第197話・魔法集めをしよう
さて、久しぶりに魔法集めといこう。
ここ荒野での魔法集めは亜竜の代表格『地竜』だ。
このアースドラゴンには2種類いる。
魔法を使うヤツと使わないヤツ。でも、どちらも火を吹く。
ご想像の通り、魔法を使うヤツは炎の魔法を使うんだけども、使わないヤツは「火」というか、正確には高温の水蒸気を吐くんだわな。
前の世界でも高温の水蒸気を噴射する生き物は存在した。
ゴミムシの類の甲虫で通称『ヘッピリムシ』とか言われてた。
この甲虫は過酸化水素とヒドロキノンの反応によって生成した、水蒸気とベンゾキノンから成る100℃以上の気体を爆発的に噴射する事が知られている。
で、魔法を使わない方のアースドラゴンもこの甲虫と似た様な科学反応の水蒸気を吐く。口内に特殊な噴出機構があって、敵に攻撃されると、『クチカラファイヤー』ってしてくるんだわな。
ぶっちゃけ、魔法より厄介だったりもする。
魔法だったら、強力な結界でも張っておけば防ぎようもあるんだけど、『クチカラファイヤー』の方は純粋な物理攻撃なんで対魔法結界じゃ防げない。
まあ、魔法の方も強力なんでショボい結界だと結界ごと逝かれちゃうので、どっちも厄介な代物ではあるんだけどね。
じゃ、この2種類を見分ければイイじゃんって事になるんだけど、それが簡単にはいかないのよ。正直、外見だけじゃほとんど区別がつかないの。
それがアースドラゴンの難易度を上げている一因にもなっている。
だけども俺には強い味方のレーダー機能がある。
検索をかければ物理か魔法か、すぐにわかる。
そんなわけで、今回もレーダー機能頼りで事を進めていこう。
まずはレーダーを見ながら目的の地竜を探し求めて、あっちへフラフラこっちへフラフラと荒野を彷徨う。
小一時間も彷徨っただろうか?漸く目的の地竜を発見した。
そして、検索機能で判別すると運良く魔法を使うヤツだった。
超ラッキー!!正直、探して歩くのに飽きてきたところだったんだよね。
てか、個体数が少な過ぎやしませんか?ての!
ここらにいるのはアナネズミとマッド・イーターばかりだ。
それとも種別の生息域でもあるのかな?
ちゃんと下調べをやっておくんだった。
と、後悔しても始まらない。今は魔法集めに集中しよう。
「さて、まずはあの竜をどうやって怒らせるかだ…」
目標の地竜は体長3mほどの大きさ。
今は寝ているのか、じっとしている。
いくらギルドの分類がザックリしているとは言え、一応は『竜』なんだからその防御力はボスクラス。
生半可な攻撃など感じもしないだろう。だからと言ってDELSON無双をかますとなると逆に瞬殺しかねない。
「加減が大事ってことか…」
とにかく、コイツを起こさないと始まらない。
まずは、拳大の石をぶつけて起こしてみよう。
頭を狙って時速150kmくらいで撃ち出してみるかな。
人間相手なら当たれば即死だろうけど、今回はボスキャラのドラゴンだから大丈夫だろう。
ドン!!と一発。狙い違わず石がドラゴンの頭に直撃する。
当たった石はバキッと砕けた!!
だけど、それだけだった。
ピクリとも反応しない。死んでるのか?と思ったけど息はしてるからたぶん寝ているのだろう。
「こ、これがボスキャラの防御力か…」
などと感心ばかりもしてはいられない。
さて、どうしたものか?このまま小石をぶつけていても効果はないし、かと言って大質量をぶつけて逃げられたり、殺しちゃったりしたら今までの苦労が水の泡だ。
思っていたより難易度が高いゾ!このミッションは…。
などと、考えていると、ドラゴンが目を覚ました。
二股に分かれた舌をチロチロと出し入れしながら周囲を伺っている。
少し警戒したけど、ステルス機能は起動中なので俺に気づいているはずはない。
このドラゴンは何をキョロキョロとしているのだろう?と、ヤツの視線を辿ってみると、100mほど離れた丘の上に何かがいた。
それはアナネズミだった。体長は1mほど、良い感じに肥えている。
「ああ、アイツを狙っているのか…」
そう呟いた時、ドラゴンがすっくと立ち上がり、一気にアナネズミに向かって走りだした。
「うわっ!!危ねぇーー!!」
危うく地竜に踏み潰されそうになるところを必死に避けた。
地竜があれほど早く走るとは知らなかった。
アナネズミを襲い、ソイツを一口で丸飲みすると地竜勢いそのまま走り去ってしまう。
俺は、その光景を呆然と眺めている事しか出来なかった。
こうして、趣味の魔法集めは失敗に終わるのだった。




