第214話・アサイ村の報告
ドサっと音がしたので窓の方に目をやった。
だいぶ暖かくなってきているので、屋根に積もっていた雪が落ちてきたらしい。
「もうひと息だなぁ…」
う~んと伸びをしながら束の間仕事の手を休める。
この冬は、ほとんど休み無しに働いていた。
それが漸く目処がついてきたのだ。
かなりヤバい感じに追い込まれていたが、やっと終わりが見えてきた。
まあ、幻覚だと思っていたクララ様やパーティメンバーが、実際に居たのには驚いたが…。
彼女達は、エルフ族やドワーフ族の受け入れの為の会議に呼ばれて領都に召集されていたようだ。
彼女達の尽力もあって会議は上手く運び、ドワーフ族の優秀な技術者やエルフ族の研究者がアサイ村に来る事になった。
ついでに新ギルドの開設も『商業ギルド』として特許などの管理を請け負う事になり、今までのギルドは『冒険者ギルド』と名称を変更する事も決定した。
商業関連の法律は、まず『領内法』として施行され、不備などの洗い出しをやりつつ『国内法』へと広げていく事も決定された。
あとは例の『モルドバ事件』の事。
年明け早々に国王陛下から事件のあらましが発表され、それに伴いエストラーダ皇国に対して遺憾の意を表明。
モルドバで『神竜』の失踪もあり、王国に神罰が下されるのでは?と不穏な噂も流れた。
そして、国内に潜伏しているサルバン教徒は例外無く国外追放という決定が下された。流石に問答無用で処刑する事は今後の事もあって控えたようだ。
んで、皇国側の反応はといえば…もちろんガン無視。
ただ、サルバン教の方は宗教弾圧だと王国に遺憾の意を表した。
うむ、やや緩めの政治的応酬だけど戦争になるよりはマシかな?
これ以降は両国の属国やら同盟国やらの緩衝地帯で軽めのドンパチ続いていく事になるのだろうなぁ。
そして更に一ヶ月が経ち、春真っ盛りになった頃に俺はアサイ村へと帰還した。
アサイ村は表面的には何も変わってはいない。
いつも通りの平和でのんびりとした日常が続いている。
それは俺にとってはとても嬉しいことだ。
安心と安らぎを与えてくれる唯一の場所。それがアサイ村だ。
だが、村の奥に行けば革新の一途を遂げる場所に変貌する。
そこは村のもう一つの顔、「実験都市」の心臓部だ。
最近、ここを通称『学園村』と呼ぶようになったらしい。
もうすでに村という規模ではないんだが……。
んで、俺が領都で地獄を見ていた時期、いろいろと変化があったらしい。
まずは、学校関係。
新しい教師が15人ほど派遣された。
そして、生徒の方も20人ほど入学してきた。
ついでに言うと、教師陣の中にミュラー爺さんの元部下だった人が数名いるんだとか……。何だろう?ちょっと不安だ。
ちゃんと冒険者を育成してもらえると良いんだが……。
第一期生の連中が優秀な戦士になっちゃってる前例があるからなぁ~。
で、お次はミュラー爺さんの元部下の人達。
教師陣にも参加している時点でわかるように、続々とこちらへ移動中との事。
現在は10人程度がここで生活を始めているらしい。
あとは……『魔導技術研究所』の研究棟が完成した。
地上三階・地下二階の大き目の建物で『魔導具試験場』が屋外と屋内の二つ付属している。地味に兵器開発施設と同じレベルになっているとか……。
って事なんで、ここはある程度、人員が確保するまでユーノさんが仕切る事になった。ちなみにエルフ族の研究員さん達もこの研究所に受け入れる事になってるんだってさ。
最後は、ドワーフ族の人達ために鍛冶や冶金術等の研究施設が建設中で近いうちに完成する予定になっている。
こちらの施設も何気に大金を投入しているとの事…。
王命に格上げされたからって事で国家予算から出たお金らしいよ。
さて、報告はこんなもんかなぁ~。
なぜここでこんな報告をしたかというと…。
現実から目を逸らせたかったから…。
だってさ、学園村の入り口でうちのメイドさんが青い顔して俺を迎えに来てたんだよね。
なんかね、我が家に何かトンデモない人が居座っているらしいのよ。
その人は俺の知り合いって名乗っているんだとか…。
……うん。たぶん、あの人が待っているだろうなぁ~。
お読みいただき、ありがとうございました。
不定期更新で、のんびり進めていきます。
作品を読んで面白いと思われたら、評価&ブックマークをお願いします。




