第61話・パーティーにもいろいろとあるようです
リンゴみたいな果物(面倒くさいから以降はリンゴって呼ぶ)の皮を剥いて食べやすい大きさにしてから皿に盛り付ける。
ルキアさんはその間にマリアさんに話を聞いていた。
「ニードルベアの討伐報酬は本当にいらないんだね?」
「はい。私が倒したわけじゃありませんから」
「本当のところどうなの?少しくらいは圧倒したんじゃない?」
「そんな事ありませんよ。乾坤一擲のファイアーアローは針を焼いただけですし、杖のアイスバレットは足止めにもならなかったんですから…」
やっぱりマリアさんは討伐の事実を否定していた。
「はい、リンゴ剥けましたよぉ。どうぞ、食べてください」
「お!ありがとう」
ルキアさんが当然のように手を付ける。
マリアさんのお見舞いなんですから先に手を付けないの!
それに食べかけも残ってるでしょ!!
「ありがとうございます。美味しいです」
「いえいえ、喜んでもらえて良かった。で、クマの方はその後どうなったんですか?」
リンゴを食べながら、話の先を促していく。
「ええ、その後は必死に逃げるだけで、ロバートは…あ!ロバートっていうのは私のパートナーの剣士なんですけどね。そのロバートが私を残して逃げ出しちゃって、それで…」
「それで、必死で討伐したって事ですか?」
「だからぁ、討伐してないの!!追い着かれて反撃したら杖が故障しちゃってね。それで、もうダメだって思った時に突然、ニードルベアが爆発したのよ」
「爆発?ですか…」
「そ、パーンってね。で、目の前にクマの頭が落ちてきて、そのあとは記憶が曖昧で気がついたらここだったの」
やっぱりマリアさんにとってはクマの生首とのにらめっこは、かなりの衝撃だったらしい。あの後はショック状態で森を彷徨っていたんだろうなぁ。ほったらかしにしてゴメンなさい。ちょっと反省…。
「まぁ、それが事実なら、ノートンが御執心の『見えない魔法使い』が現れた可能性も出てくるんだよねぇ」
ルキアさんは少し困った顔をして言った。最近、ノートンさんはギルドの仕事そっちのけで『見えない魔法使い』探しに熱を上げていらしい。困ったもんだよってルキアさんが愚痴る。
「だから、私は実績も討伐報酬もいらないって言ってるんです。でも、ロバートは
報酬だけでも請求しようってうるさくて…。しかも勝手に報酬請求の手続きまでしてたんですよ」
「それで、あのケンカか…」
「最近のロバートは変にお金に執着してて、高額報酬のクエストばかり選ぶようになってきてるから、私の実力に合わなくてそれでパーティーを解消しようかなって思ってるんですよ。まぁ、今回はロバートに勧められた保険で金銭的には助かったけど…」
「へぇ〜。保険はロバートに勧められて入ったんだ」
なんか、ルキアさんが考え込み始めたよ。どうも引っかかる事があるみたい。
「ユウキ、マリアをギルドに運び込んだ時の事は覚えてる?」
急にルキアさんが俺に話を振ってきた。
「ええ、覚えてますよ。ルキアさんたちが討伐隊の編成で忙しくしてましたね」
「あれね、討伐隊じゃなくて捜索隊だったのよ」
「ああ、マリアさんの捜索をしようとしてたところにタイミング良く俺がマリアさんを運び込んだって感じですね」
「うん。でも、あの時は生死不明のマリアの捜索じゃなくて、マリアの遺体の捜索と回収を目的にしてたんだけどねぇ」
ありゃ?なんだかキナ臭くなってきたなぁ。
「ロバートがギルドに救援要請をした時に彼はこう言ったの『マリアがニードルベアに殺されたから、捜索隊を出してくれ』ってね」
「なんすか!そりゃ?自分が逃げ出した時はマリアさんは生きてたのに、殺されたって?しかも討伐隊じゃなく捜索隊って?」
「変だと思うでしょう?」
「ですねぇ。まるでマリアさんが死んでた方が良いって感じですね」
「どういうことですか?」と当事者のマリアさんはわかっていないらしい。いや、わかっているけど信じたくないってところかな?
