第189話・トップの安全こそ重要です
アサイ村の麦刈りもほぼ終わり、今年も出稼ぎの時期になった。
しかも、今回は生徒達が実地訓練として出稼ぎに参加するという事なので、村の秋祭りがちょっとだけ豪華に行われた。
ついでに言うと、アドルさんの奥さんジェシカさんの出産祝いも兼ねていたりするんだよね。
更に追加情報としてお子さんは女の子、お名前は「ミーア」ちゃん。
ほっぺがプクプクの可愛い子でした。
秋祭りの二日後、出稼ぎの第一陣と共に生徒達と指導員の三人が村を出立する。
その内の一台の荷馬車に、俺も同乗させてもらいヤドラムへと向かった。
ヤドラムに到着するとみんなはギルドに直行、生徒達は冒険者登録をする事になっている。
俺はみんなとは別行動、直接クララ様の屋敷に向かう。
辺境伯様からの指示書があるそうで、それの受け取るついでに漸く完成したクララ様護衛用の自動鎧を渡しに行くためだ。
「お久しぶりです。アルフレッドさん」
「お待ちしておりました。ユウキ様、お嬢様がお待ちですのでこちらに……」
執事のアルフレッドさんが出迎えてくれ、クララ様の待つ部屋へと案内された。
通されたのは中庭に面したサンルーム、クララ様はそこで優雅にお茶を楽しんでおられる。
いや〜流石は貴族の御令嬢、その姿はまるで一幅の絵のようだ。
「失礼いたします。お嬢様、ユウキ様をご案内いたしました」
「ありがとう。あとはこちらでやりますから、下がってください」
クララ様がそう告げると、アルフレッドさんは一礼して部屋を出ていった。
そして、人払いが済むとクララ様は俺に席を勧めた。
「ご足労をかけて、すみません」
と、クララ様自らお茶を入れてくれる。
「いいえ、こちらもついでがありましたので……。しかし、指示書の受け渡し程度ならラムちゃんの所でも良かったのでは?」
「それでも良かったのですが…。まあ、『様式美』ということで…」
「『様式美』ですか…それなら仕方ありませんね」
そんな事を言いつつ「こちらを…」とクララ様が指示書を渡してきた。
指示書には、これからの俺の行動やら合言葉などが記されている。
そして、読み終えるとクララ様は指示書をそれを焼却する。
「言伝でも良かったのでは?」
と聞いてみると「これも『様式美』です」と笑顔で答えてくれた。
貴族にはいろいろと『こだわり』があるようだ。
まあ、『こだわり』云々は華麗にスルーして、これからの行動が決定した。
俺は明日にでもモルドバへ出発して、いろいろと仕事をしなきゃならない。
なので、さっさと『ついで』をやっつけてしまおう。
「あの、ついでの事なのですが…」
と、切り出した。
「ええ、何でしょう?」
「前に言っていましたクララ様の護衛用自動鎧が完成しましたので、その納品をと思いまして…」
「ああ、あれが完成したのですね。では、すぐにアルフに言って設置してもらいましょう」
そう言うとクララ様はテーブルに置いてある呼び鈴を鳴らす。
「お嬢様、御用で御座いますか?」
と、すぐさま現れるアルフレッドさん。
いやぁ、流石は敏腕執事だわ。忍者みたいに出現したよ。
「アルフ、例のモノが出来たそうです。設置場所にご案内して差し上げて」
「はい。承知いたしました。では、ユウキ様、こちらへ…」
何ともスムーズなやり取りですな。貴族とその執事のやり取りってのは…。
んで、俺はアルフレッドさんの後に付いて設置場所に移動。
設置場所は玄関ホール、クララ様の私室入り口、ダンスホールの三ヶ所。
贅沢を言えば、後二〜三ヶ所は設置したいが何せ目立つモノなんで最低限にした。
ちなみに護衛用自動鎧の見た目なんだけど…。
体高2m50cmと少々大柄に出来ている。
デザイン的には少し古めの厳ついデザインで、色は銀色。
ホントは『早期警戒型』とか『中距離支援砲撃型』とか『高機動型』とかにしたかったんけど、デザイン画の時点でダメ出しを食らい、今の形に落ち着いた。
あまり派手なモノだと、高位の貴族に知られた時に持ってかれちゃう事があるんだってさ。わがままな貴族も居るもんだね。
まあ、緊急時にはこの自動鎧の中にクララ様と他二人を収納して安全圏に逃げる事が出来るようにしてあるし、待機中は監視機能が働いているので不審者が近づいてもすぐに対応出来るようにもしてある。
これでクララ様の安全マージンがより一層広がったって事になる訳だわな。
いろいろとキナ臭い事が起こりつつある今日この頃だ。
下っ端の俺が自由に動けるようにトップの安全には気を配る事にしよう。




