第176話・準備しております。
用事を済ませ、日暮れ前に宿に帰ってきた。
宿に併設している食堂に入ると、女子チームの三人がのんびりとお茶をしている。
「ようやく復活しましたね」
そう声をかけて俺も彼女たちに合流した。
「悪いわね…。ユウキだけに任せちゃって……」
そうルキアさんが謝ってくるけど、動ける人間が俺しかいないのだから仕方のないことだ。
「いえ、良いんですよ。みんな辛そうだし…。ああ、良い物が有ったんでついでに買ってきました」
どうぞ…と出したのは痛み止めの塗り薬。元の世界にも有った筋肉痛にも効くアレと似たような薬だ。
「助かるわ〜。ありがとう」
「これを塗って、明日には動けるようになって下さいね」
了解〜って、やる気のない返事がみんなから返ってきた。
ホントに大丈夫なのかね?この人たちは…。
翌朝、流石に薬が効いたのか?みんなが時間通りに朝食の席についた。
そして、朝食を摂りながら打ち合わせ。
今日は二手に分かれて行動する。
ルキアさんとマリアさんは街に出て物資の買い出し。
俺とユーノさんはギルドに出向いて判定する魔導具を確認してもらう事になった。
「んで、判定用の魔導具はどれくらいにします?」
「え〜と…。私が作ったのが4個とユウキ君のが6個でお願い」
「了解です。で、二級判定のは?」
「私のが全部とユウキ君の2個。残りの4個は不合格品。資料にチェックしたヤツを用意しておいてちょうだい」
「しかし、30個近くも作ったのに6個しか判定してもらえないのは、ちょっと悔しいなぁ」
「時間的って理由もあるけど、あなたの作ったヤツの大半は強力過ぎて封印決定なんだからね」
「え〜?控えめな性能にしたんだけどなぁ〜」
「あのねぇ〜。一撃で城壁を吹き飛ばす様なモノを控えめな性能とか言うんじゃありません」
「でも、似たの様な兵器ってありますよね?」
「それを人が携帯出来るほど小型軽量化しちゃダメでしょ!」
ユーノさんが言う事には、一般兵を勇者の様にしてはいけないんだそうだ。
言われてみれば納得だ。大勢の勇者同士が戦争したら世界が滅んじゃうものね。
そんなこんなで打ち合わせが終わり、行動開始。
ルキアさんとマリアさんは買い物へ、俺とユーノさんはギルドに向かった。
「さて、今回の判定品を見せてくれ」
ギルマスのロドリゴさんが催促する。
ここはギルドの会議室、俺は言われた通りに大きなテーブルに魔導具を並べていった。
魔導具の種類は杖タイプが5本、剣タイプが2本、鎚タイプが1本、手甲タイプが1式、その他が1個となっている。
まあ、ロドリゴさんには内緒だが、すでに二級判定品は決定済という偽判定試験。
すべてに関して、「普通」を装うって気を遣うねぇ。
「判定後はすべてをギルドにお預けします」
ユーノさんが書類にサインをしながら言う。
判定後、魔導具はオークションに掛けられ、売上の一部をギルドと領主様に収める事になっている。
ユーノさん曰く、二級危険魔導具をオークションに掛けるとびっくりするほど良い値段が付くのだそうだ。
「正直、オーダーメイドの注文を受けるより儲かる事があるのよねぇ」
と言っていた。そりゃ、ユーノさんの場合はブランドってのがあるからだろう。
俺みたいな無名のヤツじゃ、大した値段は付かないと思うんだけどね。
まあ、赤字にならない程度の値段にはなってほしいものだ。
「そうそう、判定試験の時にギャラリーがそこそこ来るから、粗相のないように」
と、ロドリゴさんから注意を受けた。
「判定試験なんて見物して何が面白いんだろう?」
「あ?楽しみで見物するヤツなんていねぇ〜よ。全員、商人から依頼を受けて魔導具の詳細を記録するんだよ」
「ああ〜納得。そのデータでオークションの値段を決めるのか…」
「そういう事だ。言わばお客様なんだから、ちゃんと売り込みをしておいた方が得だぞ」
ダンジョン内とは言え、判定試験を公開するなんて事は滅多に無い。
試験の内容やら威力。魔法発動時の見栄えなんて情報がオークション前にわかれば値段や誰が購入しそうか?なんて事の判断材料になる。
「今度のオークションは盛り上がるかもしれんな」
と、ロドリゴさんも期待しているようだ。
値段が上がれば、ギルドの取り分も増えるものね。
ならば、俺も頑張って売り込みを掛けてみましょうかね。




