第39話・異世界の薬事法ってガバガバなのね
翌日の午前中にヤーヴェさんの所の残りの作業を終わらせた。
んで、今はそのヤーヴェさんの所でお昼ご飯をご馳走になっている。
今日も豪勢なご飯、ありがとうございます。
「いやぁ~仕事が早くて助かったよ」
食後、ヤーヴェさんからお褒めの言葉をいただいた。
いえいえ、たいしたことありませんよ。これもDELSONのおかげですから。
「これだけ良い仕事してもらったんだ。日当ではなく5日分の報酬を支払おう」
「え!よろしいんですか?仕事量としては1日半しかやってませんが……」
「構わんよ。君はそれだけの事をしたんだ。その仕事に対して正当に報いなければ商人とは言えんよ」
「そうですか。ありがとうございます」
流石は大店のご隠居、出す時はきっちり出すね。
そうなると、こちらも少々のサービスをしたくなるのが人情ってモノ。
お掃除でもやってあげましょうかね。何せ、DELSONはお掃除が本業だから。
そんな事を考えていると、ヤーヴェさんが変な事を聞いてきた。
「最近、高品質のスライムゼリーをコンスタントに納入する新人冒険者がいると噂になっているのだが、その冒険者はユウキ、君の事かな?」
「え?たぶん俺の事だと思いますが、そんな噂になってますか?」
正直、手間のかかるスライムゼリーの確保はクエストの『おまけ』程度の事だから冒険者たちの稼ぎに影響は出ていないはず。それなら噂にもならないはずなんだけどなぁ~。
「冒険者たちの噂ではないぞ。薬師や商人たちからの噂だ」
あら?不安が顔に出てたかな?
「わしら商人の情報網を侮るなよ。冒険者のそれより早いし正確じゃぞ」
なにやら自慢されましたよ。
「でじゃな、お前さんがポーションを自前で作っているのかを聞きたくてな」
「いえ。作ってはいませんが……。てか、勝手に作って良いんですか?」
「構わん。そもそもポーションの製造には法律は無い。あるのは販売に対しての法律だけじゃ」
うわ~マジか!?一応は薬物だぞ。それを規制も無しに製造して良いって…。
この世界の王様ってば、薬物の危険性とか認識してんのかね~?
「法律でポーションの製造を規制したら、ここのような辺境じゃ生きていけんぞ」
「あぁ~、考えてみればそうですね。田舎じゃ医者もいないし……」
「そういう事じゃ、それにポーションは生薬だからな。日持ちがしない」
そうだった。俺の場合はDELSONのおかげで賞味期限とか関係無いけど、普通ならポーションの期限は10日ほどだ。
「だから、作っても良いが勝手に売るなと……」
「そういう事じゃの……。でじゃ、お前さんはポーション造りをしていないって事じゃが、それなら製造道具も持ってなかろう?」
「ええ、持ってませんが……」
俺が使ってたのはせいぜい軟膏の傷薬くらい。
正直DELSONの機能で大きな怪我の可能性を排除してるからポーションの必要性も感じなかったし、そもそもポーション自体を使った記憶も無い。
「そうか。なら、これをやろう」
そう言って、ヤーヴェさんがメイドさんのアーヤさんを呼ぶとアーヤさんがカートを押して部屋に入って来た。
カートの上には数冊の本と化学実験で使うような器具が置いてる。
なんだろう?これ……。
「これはポーション用の製作器具じゃ。それと薬師が持っている本もやろう。本を参考にしてポーション造りに励んでみてくれ」
「え?もらっちゃって良いんですか?こんな高価そうなモノ……」
「ああ、構わんよ。元々わしが趣味でポーション造りをしようと買ったものだが、飽きてしまっての。捨てるのも惜しいから、君に譲る方がこちらとしてもありがたいんだよ」
「では、遠慮なくいただきますが……。なんかウラがありそうですね」
「ふふ、さすがはユウキ、鋭いな。そこらのボンクラ冒険者とは違う……」
やっぱりかぁ~。この爺さん、油断も隙もないな。
「で?何を期待してるんですか?薬の製造なんかやった事のないド素人なんかに……」
「ド素人だからこそじゃよ」
「それはどういうことで……」
「なまじ経験者なら、そこそこのモノを作って終わりじゃろう。だが、なにも知らないド素人なら決まり事に囚われない発想でトンデモないものを作ってくるかもしれん。それに期待しておるんだよ」
そういう事か……。ド素人の俺が面白半分でお宝でも作り出したら、めっけものって事だな。
「勝ち筋の薄い先行投資ですねぇ~」
「不良在庫を処分できただけでも、こちらとしては儲けもんじゃよ」
そういう事なら、やってみましょうかね。
規制薬物の概念も無さそうなガバガバの薬事法なら、変なものを作っても表に出さなきゃ大丈夫だろうし、役に立ちそうなモノが出来たらレシピだけ渡して爺さんに丸投げしちゃえば良いんだしねぇ~。




