第193話・仕事仲間
どうにかこうにか到着しました。ここは荒野の町『モルドバ』です。
遠かったぁ〜。徒歩七日って拷問かよ?
まあ、途中で親切な行商人の荷馬車に便乗させてもらえたのはラッキーだった。
いろいろと情報収集もできたし、行商人さんの御厚意でちょっと値の張るお酒を友達価格で購入できた。
んで、町に入って一番に向かうのは『冒険者ギルド』。
名目上、ここへは出稼ぎに来ている事になってるからね。
長期滞在用にギルド所有の宿泊施設を借りようと思ったからだ。
ついでにドラゴン関係の情報とか、町の噂話なんかも聞いておきたいしね。
でだ、この地のギルド所有の宿泊施設なんだけどぉ……。
お金持ちは違いますなぁ。ちゃんとランクがありますよ。
上・中・下の三つのランクです。
家賃は上は月に銀貨15〜20枚、中は10枚前後、下は5枚となっている。
ヤドラムよりお高めだけど、造りが違う。最低ランクのヤツでも二部屋は当たり前だしユニットバスじゃなくて風呂・トイレは別だし、ヤドラムのワンルームなんかよりも確実に広い。
最高級のヤツなんて庭にプール付きだよ。レベルが段違いです。
しかも、この荒野にはいたるところで温泉が湧いてるんだわ。
だから、どの施設もお風呂は源泉かけ流し。町には無料の公衆浴場まである。
井戸を掘ると水じゃなくて、温泉が湧くってレベルらしい。
だもんで、水の方が貴重なの。
だから、ここでは水はコップ一杯でも有料なんだよね。
温泉を利用した水の蒸留施設があって、そこから生活用水とか飲料水が供給しているんだとか。
そんなこんなで、とりあえずは最低ランクの宿泊施設を借りることができました。
場所はギルドから少し離れてるけど平屋建てのタイプです。
「うわぁ〜。すっげぇ広々……」
開口一番、出てきた台詞がこれです。
だってさ、リビングなんて十畳くらいあるんだよ。
1LDKってヤツ?これで家賃が月に銀貨5枚って安いわぁ〜。
正直、事故物件なんじゃね?って疑うレベルだもん。
一応、うちのアンデット達に確認はしたけど、大丈夫ってお墨付きをもらった。
んで、これからの行動なんだけども……。
指定されているんだわ。これから数日の間は出稼ぎ冒険者として行動する事になっている。どうも尾行を警戒してのことらしい。
で、安全が確認できた時点で伯爵様の諜報員から接触してくるってお話だ。
それならば、今日はのんびりとモルドバの町を散策して仕事は明日からって事にした。
それから三日ほどは荒野に出て体長1mほどのネズミやトカゲを狩ったり、肉食のダチョウみたいなヤツのタマゴを取ったりして小銭を稼いだ。
そして、その日の夕方。ギルド近くの食堂で夕飯を食べていると背後から声を掛けられた。
「兄ちゃん、ここらじゃ見ない顔だね…。出稼ぎかい?」
それは指示された合言葉だった。
「ああ、ドラゴンで一発当てようと思ってね」
と、こちらも合言葉を返し、相手の人相を確認する。
「よっ!久しぶり」
そこに居たのは一緒に昇級試験を受けたマーティンさんだった。
「え?…。ああ…お久しぶりです……」
少し驚いていると、マーティンさんはチラっと周囲を確認してから小声で言ってきた。
「悪いがメシが済んだら河岸を変えるぞ」
俺はその言葉に従い、そそくさとメシを済まてマーティンさんと一緒に外に出た。
マーティンさんに案内されて入ったのはちょっとお高めのバーみたいなお店。
個室を取ってあるらしく、すぐに店員さんに案内された。
通された個室には先客が二人、冒険者風にしてはいるが纏った雰囲気が別物だ。
「紹介を先に済まそう。コイツが俺の言っていたユウキだ」
「はじめまして、ユウキと言います。Dランクです」
そう先客の二人に挨拶をする。
「わたしはクリスティ。スカウトでCランクよ。よろしく」
と、軽装備の女性冒険者が挨拶を返してくれた。
「俺はターナー。剣士で、同じくCランクだ」
こちらはガタイが良い男性冒険者。
正直、どちらも怪しい。
そう感じて、つい疑わしい目を向けてしまった。
「はは。やっぱりオマエは騙せんか」
と、マーティンさんが頭をボリボリ掻きながら苦笑している。
「そりゃぁね。こんな小ざっぱりした冒険者なんていませんもの。二人供、騎士かなんかでしょ?」
「上手く化けたつもりなんだがな…」
とターナーさんも苦笑している。
「二人供、装備が綺麗すぎるんですよ。特にクリスティさんはスカウトでしょ?せめてブーツは中古にしておかないと…。歩くと足音が響きますよ」
基本的にスカウトなんてやってる人はブーツの靴底をわざわざ柔らかい素材を使って防音するほど気を使うんだ。
それを新品のしかも堅そうな靴底のブーツなんてスカウト失格だ。
「な、言った通りだろう?コイツは案外、目端が利くんだよ」
「ああ。そうだね」
「うむ。マーティンが推薦するだけの事はありそうだな」
どうやら、俺はテストに合格したようだ。
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