第05話・訓練開始~!!
村の朝は早い。日の出と共に始まる。
正直、キツいわぁ~。昨日まで出勤ギリギリまで寝てた人に日の出と共に?だいたい4時くらいかな?起きろつってもできるわけがない。
だけど、ミイシャ婆さんは容赦なしだね。叩き起こされたうえに、冷たい井戸水を頭からぶっかけられました。
「眠~い……。もっと寝てた~い」
「いい若いモンが、なに言ってるんだい!さっさと起きて朝ご飯食べてきな!今日から訓練が始まるんだろ!!」
俺みたいないい若いモンは年寄りと違って朝は弱いんですけどねぇ~。
なんて文句を言ったところで、許してもらえるはずもなく。井戸端で洗顔と歯磨き。なんとこの世界にも歯ブラシがあったのはラッキーだ。
そして、村長の奥様エイダさん特製の朝食となった。
「さぁ、たくさん食べて元気つけてね~」
良い匂いだ。食卓にはパンやらシチューやら肉料理やらと朝食にしてはかなりのボリュームだが、この世界では普通らしい。畑仕事って重労働だものね。
「おはよう、ユウキ君。さっそくだが朝食が済んだら君に紹介する人がいるからね」
「おはようございます。昨日話していた訓練の先生ですね?」
「そうだ。少々歳は食っているが、猟師としては名人級の人だよ」
さすがは村長さん、仕事が早い。朝一で話を通してきたらしい。
美味しい朝食をいただきつつ、今日の予定を決めた。
こちらは昨夜の段階で準備は整っている。DELSON機能全開でバンバン狩れまっせ~。
俺TUEEE伝説の始まりじゃ!!!
…………えっと……なんか問題が発生したらしい。
朝食後、村長に案内されて俺の先生になってくれる人の元へ。
先生はヘイゼルさんっていう爺さん。猟師は半ば引退状態だからって事で今回の依頼を受けてくれた。
だが、この俺が何が出来て何が出来ないのかって話になった途端、ヘイゼル爺さんが頭を抱えだした。
「おまえは、火も熾せんのか……」
これがヘイゼル爺さんが俺に向けて放った第一声である。
当たり前だ。現代の日本人にまともに火を熾せるようなヤツはそう多くはない。
ライターでも持っていれば別だが、俺はあいにくとタバコはやらないんでね。
木の棒を使っての火熾しなんて離れ業できるはずがない。
「火も熾せんヤツが狩りに出るなんぞ十年早いわ!!」
それから二時間、俺は木の棒と格闘中である。キュコキュコと棒を錐の様にやっているが、煙すら出てこない。
手が痛いよ~……。もう泣きそう……。
「まだ、火はつかんのかぁ~?」
木陰でしゃがんでいるヘイゼル爺さんがタバコに火を着けながら暇そうにいう。
手元から小さな炎はポっと出て、タバコから紫煙が立ち上る。
ん?……炎?……。今、手元からライターみたいな火が出てたぞ?!
「ちょっと!なんすか!?それ!!」
「これか?これは魔石じゃ。火の属性の魔石での、火熾しに便利な代物じゃよ」
なんか赤い石みたいな物をヒラヒラとさせて見せてくる。
「はぁ?!そんな便利グッズがあるなら、火熾しの練習なんて意味無いじゃないすか!」
「お前はバカか?猟なんぞ何が起こるかわからんのだぞ。その時になって、魔石が無いだけで火も熾せなかったら命が危うい事もあるんじゃ!最低限、手近な物で火を熾せるようなってからじゃないと、猟には出せん!」
うう~。経験者の言う事だから一理も二理ある……。仕方あるまい、こっちも安全マージンを広げるためだ。きっちりと火を熾せる様になってやろうじゃないの!
「それに魔石は高価なんじゃ、そうそう渡せるか」
「そっちが本音じゃないでしょうね?」
「さぁてなぁ~」
ヘイゼル爺さんのニヤケ面がなんか腹立つわ~。
それからさらに一時間かかって、ようやく火がついた……。
「やった……やったぞ!!火がついたど~!!!」
なんか、涙が出た。火ってなんか偉大だ~。
「ようやくか……」
そう言うと、ヘイゼル爺さんが近づいてきた。誉めてくれるのかな?
と、やっとついた火をゲシゲシと足でもみ消しやがった。
「へ?なに?なに?何してんの?」
「何もへったくれもないわ。もう一回じゃ。最低でも三分以内に火がつけられる様になってもらわんとな」
マジすか!?三分って!?爺さんは出来んのかよ?
なんて思ってると、ヘイゼル爺さんは同じやり方であっさりと火を熾しやがった。
「ざっと、こんなもんじゃよ。伊達に歳は食っておらんて……」
と、ニヤけるヘイゼル爺さん。
クソ~!!なんか腹立つ~!!!
この日、俺は火熾しに始まり、火熾しに終わった。
まだ、記録は三分切れていない……。
あぁ~……。手が超イタイ……。