第60話・そうだ、お見舞いにいこう
おはよう~ございます。昨日はギルドから戻って速攻で寝ました。
やっぱ徹夜は良くないね。元の世界では徹夜なんかほぼしたことがないからなぁ。
で、ここである事に気が付いた。俺がどうして俺TUEEEEが出来ない理由……。
それは、俺が元の世界で『ホワイト企業』に勤めていたから。
みなさんもお気づきだろう。ラノベの主人公は大抵『ブラック企業』に勤めていてトラックに轢かれて異世界に来るのだ。
しかし、俺の勤めていた会社は真面目なホワイト企業、週休二日は確実だし残業も少ない。給料はちょっと低めだったけど社員はみんな和気藹々と働いていた。
しかも俺はこの異世界に飛ばされた時、トラックに轢かれてさえいないのだ。
これじゃあ、俺TUEEEEは出来ないわなぁ……。なんか納得ぅ~。
さて、そんなくだらない事は置いておいて、本日の予定は買い出しである。
ポーション製作用の薬草類とか携帯食料用の小麦粉、肉、野菜その他諸々を買わないといけない。それからついでに魔導具製作用の材料も買い足しておかないとな。
エライ散財だが、これも必要経費だしねぇ~。
あれこれと買い物をしながら街をぶらつく、これが意外と楽しい。
ふと、小さな露店に目がいった。果物屋みたいだ。
色とりどりの果物を売っている。
そうだ!ギルドにスライムゼリーを売りに行くついでにお見舞いにでも行くか。一応は彼女の怪我の半分は俺にも責任があるんだしね。このまま無関係を気取るのも後ろめたい。よし!そうしよう。
そう思ったら即行動だ。露店でいろいろと果物を買い込み、ギルドに向かった。
ギルドに着くと雇われのノートンさんとガルダさんが数パーティーを連れ立って何処かに出掛けるところに出くわした。
「よう!ユウキ。昨日はご苦労さんだったな」
ノートンさんが気さくに声を掛けてきた。
「どもです。これから皆さんでクエストですか?」
「ああ、例のニードルベアの死体探しに行くところさ。保険の事もあるし、一応は確認しないといけないからな」
「そうなんですか。ご苦労様です」
「何なら、ユウキも参加するか?」
「遠慮しますよ。Fランクの俺が参加したら足手まといにしかなりませんからね」
「そうか。なら仕方ないな。それじゃ行ってくるよ」
「いってらっしゃい。気を付けて」
ノートンさんたち森に向かうのを見送る。総勢15~16人の団体さんだ。
単なる死体探しのクエストだけど、みんな重装備だ。
ニードルベアがそれだけ強くて脅威度が高い魔獣って事なんだろうなぁ。
そんな事を考えながらギルドの買取カウンターに向かい、いつものようにスライムゼリーを納入しているとルキアさんがいた。
今日は別行動のようだ。何やら職員さんたちと打ち合わせをしている。
ゼリーの代金を受け取っていると、打ち合わせを終えたルキアさんが声を掛けてきた。
「昨日はお疲れ様」
「ルキアさんもお疲れ様です。今日はノートンさんと一緒じゃなかったんですね」
「ああ、アタシは領主様の護衛の件があるから、手分けしてね」
「護衛ってルキアさんたちが担当になったんですね」
「そうだよ。ユウキも絡んでるんだってね」
「ええ、趣味でやった事が領主様の眼に留まったようで…」
「そうなんだ。アンタも災難だねぇ~」
ルキアさんも領主様の人となりを知っているのだろう。災難とか言いながらニシシって笑いながら楽しんでいる。
「で、今日はゼリーを売りに来ただけかい?」
「いえ、ついでと言っては何ですけどお見舞いに…」
「マリアのお見舞いね。アタシも一緒に行って良いかしら?ちょうど話もあるし…」
「ええ、構いませんよ。それなら一緒に行きましょう」
ルキアさんと一緒に治療室に行く。ドアをノックしようとした時、室内が何か騒がしい事に気付いた。
「出って!!もう!顔も見たくない!!!」
怒声と共にドアに柔らかい物が当たる音がした。枕でも投げつけたのかな?
何が起こってるんでしょうかねぇ?って感じでルキアさんと顔を見合わせていると、ドアが開いてイケメンさんが出てきた。
あ!この人、マリアさんの彼氏さんだ。ナニナニ?痴話喧嘩ですか?
彼氏さんはルキアさんと目が合うと気まずそうに去っていった。
何とも言えない空気が流れているけど、ここでボ~っとしてても仕方がない。
覚悟を決めてルキアさんを先頭に治療室に入った。
「マリア、失礼するよ」
「あ…ルキアさん…」
ベットの上のマリアさんが嫌なところを見られちゃったなぁって顔をする。
でも、ルキアさんはそんな事は知りませんよってな具合で話始めた。
「マリア、紹介しておくよ。コイツがアンタを助けたユウキだ」
「初めましてで良いのかな?ユウキです。一応、Fランクの冒険者をやってます」
マリアさんが俺の事を覚えているかわからないので、変な挨拶をしてしまった。
「マリアです。助けていただいて、ありがとうございます」
「いえ、たまたま助けただけですから。怪我も大したことなくて良かったですね。
これ、お見舞いです。良かったら食べてください」
そう言って露店で買い込んだ果物を出した。
「お!美味しそうじゃない」
と、ルキアさんがリンゴに似た果物を勝手に取り出して噛り付いた。
「ちょっと、ルキアさん!マリアさんに買ってきたお見舞いなんですから勝手に取らないでくださいよぉ」
「一つくらいイイじゃん。たくさんあるんだから」
「だからって、せめて噛り付くのはやめてくださいよ。ちゃんと食べやすく切って出しますから」
そう言って俺はナイフと皿を備え付けの棚から用意した。
冒険者の女性がガサツ設定は定番中の定番だけど勘弁してほしいなぁ~。




