第69話・お嬢様ともお話しました
その後、ランチを挟んでロンダーギヌス伯との話し合いは続き、学校事業に目処が付いた時期を見計らって教師の拡充するって事になった。
その時には俺の意見も取り入れて人選してくれるんだってさ。
ありがたいことだ。俺自身にも学校事業とは関係なくちょっとした計画があるんだけど、この人事権を上手く使わせてもらうとしよう。
今、俺の中で温めている計画をロンダーギヌス伯に話せば乗ってくれるとは思うけど、もう少し時期を見て話そうと思っている。
うまくいけば権威への対抗手段にもなるけど、政治が絡むとかなりややこしい事になりかねないから慎重に時期を見計らっていこう。
そして、学校事業の話し合いの中で、アサイ村には年明け早々にも学校施設の建築のために伯爵様が集めた大工さん達が行く事が決定された。
足りない人手はギルドで募集する事も決まり、来年の春くらいには生徒の募集を掛けるって事で学校関連の話し合いは終了した。
俺は来年の春、アサイ村に帰ったら学校のお手伝いをする事になるんだろうな。
大体そんな感じで本日の会見はお開きとなった。で、俺達はと言うと今日は領主様のお屋敷に一泊して明日、ダンジョンへと行く事になったわけだ。
やっぱりかぁ〜。管理部長のトラスさんの読み通りだったな。
この伯爵様は意外と行動派なんだねぇ〜。
ディナーの時間、伯爵様の奥様とお嬢様を紹介された。本当は御子息様もいらっしゃるはずなんだけど、御子息様のコルディイヤ様は王都で騎士の訓練を受けているので不在との事らしい。
奥様のエルフリーデ様は濃い緑の髪でふくよかな美人さんで優しさが滲み出ている雰囲気の人だ。
そして、お嬢様のクラリベル様は絵に描いたような可愛いお嬢さんだ。オレンジ色の髪とキラキラと光る瞳がとても印象的だ。
この美しいお二人をなぜ俺の様な下っ端冒険者にご紹介あそばせたかと言うと…。
「ノートン様がおっしゃっていらしたのですが、ユウキ様は早くから見えない魔法使いの存在を確信していた『肯定派』だと伺いました」
と、クラリベル様がキラキラと瞳を輝かせて、そう宣った。
オイ…。これはどういう事ですかな?ノートンさん?…。
俺はアンタに一言も『肯定派』だと言っていないし、むしろ『懐疑派』って言ってたと思うんですけど〜?
チラリとノートンさんを睨み付けると、スっと視線を逸らしやがった。
なぜかは知らんが、ノートンさんは俺を『肯定派』の急先鋒にして自分の行動を正当化してたみたいだ。
俺が他の『肯定派』をまとめあげ見えない魔法使いの存在を証明するようにとギルドに働きかけていたとかなんとか適当な事を言っていたんだろう。
ここで俺が『懐疑派』だったなんてぶっちゃけてしまえば、ノートンさんの立場が悪くなるだろう。ならば、恩を売っておこうかな。
「ええとですね。俺…じゃない…私はただ巷に流布している噂をまとめて総合的に判断した結果、彼の人物の実在を認めたというだけでして…」
「私はユウキ様の噂をまとめ、情報を精査出来る能力こそが素晴らしいと感じますわ」
「お褒めいただき、ありがとうございます。噂とは情報の断片ですので、そこには個人の希望やら利益誘導と言った余計なモノが含まれます。それを差し引いて残ったモノには幾分かの真実があると思った次第でして…。それに彼の人物が
実在したのならば、魔法もしくは魔導具のさらなる発展に帰依できるのでは?と浅はかにも考えた次第です」
「それは素晴らしいお考えですが、私の考えは少し違うのです。私達親子はその謎の人物に命を救われた者…。ただ、あの方にお礼の一言でもと思ってギルドに依頼を出したのです。ですから、あの方の知識や能力を利用しようなど思ってはいないのです」
「なぜ、その様なお考えになったのしょうか?」
「それは、あの方が姿をお隠しになっているからです。先ほどマリア様もあの方に救われた経験者だと知って確信いたしました。あの方は自分の持っている知識や能力が如何に危険かを知っています。そしてそれが世界に広まった時、世界がまた一万年前に滅んだ時と同じ様に炎に包まれる事を恐れているんだと思います」
ふむ、流石は高等教育を受けているお嬢様だ。しかも、このお嬢様はこの世界の成熟度にも疑問を持っている。
「お嬢様は今の世界が彼の者の叡智を持つに値しないとお考えですか?」
「はい。一万年前に滅んだとされる超魔法文明の人々ですら扱い切れなかった叡智です。その様なモノは今の世界では害悪にしかならないと考えます」
「では、私の考えも改めましょう。彼の者が自在するならば、『禁忌』にすべき人物として極秘に扱い、政治及び軍事には極力近づかせないよう配慮する方が良いと…」
「そうですね。あの方もそれを望んでいると思います。それにもしあの方を怒らせるような事になれば、この国が滅びる事になりかねませんから…」
「お嬢様がそこまでお考えになっていたとは…。感服いたしました」
「あら?ユウキ様も最初から同じ考えだったのではないのですか?」
そう言ってお嬢様はニッコリと微笑んだ。
完敗だ…。ノートンさんに恩を売るついでに貴族は見えない魔法使いの扱いにどう考えてるかを探ってみたけど、このお嬢様にはお見通しだったらしい。
しかもだ、このお嬢さんは自分の両親の目の前で貴族的発想の危険性を指摘してきた。仮に親が貴族的発想で動こうものなら先陣を切って妨害する覚悟もしているのだろう。
ま、この娘の両親なら既に気付いているに違いないだろうけど…。
「そこまでお見通しでしたか。お嬢様には勝てませんね」
「クララ…」
「は?」
「クララとお呼び下さい。親しい方々にはそう呼ばれていますので」
「はい。ありがとうございます。クララ様」
クララ様は先を見通せるほど有能な方だ。とりあえず、味方にしておく方が得になるだろう。
貴族に味方がいるかいないかの違いはかなり大きいし、アサイ村の利益にもなるしね。
クララ様との見えない魔法使いの扱いについての話は済んだ。このあとはノートンさんにちょ〜っとお話を聞かねばならない。
ノートンさ〜ん。逃げようとしても無駄ですよ。空気の読めるルキアさんとガルダさんが逃げ道塞いでますからね〜。




