第204話・対策はバッチリ
とは言え、この事実を安易にマーティンさんに伝える事は出来ない。
ではどうするのか?答えは簡単だ。
月影部隊を使えば良い。
強化アバターに情報屋を演じてもらい。
複数に分けて情報を流せば、頭の良い人達だから簡単にこちらの意図した答えに辿り着けるだろう。
あとはその情報を伯爵様の元へ知らせに行ってもらえれば良い。
でも、これだけでは面白くない。
あの狂信者どもに嫌がらせをするならば、徹底的にやらないとな。
この嫌がらせにも一工夫いる。
元の世界なら警察やら国家権力に密告すれば、テロリストとして処理してもらえるだろうが、こっちの世界ではそう簡単にはいかない。
仮に大量の武器を隠し持っていたとしても、それだけではテロリスト認定はされないのだ。
なんせコッチの世界は個人が普通に武器を携帯しているアブナイ世界だ。
相当な証拠でもない限りは無罪放免となってしまう。
そこで考えた結果…。とあるグループの皆さんに出張ってもらおう。
そのグループの皆さんとは、ここモルドバの裏を取り仕切っているマフィアの皆さんだ。
彼等には敵対勢力が秘密裏に勢力拡大を狙っているよ!的な情報を流すつもりだ。
そうすれば、遅かれ早かれ敵を潰そうと動き出すだろう。
んで、抗争が始まった時点でモルドバの警備兵さん達に御登場願って頂き、一網打尽にしてもらうって寸法だ。
どうよ?この完璧な嫌がらせは!
上手くいけば、国際問題に発展してどこぞの宗教国家に釘の一本でも刺せるはず。
まあ、問題になり過ぎて戦争にならないように願うばかりではあるんだけどね。
てな事で翌日、俺は月影部隊を4チームに分けて行動を開始した。
チームの編成は狂信者共の監視に1体。
マーティンさんへの情報提供に3体。
狂信者の後続部隊の捜索に4体。
マフィアへの偽情報提供には2体、とした。
それで俺の行動なんだけども、いつもの通りレッドさんの所へ直行。
これは現在の状況説明をする為だ。
「……てなわけで、レッドさんには迷惑が掛からないように出来るだけの対処はしてるんだけどもさぁ〜」
と、今までに掴んだ情報をレッドさんに説明した。
「なんせタイミングが微妙に難しいんで、最悪の場合この洞窟に変な連中がやって来る可能性が無きにしもあらずって感じなんだよね〜」
まあ、レッドさんなら狂信者御一行様が雪崩れ込んで来たとしても、強力なドラゴンブレスの一吹きで解決出来るはず。
だからと言って、レッドさんに「適当にヤっちゃって下さい」とは言い難い。
「なんか、俺等人間のいざこざに巻き込んじゃってゴメン……」
と、素直に謝った。
「ユウキよ…。なぜお前が謝る?この事はお前が仕出かした事ではなかろう」
「でもさぁ……騒音を増やしてるのは、確実に俺等人間なわけだし……」
「お前はその騒音対策をしておるのだろう?ならば謝罪は不要だ」
レッドさんはそう言ってくれているが、どうにも気が収まらないんだよね。
「しかし…、その狂信者共はなんでガラクタなんぞ狙っておるのだ?」
レッドさんの気遣いだろうか?狂信者の狙いに話を変えてくる。
「なんかね、あのガラクタが英雄たちの遺産だとか言ってたよ」
「遺産?売り物にもならないゴミがか?」
「まあ、レッドさんにとってはゴミかもしれんけどさ。アイツ等にとっては輝かしい英雄たちの残したお宝なんだよ」
「ふ〜ん……理解できんな……。だが、ゴミとは言えタダでくれてやるのも癪だ」
「んじゃ、どうするの?ここにお宝がある限り似た様な輩は何度でも来るよ」
「湧いて出てくる害虫どもを一々潰すのも面倒だからな。簡単な対処法でいこう」
「簡単な対処法?」
「ああ、至極簡単な対処法だ」
「それは?」
「引っ越す!!」
「へ?引っ越しするの?」
「ああ、ここに越してきたのも300年ほど前だからな。そろそろ飽きてきたし丁度よかろう」
「んまあ、レッドさんが引っ越すって言うなら止めはしないけどさ。大丈夫なの?勝手に引っ越しちゃっても……」
「別に許可など必要ない。私の管轄はこの星の東半球だからな。その管轄範囲ならどこに拠点を構えても良い事になっているのだ」
「へぇ〜そうなんだ。じゃ、引っ越し先が決まったら連絡が欲しいな。もっといろんな事を聞きたいし……」
「いや、もう引っ越し先は決めているぞ」
「え?そうなの?ずいぶんと簡単に決めちゃうんだねぇ。で、どこに越すの?」
「うむ、ユウキがいるアサイ村に引っ越す事にする。荷物はお前に預けるから仕事が済んだら持って来てくれ。頼んだぞ」
「ふ〜んアサイ村に引っ越すんだ。それじゃ今度はお隣さんだね……。って!!なるかーー!!いきなりドラゴンがアサイ村に来たらパニックになるわ!!」
「慌てるな。この姿のままで村に行くわけなかろう」
そう言うとレッドさんの身体が輝き出し人の姿に変化していく。
光が収まるとそこには、黒いスーツ赤いシャツ、赤毛のイケメンが立っていた。
「人化の魔法か……」
そう俺は呟いたが、それをレッドさんは否定した。
「いや、この世界に人化の魔法は存在しない。これは私のもう一つの姿だ」
レッドさんが言うには、レッドさんの身体は神様版のアバターらしい。
なので、レッドさん達の本体というか魂みたいな存在はこの世界には存在せず、別の次元にあるんだとか、だから神獣たちは不死の存在としていられるんだと。
「というわけだ。私はのんびりと旅を楽しみながらアサイ村に向かうからな」
「え?ちょっ、ちょっと!レッドさん!?」
「そう言えば、害虫共が来るやもしれんのだったな。少し嫌がらせをしておくか」
レッドさんはそう言って洞窟の天井に向けてパチンと指を弾いた。
「これでクズ共には鉄槌が下るだろう。ではユウキ、後は頼んだぞ」
そう言い残して、レッドさんはスタスタと振り返りもせずに洞窟を出て行ってしまった。
残された俺は黙って後片づけを始めるのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
不定期更新で、のんびり進めていきます。
作品を読んで面白いと思われたら、評価&ブックマークをお願いします。




