第58話・拾ったモノは届けましょう
え~と……。大失態です。ヘイゼル爺さんが居たらお説教では済まないほどの大失態です。折檻確実の懸案です。
あれほど油断するなと言われていたのに、完璧に油断してました。
本当ならば、キャンプ地の周囲に警戒用の『鳴子』(鳴り物が付いてるロープ)を張り巡らしておくんだけど、それもしなかった。
それで侵入者が目の前に来るまで気が付きもしなかった。
今回の侵入者が危険な魔獣や盗賊だったら、確実に俺は殺られていたはずだ。
反省しきりである。今回の事を教訓にして更なる安全マージンの確保に努めよう。
さて、反省はここまでとして目の前にぶっ倒れてる彼女をどうにかしよう。
まずは、クマの生首をどかしてっと…。
あちゃ~。ニードルベアの針の処理もせずに素手で掴んでたのかぁ。
左手と左太股に何本も針が刺さってるぞ。酷い状態だ。痛くなかったのかな?それだけ錯乱してたって事か?とにかく傷の処置をしなくちゃな。
さて、どうしよう?あいにくと俺はファーストエイドキットなんて御大層なモノは持ってない。治療したいのは山々だが、下手に針を抜いて大出血なんてしたら大変だしなぁ~。とりあえず、傷薬の軟膏でも塗っておくかな。あとはギルドで治療してもらおう。
しかし考えたら、俺って体力回復用のポーションすら持ってないんだよなぁ。
これじゃ、またこんな事があった時に大変だ。
早めにファーストエイドキットを揃えておく必要があるな。
んで、後はどうするか?って言っても彼女に対して出来る事はほとんど無いんだよねぇ。
出来る事と言えば水を飲ませて、テントで寝かせておくくらい。
なんか熱も出てきたみたいだし、辛そうだけど夜の森を移動するのは危険すぎる。
今夜は我慢してもらって、明日の朝一番でギルドに連れて行くとしよう。
じゃ、朝一に行動開始出来るようにクマの生首の処理と担架を作っておきますか。
あぁ~。今夜は眠れそうにないなぁ~。
ようやく夜が明けてきました。昨夜はクマの針の処理をしてから簡単な担架を作りました。担架はちょっと工夫して片側に厚めの板を車輪状にして付けました。
これなら、一人で運べるだろう。
やる事はこれだけなんで、少しくらいは眠れるかな?なんて思ったんだけど、無理でした。だってめちゃくちゃ寒いんだもの。だから昨夜はクマの生首と焚き火を囲んでの徹夜となりました。結構、辛いです。
軽くストレッチをして、眠気を晴らしてから彼女の様子を見てみた。
「大丈夫ですかぁ~」
返事がない。まだダメっぽいようだ。
熱も下がってない様子で一応水分補給はさせてはいるんだけどね。
少し早めだけど移動を開始しよう。早くギルドに行って治療してもらおう。
ギルドなら、回復魔法を使える人も治療薬もあるからね。
俺は彼女を寝袋ごとテントから引っ張り出して、担架に括り付けた。
少々、キツいかもしれないが我慢してもらおう。
それからテントとクマの生首をDELSONに収納して移動を始めた。
配達ミッション開始です。
重いです。森みたいな不整地で人間一人運ぶのって大変なのねぇ。
ゴリゴリと担架を引きずって一時間もしない内に息が上がってきた。
いくらDELSONなんてチートアイテムがあっても俺自身の能力が向上するわけじゃない。
ハッキリ言ってしまえば、俺の体力は一般人以下だったりするわけだ。
「だからと言って、DELSONで担架ごと吹き飛ばすって事はできないしなぁ」
徹夜と体力の無さで頭が回らなくなってきて、そんな不穏な考えが頭を過ぎる。
イカんねぇ。ホント睡眠って大事だ。再認識しましたよ。
さて休み休みだけど大分、街に近づいてきた。その時……。
「……う……ん」
彼女が気が付いたみたいだ。休憩ついでに具合をみてみよう。
「大丈夫か?」
「……ここは……?」
「まだ、森の中だけど安心して、もうすぐ街に着くからね」
まだ、朦朧としてるけど大丈夫そうだ。
「あり…が…とう…」
そう言うと彼女は安心したのかまた眠ってしまった。
昼近くになる頃、ようやく森を抜け街に入った。
道も整地されているから、移動速度も上がって小走り気味にギルドに直行した。
「やっとこさ…着いた…」
ヘトヘトになりながらギルドに入ると、いつも以上に騒然としていた。
冒険者たちが集まり、パーティーごとに雇われのルキアさんたちから何やら指示を受けている。
何があったかは知らないが、こっちはケガ人を抱えてるんだ。少し優先してもらおう。
「すいません!森でケガ人を救出しました!回復魔法を使える人はいませんか!」
そう大声を出してみんなの注意をこっちに向かした。
すると、ルキアさんが慌てた様子でこっちに来て、担架に括られている彼女を確認した。
「マリア!?」
おっと知り合いだったのかな?良かった助けられて。
「ヒールを使える人、集まって!ユウキは彼女を治療室に!急いで!!」
ルキアさんの指示に従って、俺の他に数人が手伝って彼女を治療室に運んだ。
この街には医者はいないが、手練れの冒険者たちがいる。
多少の怪我なら彼らが対処してくれるので安心だ。
これで彼女の事もギルドに任せて大丈夫だろう。
俺の配達ミッションも終了だ。はぁ~疲れたぁ~。
すみません。隣のベット、使って良いすか?
昨日、寝てないんでクタクタなんすよ。
OK?良かったぁ~。んじゃ、おやすみなさい。




