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第185話・討伐は罪悪感とともに……


「じゃ、決まりだな」


ダルトンさんの一言で討伐方法が決まる。


「で?問題は誰がこの仕事をやるか?だが……」


いくら今回の討伐が楽になったからと言って、寝ている相手に止めを刺すってのは少々気が引ける。


だけど、誰かがその役をやらないといけない。


ダルトンさんは黙って俺の事を見ている。


「俺っすか……?」


「まさか、こんな鬼畜な仕事を女性陣にやらせるわけにはいかんだろう?」


ええ〜俺なの?俺じゃなきゃダメなの?


そう思って女性陣を見ると「これはアンタの仕事よ」って目で訴えている。


ここで「イヤだ」と言っても無駄なのもわかっている。


「はぁ……、わかりました。やりゃあイイんでしょ?やりゃあ…」


俺はため息をついて、準備に取り掛かった。


と言っても大した準備じゃない。

前に使ったパイルバンカー用の鉄棒で充分事足りる。


もっと派手に演出しても良いんだが、見学の冒険者の皆さんは、寝込みを襲う事がわかった時点で早々に帰っていっている。


まあ、そうだわな。皆さんは二級危険魔導具の実戦試験を見たかったんだから、実戦試験が無いとわかれば、ここに長居する理由もない。

それでも一部の冒険者達は残っていて、討伐後にダンジョンの変化が起こるかどうかを見極めようとしているようだ。


「過去に階層ボスの複数回討伐後に、次の階層への階段が出現した事があったからな。ヤツ等はそれを狙って残ってるんだろう」


とはダルトンさんのお話だ。

事実、数組のパーティが階段目当てで、この階層を周回している。


「んじゃ、さっさと片付けましょうかねぇ」


そう言いながら俺はひっくり返っているオルトロスに静かに近づいていった。


オルトロスの被毛は鉄剣程度じゃ切れないほど丈夫だ。しかも、その被毛の弾力で衝撃も吸収されてしまう。

いざ戦いになれば厄介なんだけど、無敵じゃない。

被毛の流れに沿って斬撃を与えれば攻撃は通るし、弓矢や槍で突くような『点』の攻撃も有効だし、魔法なんかも有効だ。

被毛さえ避ければ、皮膚自体は普通に柔らかい。

それさえ理解出来ていれば、あとは簡単だ。


俺はオルトロスに登り、胸の部分の被毛を掻き分ける。

皮膚が見えたら、そこを狙ってパイルバンカーを撃ち出すだけ……。


ちらっと、オルトロスの寝顔が見えた。油断しまくってマヌケ面を晒している。


「すまんな…、これもラムちゃんの為なんだ。一気に逝かせてやるから、怨むなら俺だけを怨めよ…」


そう、小声で話し掛けると、DELSONのモーターが静かに唸りだした。

この空気を読んだのか?DELSONの精神作用が俺の心を凍りつかせる。


「南無三…」


引き金を引いた瞬間、軽い衝撃が走った。

DELSONから射出された鉄杭がオルトロスの心臓を貫く。


「ギャっ!……」


と、小さな叫び声を上げオルトロスに死の痙攣が襲う。

俺はそれが耐えられず、すぐさま二度目の引き金を引いた。

鉄杭にほんの一瞬電撃を流したのだ。


次の瞬間、オルトロスは絶命した……。


周囲に何とも言えない空気が流れる。


「ご苦労さん」


ダルトンさんが気遣ってか、軽い感じで労い声を掛けてくれた。


その時だ。ゴゴゴゴぉーと低く地響き様な音が鳴り、地震の様な揺れを感じた。


「ダ…ダンジョンが揺れたぞ!!」


「やっぱり、複数回討伐が鍵だったんだ!」


「次の階層が開くぞ!階段だ!階段を探せ!!」


居残り組の冒険者達が騒ぎ出す。

そして、あれよあれよと言う間に、ほとんどの者が階段探しへと散って行った。

残されたのは、俺達『紅の風』とダルトンさん、そしてギルドの雇われさん達が数名だけ……。


流石は冒険者というところか。数舜前の重い空気が一気に消え、突然に階段発見の功績争いが勃発した。


「え…え〜と……。俺の抱えた罪悪感はどうしたらイイの?」


「さあ〜な。そいつは、自分で処理してくれ。こっちは、この人数でオルトロスの処理をしなきゃならんのだ。素材をスライムに溶かされる前にやらないといかんからな。感傷に浸ってるヒマなんぞ無いんだよ」


稼ぎを出せる時はトコトン稼ぐ、それが冒険者だ。

伊達に命を張ってるわけじゃない。

感傷に浸るのは何時でも出来る。

そんなヒマがあるなら、牙の一つでも抜いて確実に稼ぎにしないといけないのだ。


ある意味、今回の討伐は冒険者の神髄を見た気がした。


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