第174話・普通とはキツいモノで……
オルトロス討伐の承認を得てから一週間ほど経った。
あれから、如何に俺達のパーティが普通っぽくダンジョンの攻略をするのかを議論した。結果は以下の通りである。
*オルトロス討伐にはすぐに向かわず、途中で魔導具の判定を熟す。
*その為、第七階層への到着は四泊五日を予定。
*七階層に到着後、オルトロス戦準備のために一泊する。
*野営は俺のストレージ等が周知されているので、コンテナハウスを使用。
*オルトロス討伐自体は判定で使用した第二級危険魔導具を使用し敵を圧倒する。
*オルトロス討伐後は余裕を持って一泊。
*帰りは最短ルートを取り、一泊二日で帰還する。
こんな感じだ。
ヤドラムではダンジョンでの準備もあるので五泊ほどする予定だ。
なんのかんので、全工程で半月ほど掛かる。
ぶっちゃけ、非常に面倒くさいイベントである。
「秘密裡にやれば日帰りで済んだのに……」
「文句言わないのぉ〜。突然に階段が出現した感じになっちゃったら変でしょ?」
まあ、ルキアさんのいう事もわかるけどさぁ〜。
「ダンジョン内で変な現象が起こったら、それこそ魔法学会の連中が出しゃばってくるわよ?」
う〜む……それはそれでもっと面倒か……。
権威に漬け込む隙を与えないようにしないといけないんだなぁ……。
下手にダンジョン内で前例のない現象が起きたら、魔法学会が調査を口実にしゃしゃり出てくるに違いない。
そうならないように、出来るだけ普通っぽく階段の出現条件をクリアしないといけないんだな。
「でも、オルトロス討伐が階段の出現条件なら前回、前々回の討伐で階段は出現してるって事にならないですかね?」
そう疑問をぶつけると、ルキアさんが答えてくれた。
「そこの所は調べがついてるわ。魔法学会の記録によると階層ボスを複数回討伐した後に階段が出現したって例が少なからずあるのよ。それに討伐対象の近くに階段が出現しなかった例もあるし、複数の階段が同時に出現した例もあるからね」
流石はCランク冒険者。ちゃんと調べてたのね。
「じゃあ、なんでヤドラムのギルドはもう一度オルトロスの討伐を実行しなかったんでしょうか?」
前例があるなら階段の出現を賭けて討伐をやって然るべきだと思うんだけど…。
「それは簡単、ヤドラムのダンジョンじゃ討伐しても儲けが出ないから」
ルキアさんによれば、ヤドラムのダンジョン程度の儲けでは採算がギリギリなのだそうだ。もう少しダンジョンモンスターの質が上がっていれば、討伐が実施されていたはずとの事だった。
「でも、あのダンジョンを飢餓状態にしてしまってモンスターの質が上がらなかった…。だから、賭けにも出ずに細々と運営する事になったってことですか?」
「そういう事。私達もラムちゃんの状況を知らなければ、何十年後かにはダンジョンを餓死させて元の辺境の片田舎に戻ってたのよ。そう考えれば、ユウキがやったスライム牧場はこの地域の命を救ったって事になるわね」
ああ〜そうなんだぁ〜。俺のやった事って案外スゴかったんだねぇ〜。
全然、実感はないけど…。
そしてほどなく、俺達はオルトロス討伐に向けてヤドラムに向かう事になった。
ヤドラムには知り合いの商人の荷馬車に便乗させてもらう事になった。
もう既に村を出立する瞬間から俺達の『普通を装う演技』が始まっているのだ。
「普通って…思ってた以上にキツい事だったのねぇ…」
荷馬車にガタガタと揺られてほんの数時間でユーノさんが音を上げた。
腰をトントン叩いてマッサージをしている。
まあ、普段ラムちゃんの所に行く時はリクライニングシートに寝そべって、本を読んだりお茶を飲んだりしながら優雅に行ってたから、この荷馬車の揺れはキツかろう。
「ホント…。贅沢って覚えちゃダメねぇ。このガタガタはかなりのダメージよ」
と、ルキアさんも辛そうだ。マリアさんに至っては、すでにギブアップ状態でグったりしている。
だってさぁ、この荷馬車ってサスペンションもショックアブソーバーも付いてないんだよ…。てか、この世界自体にそんなモノないんだけど…。
唯一、それっぽいのが付いていたのはクララ様が乗ってた馬車の板バネ式のショボイやつだった。
「こんな事ならもっと早くに新アイテムを開発しておくんだった…」
そんな俺もグロッキー状態でこんな呟きが出てくる。
この状態があと三日も続くって地獄だわ…。
「ねぇ…ユウキ…。なんとかならないの?」
ルキアさんにそんな事を言われても無理だ。
まさか、ここでこの荷馬車を魔改造するわけにもいかない。
「無理っす…。せめてフカフカのクッションでも持って来てれば……」
う〜む。今度は衝撃吸収装置付のクッションでも開発しようかな……。




