第56話・ある日森の中…に出会った*しょのいち
クマさんのフラグが立ちましたぁ〜。
ま、フラグが立ったところで回収されなければイイだけのこと。
ここはDELSONさんに頑張ってもらうとしよう。
そういうわけで『ステルス機能』を起動させてっと…。
よし!これで安心。先へと進もう!
それから森をマッピングしつつ、ウロウロと彷徨っているんだけど……。
獲物になりそうな動物は確認できていない。
いるのは、小鳥やリスみたいな小動物のみ、ゴブリンモンキーすら見当たらない。
暖かい場所に移動したのか?何かから逃げ出したのか?
たぶん、その両方なんだろう。
だってさ、所々にあるんだもの…おっきい足跡が……。
餌を探してるんだろうな。巣穴を掘り返した痕跡もあったし、空腹でイラついているのか太さ50cmほどの木が力任せに折られていたりもしていた。
しかも、魔法で攻撃したのか10cmはありそうな針のような毛がガッツリと刺さっていた。
「コイツはハグレモノじゃないな。たぶん、魔獣化して凶暴化してるんだ……」
『ハグレモノ』とは、身体が大きくなりすぎて冬籠りする為の洞に入れなくなり冬眠できなくなった動物の総称だ。
元いた世界じゃ、そういうクマの事を『穴持たず』とか言ってた。
どちらも世界でも、そういったヤツらは凶暴で人を襲う事もあるから討伐対象になっている。
だが、今回のヤツはたぶん違う。『クルイ』とヘイゼル爺さんが言ってたヤツだ。
普通は魔獣化しても動物の生態や性格は変化しないんだが、ごく稀に凶暴化するヤツが出てくる。
魔獣が狂い始めると最初は手当たり次第に生き物を襲い喰い尽していき、もっと症状が悪化すると衰弱死するまで暴れ回るんだそうだ。
そうなると大きめの村でも壊滅的な被害を受ける程なので、討伐隊を組んで対処しないと無理らしい。
どうして魔獣化でそうなるかと言えば、ヘイゼル爺さん曰く「頭の中に出来た魔石が脳ミソを刺激して魔獣を狂わせている」って事らしい。
「森の奥とは言え大丈夫かな?戻ってギルドに報告した方が良いのかな?」
………。ま、大丈夫か。いくら寒くて獲物が減っているとは言え、森の中にはまだまだ他の冒険者たちが入っているんだし、その冒険者たちの誰かがギルドに報告をいれてくれるはずだ。
それに討伐隊を組むにしたって2〜3日はかかるんだし、俺の報告が1日くらい遅れてもたいした影響はないはずって事でOK!!。
よし!平和ボケした日本人的な言い訳は済んだ。こんな風に言い訳しておけば、立ちあがったフラグは他の誰かが回収してくれるだろう。
あとはゆっくりと自分の冬装備の確認といこう。
のんびりと街で買い込んだ串焼きを頬張りつつ、更に森の奥へと進んでいく。
今日の冬装備の確認は、俺が今着ている革製の装備だけじゃない。
実は貯め込んでいた魔獣の素材を利用して、ちまちまとテントやらタープやら寝袋やらを製作してきたので、それらの具合も確かめないといけない。
足りない道具の洗い出しもあるし、装備の改良と魔導具化への改造の考察もある。
意外とやる事が多いのだ。
しばらくすると、適度に開けている場所があったので、少々早い時間だけど今日の野営地とする事にした。
じゃ、早速キャンプの用意をしよう。
まずは、キャンプ地の掃除だ。落ち葉が多いんで、このまま焚き火なんかしたら延焼まっしぐらだ。
DELSONをブロワー代わりにして落ち葉を吹き飛ばす。
さすがDELSON。楽ちんです。あっという間にキャンプ地がスッキリしました。
次は焚き火の用意をしよう。焚き木はすぐに集まった。あとは火をつけてから今回の為に作ったテントを組み上げよう。
今回製作したテントは魔獣の革で作ってみた。形はオーソドックスな四角推なヤツで大きさは3m四方。骨組みの素材は木製だ。一人用のテントとしては充分な広さだけど素材が革と木だから、ちょっと重いかなぁ〜?
なんて考えながらテントを組んでいると……。
ドーーーーーーン!!!