「マリアさん、つかぬ事を伺いますが保険金の受取人は誰になってますか?」
「え?え〜と……。たぶん親になってるはずですけど…ロバートがやってくれたんで…」
「そうですか。ルキアさん、確認のお願い出来ますか?」
「ああ、今から確認してくるよ」
そう言ってルキアさんは治療室を出ていった。
保険金の受取人がハッキリすれば、今回の件の全貌が見えてくるだろう。
だからと言って状況証拠だけじゃどうにもならないけどね。
さて、雰囲気が陰々滅滅としてきたんで少し話題を変えよう。
これ以上はマリアさんの健康に良くないしね。
「話は変わりますが、マリアさんの杖を見せてもらって良いですか?」
「ええ。構いませんよ。そこに置いてある杖です」
ベッドサイドに立て掛けてあった杖を見てみた。
かなり使い込んでいるのか汚れや傷が目立つ、それにデザイン的に古さを感じさせる。
「ずいぶんと、使い込んでますねぇ」
「ええ、中古品なんですけど、私が認定を取れたお祝いにって父がプレゼントしてくれたんです」
「それが、戦闘中に故障したと…。あの、メンテナンスはいつやりましたか?」
「え〜と……。たしか3〜4年前に外見メンテナンスは受けましたけど…」
「てぇことは、内部メンテナンスは受けていない?」
「はい。父から貰ってから一度も受けてません」
うわぁ〜。マジですか?命を預ける道具なのに、メンテナンスしてないって……。
毎日、分解清掃しろとは言わないが、せめて年一くらいは分解点検は受けないと今回みたいな事になっちゃうぞぉ〜。
「あの…。魔導具ってメンテナンスフリーじゃないんですか?」
「高価な魔導具ならメンテナンスフリーの物もありますけど、年に一度くらいの点検整備はした方が良いですよ。故障のリスクが減りますから」
「そうだったんですねぇ」ってマリアさんは反省しきりだった。
なんかあまりにも可哀そうになってきちゃったんで、俺はマリアさんにある提案をしてみた。
「あの…。良ければこの杖、俺に預からして頂けませんか?」
「どういう事でしょうか?」
「え〜とですね。俺は趣味で魔導具製作をやってるんですよ。で、メンテナンスも修理もある程度はできますから。もちろんお代はいただきませんので…」
「でも、魔導具って素人じゃ扱えるモノじゃないって聞いてますけど、大丈夫なんですか?」
「不安なのはわかります。俺が扱えないような所は魔導具技師のユーノさんに手伝ってもらいますから安心してください」
「え!?あの有名なユーノブランドのユーノさんですか?」
「ええ、俺はそのユーノさんに教えて頂いてますから」
「そうですか。ならヨロシクお願いできますか?」
「ありがとうございます。丁寧に扱いますので安心してください。一応、預り証も書いておきますね」
そう言って、俺は普段使っている伝票を預り証代わりにしてマリアさんに渡した。
と、その時タイミング良くルキアさんが戻ってきた。
ドアの外で俺を手招きしているので、マリアさんに断って治療室を出た。
「ユウキ、アンタの想像通りだったよ」
「やっぱり、受取人はロバートになってましたか」
「ああ、でも今回の件は計画的だったのかな?」
「それは違うでしょ。今回の件は偶然を利用しただけだと思いますよ」
「だよねぇ。ロバートがニードルベアを用意できるとは思えないしね」
「ええ、でも次はちゃんと計画してるはずですよ」
「次もあると思うの?」
「たぶんね、それも近いうちだと思います」
「そうか…。なら警戒しておきましょう」
「それで悪いんですが、マリアさんの入院を後2〜3日延ばしてもらえないでしょうか?」
「出来なくはないけど。どういう事?」
「俺の方でもマリアさんの安全マージンを広げる為にちょっと準備をしておこうと思いましてね」
「そう、わかったわ。手続きしておく。準備ができたら教えてね」
「了解です。じゃ、早急に準備に取り掛かりますね」
「ヨロシク。マリアの事は任せて」
そう言うと俺は準備に取り掛かるべくギルドを出ていった。
う〜ん、なんだかイベントっぽくなってきたぞ〜。




