生物であるって事が前提の懸念だったりもするんで他の人達にとっては、いまいち危機感が伝わらない。
最悪の場合、このダンジョンの寿命を縮めているって事なんだけどね。
こんな感じで視察現場に到着する間、俺のダンジョン講座が続いた。




