第210話・支配のセオリー
30分ほどで伯爵様のお屋敷に到着した。
クリスティさんと一緒に執事さんに案内された部屋で伯爵様に呼ばれるまで間、しばしお茶を飲みながら待機する。
「旦那様がお呼びです。どうぞ、こちらへ…」
と、執事さんに呼ばれ伯爵様のいる広間に通された。
そこには、伯爵様以外にマーティンさんとターナーさんもいた。
「到着早々、呼び出してすまん。早速だがモルドバでの話を聞きたい」
と、伯爵様が席を勧めてくれている。
いえいえ、ホントは休みたいんすけど、これも給料の内なんで。
という本音を飲み込みつつ着席した。
「まずは君が保管している証拠を出してくれ」
そう伯爵様が催促してくるので俺はDELSONから折れた剣をテーブルの上に置いた。
「一応、道すがらにその剣の鑑定をしてみたのですが…」
まあ、DELSONに収納した時点で勝手に鑑定機能が働いちゃったんだけども、その鑑定結果に変な一文があったんだよね。
この時、マーティンさんは「ほう…」と小さく唸り、ターナーさんは無許可で鑑定した事に渋い顔をしていた。
そして伯爵様はと言うと、鑑定はやっていて当然という顔をしていた。
「そうか…。で、鑑定の結果はどうだったのだ?」
「はい。この剣は魔導具化されていました。とは言っても個人認証程度の軽微な魔導具化ですが…」
この結果を聞いた伯爵様は「ふむ…」と考える顔つきになっている。
「ねぇ?剣に個人認証なんて付けても大した戦闘力のアップにはならないんじゃないの?」
と、クリスティさんが聞いてきた。
「そりゃあ、剣自体の魔導具化は大した脅威ではありませんよ。でも問題は魔導具化させる技術とそれを扱える技術者、そしてその両方を統べる組織力をサルバン教が持っている事なんですよ」
そしてそれに応えるようにマーティンさんも話し出す。
「じゃあ、なぜ魔導具に否定的な考えを持つサルバン教がその教えとは真逆の組織を持っているのか?って事なんだが、例の経典を読み込んでみてオカシな事に気づいてな。『ルーメイの書』に書かれている文言がサルバン教の教えとは少々異なった考えで書かれていたんだ」
「まさか、魔導具の使用を肯定しているの?」
「ああ、そのまさかさ…。但し、使用者を支配階級に限定しての事だけどな」
力や知識の独占というのは支配階級にとって必須事項だ。
人民を愚民化すれば支配し易くなるのは自明だ。
ただ、これにも限度というものがある。
国民全体がどうしようもないバカばかりになると国の存続が危うくなるし、逆に国民が優秀過ぎると支配者側の立場が危うくなる。
そこで国民に階級意識を植え付け、その階級ごとに与える知識や力に差をつける事で国家の体制を盤石にするのが支配のセオリーの一つといえる。
実はこの方法を実行しようとした人物が元いた世界に実在した。
かの有名なある独裁者である。
彼の場合、人種ごとで差別化して教育する言語数も決めていたようで、最下級の奴隷的人種になると命令が理解できる程度の30語ほどしか教育されない方針だったようだ。
いや史実をいうならば、一部は実行されたのだ。
彼は国民に対し安価に手に入れることのできる自動車の生産を命令し、政治に興味を持たないよう様々な娯楽を与えるという手法で国民の愚民化を成したのだ。
そして、出来上がったのは彼の耳心地の良い演説を妄信するだけの国民だった。
この手法は成功したかに見えたが、歴史の語る通り彼は自国と彼を信じた愚かな国民とを道連れに自殺を遂げた。
……正直、笑えないな……。
何せ俺も同じように知識と力を秘匿する手法を執っている。
理由も大小の差はあれど彼等とそうは変わらない。
好きな人達の生活を守り、理想の世界平和を実現を目指す。
違いはその『理想の世界』の形だけだ。
自身の信じる正義を理由に殺し合う。
相手が考える理想の形の相違が受け入れられないという、バカげた理由だけで殺し合いをする愚かな指導者とそれを信じて疑わない愚かな人民。
これも『戦争』の側面の一つと言えるだろう。
『人間はいつになったら、知恵という武器の正しい使い方を覚える事が出来るのであろうな?』というレッドさんの言葉が重く心に圧し掛かっていた。
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