第38話・文化ハザードもドッキドキ
本日分のヤーヴェさんの仕事を終え、ギルドに詳細報告をしてからいつもの春風亭に行くと、なんだか冒険者たちが騒がしい。
いつものようにレモネードと串焼きを頼み、ついでに店員の女の子に騒がしい原因を聞いてみた。
「なんだか、街に来てる貴族様が誰かを探しているんですって」
との事。人探しのクエストが発生したらしい。
普通なら冒険者たちはやりたがらないクエストだけど、依頼主が貴族となると話は別だ。
依頼料も高額だし成功報酬も貴族との伝手もって考えてる連中が多いんだろう。
貴族の人探しなんて確実に厄介事に決まってるのになぁ~。
目先の儲けに目が眩むと痛い目に遭うぞ。
ま、俺には関係ないクエストだから放っておくとしよう。
面倒事は避けるのが一番、こういう時はサッサとこの場を離れよう。
本当なら店でのんびりと飲むんだけど今日は自分の部屋へと帰ってきた。
シャワーを軽く浴びて、メモに書いたアイデアをノートに清書していく。
大体は元いた世界の技術を使っての、いわゆる「文化ハザード」級のアイデアだ。
でも、この世界でやって大丈夫なのかなぁ?
「文化ハザード」「内政チート」異世界の「機械」や「科学」の流入、ファンタジーでは主人公が思い付きでやらかして、大金を儲けたりハーレムの切っ掛けになったりと羨ましい限りではあるが、俺のいる世界でこれをやって良いんだろうか?
何か変な影響とか出ないかと、正直心配している。
なぜかと言うと、この世界の文明度がなんだか歪だからなんだよね。
魔法ってファクターがある事が原因なんだろうけど、それにしても歪過ぎる。
いくら石工職人の技術が軍事機密であるにしても機械技術の発展が未熟すぎるし、それを補うために発展しているのが魔導具って事なんだろうけど、その技術を利用しようっていう発想が出てきていないのが不思議だ。
食文化にしてもそうだ。これだけ香辛料が流通しているにもかかわらず、マヨネーズの起源である『マオンのソース』に似たモノすらない。
やはり、この世界の文明度は『大航海時代』前くらいだからなのかな?
そうだとしたら、この香辛料の流通量は多すぎる。大陸と海の関係が元の世界と違うからなのかなぁ?
まるで、何かに制御されてるような発展の仕方だ。
じゃ、何に制御されてるのか?って考えると単純だが『神様』って事に行きつく。
元の世界ならこんな答えをだしたら正気を疑われるけど、ここは異世界。
時折、神様が降臨してきているって記録もある。
だとしたら、ここで俺が「文化ハザード」バンザイ!!なんて事をやったら、神様に目を付けられる可能性もある。
それはハッキリ言って貴族に目を付けられるよりも厄介だ。
だから「文化ハザード」をやらかすなら、今回のヤーヴェさんとの商談の時のように、この世界の文明度に見合った原始的な形で出していくのが一番安全だと思う。
ファンタジーの主人公なら普通、神様に対抗する手段とかスキルなんてモノがあるんだろうけど、生憎とこっちはそんなモノは持ち合わせていない。
それならば、潜水艦ヨロシク深く静かに潜航して時々水面に顔を出して様子を窺うくらいがちょうどいい。
イベントも少ない。俺TUEEEEもできない。「文化ハザード」も難しい。
無理ゲーじゃね?この世界……。