と、爆発音がした。森の中なんで見渡したところで何も見えないけど、音の方向からしてさっきの「クルイ」が荒らしてた場所の方だと思う。
たぶんアレだな。どこかの冒険者が「クルイ」と遭遇して魔法なり魔導具なりで応戦したんだろう。
爆発音は聞かなかった事にして放ってこうかな〜って、ちょっと考えたんでけど爆発音の大きさからしてそんなに遠くじゃなさそうだし、「クルイ」をこっちに引っ張って来られても迷惑だ。
しかも、帰りに冒険者の死体を回収するなんて事になったら寝覚めも悪くなる。
「あぁ〜。立ったフラグは自分で回収しろって事かぁ……」
いくらイベント不足の世界とは言え、こういう荒事のイベントは遠慮したいんだけどなぁ〜。仕方ない…、ちょっくら片付けに行きましょうかねぇ。
まずは、相手の位置を確認しましょうかね。レーダーの探知範囲を広げて…と。
あ!いたいた。荒らしてた場所から300mほど離れた所に反応があった。
何かデカいヤツがスゴイ勢いで走りまくってる。
その前を小さな反応が懸命に逃げてる。コイツが冒険者だろう。
一撃で仕留め切れずに逃げ出したって感じかな?
ただ、逃げてる方向が頂けない。そっちは街の方だ。街に近づけば他の冒険者もいるから共闘するなり助けてもらうなり出来るだろうって考えたんだろうけど、それは街を危機に晒す事になり兼ねない。普通なら街とは逆方向に逃げるのが冒険者としての流儀というか、マナーなんだけど……。そんな事も言ってられないんだろうなぁ〜。
さて、俺はと言うと今は目標に向かって走ってます。距離的に言えばDELSONの超長距離射撃でなんとかなるんだけど、如何せんここは森の中、遮蔽物が多すぎて射線の確保が出来ない。
となれば、獲物に近づいて直接照準で狙うしかない。でも、俺が「クルイ」に狙われるのも勘弁して欲しいので、そこはステルス機能に頑張ってもらう事にしよう。
「はぁ…はぁ…キっツぅ〜」
いくら急がないといけないとは言え、森の中での全力疾走はキツい。
前にも似たような事があったけど、体力的にはあの時とそうは変わってはいないのだ。俺の基本スペックはインドア派のヲタクなんだから。
頑張って走った結果、どうにか間に合ったみたいだ。
10m程前にはローブを纏った魔法使いの女の子が転んだのか泥だらけで倒れて這いつくばっていた。
その女の子の20m程前に例の「クルイ」がいた。
そいつは俺の予想通りクマだった。「ニードルベア」と言われるクマ型の魔獣で名前の如く針のような毛を飛ばして攻撃しくる。
元々クマだった事もあり力も強いし針状の毛皮でそこそこ防御力もある。
そんなヤツの胸あたりが焦げて少し出血してる。魔法だか魔導具の攻撃で受けたキズなんだろう。そうなると、あの女の子は魔法使いとしてはかなり優秀な方だ。
仕留められなかったとはいえ、傷を負わせるほどの威力のある魔法が撃てるんだからね。
「クソぉ…!!」
果敢にもその娘は杖をクマに向けた。魔導具化してあったのだろう。その杖からは真っ白な冷気が噴き出した。
お?!やったか?と思ったんだけど、周辺を凍り付かせる事もなく、ただ冷気を撒き散らしただけだった。
これじゃ煙幕にしかならない。
「なんでよ!!こんな時に!!」
悲痛な叫びが聞こえた。杖が故障してたのかな?自分が思ってたのと違う結果になったのだろう。本当ならこの娘の運命はここで終わりだ。でも、今回は気づいてはいないだろうけど、俺がいる…。お助け致しますか。
ゆっくりと冷気の中からニードルベアが姿を現す。強者の余裕だろう、目の前の獲物にゆっくりゆっくりと近づいていく。
魔法使いの女の子はクマを睨み付け杖を逆手に構えている。
たとえ殺されても只じゃ死なないと覚悟しているようだ。
さすが冒険者、良い覚悟だ。
俺とニードルベアとの距離は女の子を挟んで30mちょっとってところ。
そして、俺が用意したのはさっきキャンプの焚き火のかまど用に拾った大きさ10cmほどの石だ。コイツを秒速1000mで撃ち込んでみよう。威力的には100ミリのキャノン砲レベルかな。それを30mの至近距離で撃ち込むんだから、それなりのダメージを期待できるだろう。それじゃ早速、やりますか。
ニードルベアが立ち上がり女の子に向かって腕を振り上げる。
チャンスだ。俺はDELSONのトリガーを引いた必中の距離、外すわけがない。
ドン!!と爆発音と共に石が音速を超えて撃ち出され、ニードルベアの胸に吸い込まれる。
次の瞬間、パン!!という音ともにクマが胸の辺りから吹き飛び、ゆっくり倒れ込んだ。
「?!」
女の子は何が起こったのか理解出来ずに呆然としている。
そりゃそうだろう。突然の爆発音ともに目の前のクマが吹き飛べば誰だってびっくりもするだろう。
そして、何がどう作用したのかわからないが、ドスンとクマの生首が女の子の足下に落ちてきた。
「ひぃ…」
クマの生首は恨みがましい目を腰を抜かしている女の子に向けていた。




