第54話・要人警護と秘密のこと
とりあえず、今やる事は決まっている。
まずは、スライムを捕まえてそれから道の近くに移動させる事。
スライムを捕まえるのは簡単だ。前回やったように『ほうき』でちょいちょいっと飼育器に確保した。
あとは領主様が視察し易いような場所に移動するだけだ。
その場所はダルトンさんに一任した。
やっぱり、『要人警護』なんて仕事はプロに任せた方が安全確実だしね。
「で、スライムはどこに移します?」
「そうだな。道から離れすぎると大変だし、かと言って近すぎればイタズラが心配だなぁ」
う~んと唸ってダルトンさんが悩んでいる。
位置とか地形とかいろいろと考慮しているんだろう。
俺にはちっともわからんけど……。
しばらく悩んだ末「あそこにするか…」と移動しはじめた。
俺とロールさんはスライムの入った飼育器を持ってダルトンさんの後についていった。
そこは第二階層への洞窟に行く道に程近い小さな丘だった。
「ここが最適だな…」
ダルトンさんはなだらかな丘の上に立つと周囲を一望した。
丘の上からの見晴らしは遮蔽物が無く、街道の先まで見通せた。
ここに警護の人員を配置して周囲の警戒にあたれせるんだろう。
「それじゃあ、そこにスライムを設置してくれ」
そう言ってダルトンさんは街道の陰になる場所を指定してきた。
「ここですね。了解で~す」
俺とロールさんは指定された場所にスライムの飼育器を設置した。
「どうしてこんな陰になる所に設置するんですかね?」
「さぁ……?」
ロールさんの疑問も尤もだけど、生憎と俺も要人警護なんてやった事がないのでそれには答えられない。
「まぁ、スライムへのイタズラを回避するってのもあるんだけどもな…」
丘から降りてきたダルトンさんが説明してくれたところによると、丘の陰で視察をすれば、警戒する方向を狭める事ができるし、その上で丘の頂上に人員を配置して周囲を警戒するって作戦なんだと。
それなら、警護する人員も少数で済むから、予算をかけずに要人警護できるって事らしい。
普通なら『狙撃』とか『大人数での襲撃』とかも考慮するんだけど、今回はギルドが管理しているダンジョン内の警護だから、そこら辺は無視できるんだってさ。
いろいろと考えてるんだねぇ。
「んじゃ、これで俺の方の用事は終わりって事ですかね」
「そうだな。あとやる事といえば人員の確保とダンジョンの規制だ。これはギルドの仕事だからユウキの方は視察の日まで自由にしてくれ。但し連絡は着くようにしておいてくれよな」
「了解です。じゃ、俺たちは帰りますね」
こうして、俺とロールさんはダンジョンにダルトンさんを置いて帰路についた。
「スライムの事はギルドでアドルさんに報告するとして、これからユウキさんはどうするんです?」
「そうですね。俺はこれから買い物ですね。考えてみたらまともな冬装備を持ってないんで今の内に揃えておかないと…」
「え!?まだ冬の用意してなかったんですか?遅すぎですよぉ~」
「いやぁ~すっかり忘れてました」
「気を付けて下さいね。寒さ対策を忘れて凍死なんて笑えませんよ」
「ええ、俺も凍えて死ぬのはイヤですからね。これから買い物して帰ります」
そう言って俺はロールさんとギルドで別れ、装備を揃えにギルドに程近い防具屋に行った。
防具屋で買い込んだ装備は「胸当て」「ズボン」「ブーツ」「グローブ」「ヘルメット」で、全部「革製」だ。それと厚手のフード付きのマントも買った。
あとは、冬服を揃えて完了だ。そこそこの出費だが命には代えられない。
夕方、部屋に帰って冬装備をクローゼットに片付けてから、屋台で買った串焼きで夕食にする。
串焼きにかぶりつきながら、DELSONを起動させて昼間に吸引したDスライムの液体を確認した。
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スライム液
スライムの排泄物
植物やダンジョンに必要な栄養分と魔素を含む液体
特にDスライムが排泄する液体は、高濃度に栄養と魔素が溶け込んでいるので
ダンジョンには必須の栄養になる。
動物や魔獣、人が摂取しても高い効果が望める。
通称「ソーマ」とも言われ、『フルポーション』や『エリクサー』神酒の一種である『ネクタル』等の原材料でもある。
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おふ……。なんかヤバい名称が出てきましたよ……。
確か、ヤーヴェさんから貰った本に「伝説の薬」とか書いてあったヤツだ…。
今じゃ作り方も材料もわからなくなってるって書いてあったはず…。
こんなところで材料の一つが判明するとはなぁ~。
うむ、これは機密事項にしょう。下手に発表したら命に関わる事になるぞ。
「沈黙は金」とも言うしね。
さて、もう一つも確認しよう。確か砂状のモノも吸引したなぁ。
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魔結晶
砂状の魔石。すべての生物の細胞に存在する。
魔石の素で大きくなるとその生物は魔獣化する。
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おお~。これは魔石の原石って事かな。
でも、「すべての生物の細胞に存在する」って事は「人間」にもあるって事だよなぁ~。魔法学会はこの「魔結晶」の存在を知らないのかな?
ま、細胞レベルの細かい砂じゃ発見も出来ないか。
この世界に顕微鏡なんてなさそうだし…。顕微鏡とか作ったらヤーヴェさんのところで売れるかな?
とりあえず、今夜はこの二つの材料で少し遊んでから寝ようっと。




