第215話・ようこそアサイ村へ
「ユウキ様、お早く願います。ご友人とおっしゃる方がお待ちになっております」
メイドさんが何だかすごく焦っている。
なんなら俺の手を引っ張って行きそうな勢いだ。
「その自称ご友人って黒のスーツで赤シャツのイケメン?」
「はい。五日ほど前にこちらに来られまして、ユウキ様が帰ってくるまで待たせてもらうとおっしゃられまして…」
「そのまま、居座ってるって事なんですね…。迷惑を掛けちゃって、すみません」
「いえ…それほど迷惑ではないのですが、あの方はいったい何者なのでしょうか?まるでドラゴンの傍にいるのではないかと思うほどの強い『気』をお持ちになっているのですが…」
そりゃあ『神竜』ご本人だからねぇ。強い『気』もお持ちだろう。
「我々、メイドもそれなりに訓練を受けていますが、あれほどの強い『気』に当てられてしまうと、皆、動く事もままならず…」
クララ様直属の戦闘メイド衆も『神竜』が相手じゃ動けもしないか…。
でも、俺と会ってる時は何も感じなかったんだけどなぁ?
俺が遅くなっているからイラついてるのかなぁ?
「そうですか…。なら急いで戻りましょうか」
と、足を速めた。
家に戻ると、リビングにとても寛いでいるレッドさんの姿があった。
考えていたよりピリついてなく、優雅にお茶なんぞ飲んでいた。
ただ、メイドさんたちもそうなのだが、ユーノさんやルキアさん、マリアさんまでもが青い顔をリビングの隅で怯えている。
いったい、どうなっているのかな?
「ああ~。やっぱりレッドさんだったか。遅くなってごめんねぇ」
「いや、我が早めに到着しただけの事だ。気にしてはおらんよ」
イラついている様子もない。
レッドさんからは強い『気』とやらは出ている様子も見受けられない。
う~む…理解不能な状況だ。
まあ、わからない時は素直に聞くのが手っ取り早い。
「時にレッドさん、家のみんなが強い『気』がどうたらこうたら言ってんだけども何だかわかる?」
「ん?『気』?……ああ!そうだった。我の『覇気』を抑制するのを忘れていた」
そう言うと、レッドさんは一つ深呼吸をした。
それが切っ掛けになったのか、その場にいるみんなの緊張が一瞬にして解けた。
何が起こったのかはわからないけど、みんながホっとしているから良いか。
「皆の者、気づかずに迷惑をかけた。すまん」
そう、レッドさんがみんなに謝罪した。
「まあ、なんか解決したみたいで良かったよ。んで、レッドさんはこの村に住むつもりでいるの?」
と、早速切り出してみたんだけど……。
「ちょ……ちょっと待って、ユウキくん。その前にちゃんと紹介してもらえないかしら?」
と、ユーノさんが言ってきた。
……どうしよう……。これってちゃんと紹介したら怒られるんじゃないの?
なんとか誤魔化せないかなぁ……。
「え~とですねぇ。その…レッドさんとはモルドバで出会いましてですねぇ。何と申しますかぁ……あの……その……」
しどろもどろになってしまって、どうにも上手く誤魔化せる事が出来ない。
「ユウキよ。どうせバレるウソをつくなら、正直に事実を言った方がキズは浅くて済むぞ」
レッドさんにそう諭された。
だよねぇ~……どの道、怒られるのは決まってるんだし、嫌な事は早めに済ます方が良いに決まっている。
はあ~と、ため息一つ。覚悟を決める。
「レッドさんはモルドバに居た神竜さんです。いろいろあって、こちらに引っ越してきました!」
リビングが静まり返る。
その中でレッドさんだけがゆっくりとお茶を楽しんでいた。
「そうですか……。あなたが今、国内で話題になっている神竜様でいらっしゃいますか。それならばあれだけの『覇気』も納得できます。ようこそアサイ村へお出でくださいました。わたくしはこのパーティーハウスの責任者を務めておりますユーノと申します。以後、お見知りおきを……」
「うむ、こちらも身の置き場が決まるまで世話になる。よろしく頼む」
「それで少しの間、この木偶の坊をお借りしてもよろしいでしょうか?」
そう言ってユーノさんが俺に目が笑っていない笑顔を向けてくる。
「ああ、気の済むようにして構わんぞ……」
と、あっさりレッドさんに売られた。
「ありがとうございます。では、しばしの間お借り致します」
ペコリとユーノさんが頭を下げ、レッドさんに挨拶を済ます。と、いきなりいつものアイアンクローが俺の頭に食い込んできた。
「アガガガガガガガ……の…脳が…脳がぁ~はみ出るぅ~」
そして俺は隣の部屋へと引きずり込まれて行くのであった。
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