第223話・静謐なる戦闘
這う這うの体で帰っていくマフィアさん御一行を見送ると、店内にはいつもの静けさが戻ってきた。
「まさか、マフィアのトップが自ら出張ってくるとは思わなんだ」
「ふむ、さすがに3人を吊るして、2人が行方不明はやりすぎであったな…」
え?2人が行方不明?
それって…どういう…。
「うむ、ラムへの手土産にちょうどいいと思ってな。喜んでおったぞ、ダンジョンの栄養になると言ってな」
あ…あの…それって躾けのやりすぎで死んじゃったから、死体の処理にラムちゃんを使ったって事ですよね?
「安心しろ。目撃者はいない」
安心しろって言っても簡単に安心できるもんじゃないよ。
「それにだ。今回のマフィアとの件もダンジョンにとっては良い栄養源の確保が出来たと言えよう。ついでに言えば、ヤドラムでのマフィアの排除は実験都市構想の健全化を促すための一助にもなるだろう」
何という無理矢理な理由づけなんでしょう。
「強引だね~」
「大義名分などと言うものはそういうものだ」
そして夜は静かに更けていく……。
エシェド・ファミリーとの戦闘はとても静かなものだった。
まず最初に彼等が行ったことは『兵糧攻め』。
店の営業に必要であろう物資の購入阻止。
しかし、これはうちの店に限っては通用しない。
理由は簡単、うちで使っている飲食物は全部ダンジョン経由で入っているから。
そして、兵糧攻めでこちらが弱ったとみたマフィアは二の矢を放つ。
こちらに来店する客を脅し、または襲って客足を遠退かせるようにチンピラ共を町中に放ったのだ。
ただ、これはレッドさんにとっては都合の良い事だった。
レッドさんは強化アバター達を使い、効率的にチンピラ共を狩っていった。
もちろん、狩られたチンピラの行き先はダンジョンである。
毎夜の如くチンピラ共の行方不明者の数は増えていく。
その数が20を数える頃になると恐怖に駆られたチンピラが襲撃命令を無視してヤドラムから脱走する事が増えていくようになった。
「またか!!どいつもこいつもビビりやがって!!」
太っちょボスことラキノールは、熊の様に豪奢なリビングをウロウロと歩き回っていた。
「ボス、落ち着いて下さい」
ファミリーのナンバーツー、スリープスがボスを宥める。
「落ち着いていられるか!アイツ等は日干しになったんじゃねぇのか!?」
「そのはずです。めぼしい仕入れ先には手を回しましたのでヤツ等には水の一滴たりとも入荷できていないはずです」
「なら、どうして営業が出来ている!!客足も変わっとらんじゃないか!!」
「客への脅しは大っぴらには出来ませんし、兵隊の数も最小限ですから。それにもしギルド側に嗅ぎつけられたら…」
「そんな事は百も承知だ!!だが、その兵隊が帰って来ねぇとはどういうことなんだと言っている!!」
「そ…それは…」
それはラキノールもスリープスにもわかっている。
ただ、事実として認めたくないだけだ。
しかし、こんな事が続いていけば、早晩ファミリーの維持すら難しくなってしまうだろう。
「くそっ!!クソッ!!!クソーー!!!!」
ラキノールの苛立ちが最高潮に達する。
「こうなったら手段なんぞ選んでいられるか!本丸を叩く!」
「ボス!?そんな強硬手段に出たらギルドにバレます!」
「殺した後に火でも放てばバレはしない!ヴァニタの連中を呼べ!」
「ヴァニタ!?あの『狂犬』を使うんですか?」
「ああ、そうだ!ヤツ等なら必ず潰せる!」
「それは出来ると思いますが、周囲にも被害が飛び火しますよ」
「構うものか!大火事になれば、それだけギルドにもバレにくくなるってものだ」
こうして、マフィアの最高戦力が『エルミタージュ』へ向かう事になった。
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